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第21話 黒き雷光


封じられた力を解放した左手からは、力の奔流を物語るかのようなバチバチと鳴る稲妻が唸りを上げていた。


「例えどんなに優れた魔法でも、神具の前では無力だ」


左手から込み上げる力に、体全体が順応してゆくジュラフォード。


深く息を吸って呼吸をひとつ整えると、左手を天高く翳した。


まるで吸い上げられるかのように手を染め上げていた黒が体から抜けていく。


それはさながら雲のようで、掴むことも触れることも出来ないような不思議な物質だった。


そして、体から抜けた〝黒〟はジュラフォードの頭上で雷鳴を轟かせながら形を変えていった。



バチッバチバチバチッッ──!



激しい閃光を纏うそれは、まるで意思を持つ生き物のように蠢いた。


雷鳴が鎮まると、それはジュラフォードの目の前へ〝漆黒の剣〟へと姿を変え、ゆっくりと降りた。


「久しぶりだな…… 〝帝剣〟」


神具のひとつ、帝剣。


手によく馴染む感覚を久し振りに確かめながら、左手で握り締めた。


帝剣を手にした途端に、視界を渦巻いていた煙霧は消え去り、ジュラフォードの視界はクリアになっていった。


結界の効果によって麻痺させられていた感覚も正常を取り戻す。


「これが邪を祓う力だ」


神具のもたらす絶対の力により、おぞましき幻術魔法が掻き消された。


そして、透明な結界の向こうでは、今まさにサキュバスがメルマドゥナにトドメを刺そうとしていた。


「待っていろ……」


ジュラフォードは左手の帝剣を横一線に振るう。


パリィンと、ガラスが割れたときのような、耳をつんざく破裂音が広間に響いた。


結界を破壊し幻術を破いたジュラフォードが、再び戦線復帰を果たす。


「ジュラフォード様っっ!!!」


「……遅い ……わよ……!」


リリアフィルとメルマドゥナは安堵の表情を浮かべながらジュラフォードを一心に見つめる。


結界を断ち切った破裂音を耳にしたサキュバスの手がピタリと止まる。


メルマドゥナへの拘束の手を緩めると、静かに首を動かしながら視線を寄せた。


「な、なぜだっ……!?」


サキュバスは目を見開きながら、目の前にいるジュラフォードを見つめる。


その額から冷や汗が込み上げ、ジュラフォードの放つ威圧感とオーラにサキュバスは次第に恐怖を覚えていった。


「な、なんで…… 幻術の効果範囲をあんなにも狭くして威力を強めたというのに……! なんで抜けだせられるのよォォ!!?」


怯えつつも、生存本能からかサキュバスは必死に抵抗する姿勢を見せた。


翼を広げ、メルマドゥナを追い詰めた氷結羽根弾の構えに入った。


しかし──



ザシュュュンンン


「な、な……!?」


それはサキュバスが翼に魔力を込めようとしたその一瞬の出来事だった。


ジュラフォードは気が付いた時にはサキュバスの目の前へと現れており、冷気を纏う翼を斬り落としていた。


翼を斬られたサキュバスはその損傷による負荷と焦りが重なり、とうとう分身を維持出来なくなってしまう。


「ユバと子供達はどこへやった?」


ジュラフォードは、低い声で静かな怒りを滲ませながら問い詰めた。


恐れおののくサキュバスは声を詰まらせ、死が強くよぎる恐怖からその場で尻もちをつく。


「こ、こ、こ……!! 殺さないで!! なんでも言うことを聞くわ!!」


取り乱したサキュバスは必死になって命乞いを始めた。


しかし、ジュラフォードは容赦する気配も見せず、淡々とサキュバスへ詰め寄る。


「一秒でも長く生きたければ俺の質問には全て〝正しく〟答えろ」


帝剣の切っ先をサキュバスの喉元へと突きつける。


サキュバスがごくりと生唾を飲み込む音が鳴った。


「の、残った子供たちは捕らえています……」


「そうか……」


ジュラフォードはさらに切っ先を近づけながら質問を重ねた。


「お前はなぜ俺を知っている? なぜメルマドゥナに擬態していた?」


その鋭い眼光に耐えきれず、サキュバスは視線を逸らしながら答える。


「私たちは、貴方を殺すように設計された〝人工魔獣〟です……。擬態していたのは…… そ、その……」


サキュバスの答えた〝人工魔獣〟という文言に、ジュラフォードの眉が動いた。


言葉を詰まらせつつも、次にサキュバスがメルマドゥナに擬態していた理由を続ける。


「私はメルマドゥナに命を救われた。だから母親のように思っていて…… なのに、なのに……」


サキュバスは悲哀に歪んだ表情を浮かべた。


声を震わせながらも、思いの丈を口にし始めた。


「……メルマドゥナは私たちを捨てた。激しく恨んだわ。だからメルマドゥナに擬態して無茶苦茶にしてやろうって思ったの」


「理由は、それだけか?」


ジュラフォードが訊ねると、サキュバスは静かに頷いた。


「ならば最後に問う。人工魔獣とは誰が造っている? そして俺を付け狙う理由はなんだ? 子供達の誘拐とどう関係している?」


メルマドゥナと相対していた時からは、想像もつかない程に勢いを失うサキュバス。


勝ち目は一切無いと理解しているからか、素直にジュラフォードの最後の問いに答えようとする。


声を震わせながら、囁くように小さく口を動かし始める。


「そ、それは……」



──が、そのときだった。



シュンン……!!



乾いた鋭い音が聞こえたかと思うと、目の前のサキュバスは完全に口を閉ざす。


サキュバスの背後から放たれた硬質の物体が、その首を切り裂いていた。


「………ぅ…ぁ」


宙を舞うサキュバスの首。切り離された自身の肉体を見下ろすサキュバス。



ゴトン……



青い血を撒き散らしたサキュバスの首が床に打ち付けられる。


鈍い音にメルマドゥナとリリアフィルは思わず目を逸らす。


元々壁のあった場所からは、冷たい風が吹き抜ける。


ジュラフォードは微塵も物怖じする様子も見せず気配のする方へと視線を向けた。


そこには、爪を尖らせ、狂気を放つインキュバスが立ちはだかっていた。


「余計なことを喋るな愚図めが……!」


首を裂いた硬質の物体は、インキュバスの爪を変形させたものだと瞬時に理解するジュラフォード。


一歩ずつ距離を詰めるインキュバスに対し、視線を逸らすことなく帝剣を構えた。


「仲間じゃなかったのか?」


ジュラフォードが問うと、インキュバスはニタリと口角を上げた。


「利害が一致していただけだ」


そう返答しながら、ジュラフォードの持つ帝剣に視線を落とす。


帝剣から放たれる威圧的オーラを感じ取っていたのか、しつこく観察を続けていた。


その目線に気がついていたのか、ジュラフォードが投げかけた。


「こいつが気になるか?」


サキュバスが帝剣を一目見て恐れおののいた一方、インキュバスは動じる気配を見せなかった。


「……いいや。そんな棒きれでこの俺に戦うつもりなのかと思っただけだ」


「その棒きれに、二秒と持てばいいがな……」


「威勢が良いなぁ、ジュラフォードォ! てめえを手土産にすりゃあ〝あのお方〟も俺に居場所を与えてくれるはずだ……!!」


インキュバスは狂気に満ちた笑みに瞳を輝かせる。


その言葉を聞き逃さなかったジュラフォードは、すかさず問い返す。


「あのお方とは誰だ?」


「……お前が知る必要はない」


インキュバスが歩調を速めながらジュラフォードへ急接近を始める。


間合いを詰めたところで爪剣を振りかざすと、ジュラフォードは帝剣でそれを受けた。


キィィンと、互いの得物がぶつかり合う残響が耳にこびりつく。


「最後に聞いておこう。お前のせいで聞きそびれたんでな……」


そう言うとジュラフォードは、サキュバスに聞いていた内容と同じ質問を投げ掛けた。


「それを答えるつもりがあるなら、サキュバスを見逃していたさ」


「どうしても隠し通したいわけか……」


「……まあ最も、最初の行動目的こそメルマドゥナを殺すことだったが。こんな無様な姿を見て興が削がれた」


インキュバスはメルマドゥナに一瞬向けていた視線をジュラフォードへ戻すと、さらに続けた。


「あぁ…… そうそう、お仲間のベウニルとやらは虫の息だぜ? 早く救護してやらねえと命はねえかもなぁ?!」


「下衆が……っ!」


ジュラフォードは静かに怒りを滲ませると、インキュバスはそれを不快な挑発で返した。


「生け贄になった新鮮な生命エネルギーをたらふく吸い上げて極限まで強くなったんだ!! お前の方こそ二秒は持たせろよ?」


「生け贄……? 子供たちのことか?!」


「ハハハ! そ。ごちそうさまね」


その言葉をもって、ついにジュラフォードの怒りは限界に達した。


けろ……!」


帝剣からバチバチと雷が迸る。激しい雷鳴を纏い、神々しい輝きを解き放ち始めた──



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