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第13話 泣きぼくろに涙


ジュラフォードの表情からはとうに笑みが消え、精悍な眼差しで魔女を捉えていた。


「あぁ……! いいわね、そういう目で見られるとゾクゾクしちゃう」


「答える気はないってことか…… 認めたも同然だな」


「ねぇ、だとしたらアナタはどうするのかしら……?」


「安い挑発だが乗ってやるか…… 力尽くがお望みのようだからな」


ジュラフォードは剣を投げつけると、剣を囮にし目にも止まらぬ速さで魔女の背後へと回った。


「消えた……!?」


飛び込む剣に気を取られる魔女。


だが、背後からの攻撃を間一髪でバリアを展開し防いでみせた。


それと同時に首をカクンと逸らし、剣を躱す。


真っ直ぐに飛んでいた剣は勢いそのままに砂利の山へと突き刺さった。


「なかなかやるわね…… 私、あなたみたいな強い男は大好きなの…… ふふっ」


魔法で張り巡らされたバリアを更に拡張させる。


両手を前に突き出し、押し退けるかのようにジュラフォードから間合いを確保した。


「あのスピードは見切れないわ…… 常にバリアを張っておくしか対処のしようがないわね」


ひとり言を漏らしながら後退りするものの、その視線はジュラフォードを外さずにいた。


一方のジュラフォードもまた、決して背を見せることなく間合いを取る。


砂利山に突き刺さった得物を拾い上げ、再び剣を構えた。


「そうきたか…… バリアを張ったとあれば生半可な攻撃はきかない……」


数百年ぶりに俗世へと舞い戻ったジュラフォードにとって、これが最初に手応えを感じられた相手だった。


「並大抵の攻撃ならバリアで沈む。だったら……」



ゴゴゴゴゴ……!!!



「ま、まただ……!」


戦いには加わっていないベウニルをも巻き込み、凄まじい衝撃が再び奔る。


しかしそれは、先ほどの倍あるいはそれ以上に膨れ上がっていた。


「な、なんなのよこれ……!」


魔女の表情が一瞬で固まる。


これまでの余裕は消え失せ、その底知れぬ強さをようやく肌身を以て理解した。


唸りを上げる衝動はピタリと止んだ。ベウニルはすぐにそれが何なのかを察した。


目にするのはこれで二度目。激動のあとの静寂は、恐怖そのものだった。


「ちょ、ちょっと待ちなさい! 降参するわ!」


魔女は慌てながらに白旗を挙げる。降参の意思を確かめると、ジュラフォードは一瞬にして力を抜く。


「ふぅ…… なんとか無事でよかった…… あ! そんなこと言ってる場合じゃなかった!」


二人の攻防を傍から見ていたベウニルは、安堵するとともに目撃したサキュバスの存在を思い出す。


ジュラフォードのもとへ小走りに駆け寄ると、ベウニルはサキュバスについて改めて口にした。


「ま、待ってくださいジュラフォードさん! 俺が見たのも確かに〝黒いドレス〟を着ていたけど、尻尾があった! でも魔女にはそれがない!」


「なに……? なぜそれを先に言わなかったんだ?」


「そ、それはその…… 魔女も似たような格好って知らなかったし、それと言いそびれたと言いますか……」


「まぁいい…… だがそれも幻術て可能性もあるよな? だったら本人から直接聞こうじゃないか。もう話す気になったみたいだしな」


そう言いながらジュラフォードは魔女を見つめる。


その場で正座をし、敵意が無いことを表明するように胸元で小さく両手を挙げていた。


得物を鞘に収めると、柔らかな表情で魔女の元へ歩み寄るジュラフォード。


「久しぶりに本気を出せると思ったが、残念だ」


「さ、先ほどはなまいき言ってすみませんでした……ッ!」


「えぇっ!?」


ベウニルは魔女の態度の変わりように思わず驚嘆した。


「そんな真似はよせ。俺はただ普通に話がしたいだけだ」


そういうと、魔女は上目遣いにジュラフォードを見上げた。


「私、決めた。アナタについていくわ……!」


魔女はパチパチと瞬きしながら、潤んだ瞳で懇願するように微笑みかける。


「はぁ……? どういう風の吹き回しだ?」


「さ、さぁ… 俺にもまったく…」


ジュラフォードとベウニルは顔を見合わせ、その変わりように呆れ混じりの困惑を浮かべていた。


「まぁ…… なんであれこれで俺の話は聞いてくれるだろ?」


「えぇ、もちろん。それにあなた達が追ってる子供をさらった〝サキュバス〟に、実は私も少し因縁があるのよ」


魔女のその一言を、ベウニルは聞き逃さなかった。


「じゃあ、アナタはサキュバスじゃない。つまり子供をさらったのもアナタじゃなくてサキュバスだと!」


「そうだけど。てか顔を近付けないでくれるかしら?」


「あっ、すみません……」


ジュラフォードはその場に腰を下ろし座り込む。


それは完全に戦闘モードから対話モードに切り替わっているあかしだった。


「だが解せないのは、なぜ最初からそう言わなかった? あんな反応されたんじゃあ、早合点されても無理ないぞ」


「ごめんなさい…… でも、こんなに強い人初めてで、アナタの実力を確かめたくって」


「まったく、とんだ手間を取らせる魔女だ」


やれやれと言った具合にため息を零すと、ジュラフォードはサキュバスについての話を進めた。


「朧げな幻影だったとは言え、俺が霧の森で見たのは確かにお前に酷似していた。それはなぜだ?」


身の潔白を迫るかのように、サキュバスと魔女の関連性を紐解く質問を投げ掛けた。


「それなのよ、私がサキュバスにムカついてる理由っていうのは!」


そう言いながら憤慨した様子で語気を強める魔女。


ジュラフォードが抱いていた謎に答えを出した。


「あいつ、私に〝擬態〟してるのよ。けどそれはもう本当にヘタクソで! 私はあんな醜女じゃないってのよ!」


「なるほど…… だから似ていたのか……」


「あれ? でも俺が見た時は尻尾があったけど、ジュラフォードさんが見たときは尻尾はなかったんでしょ?」


「あぁそうだ」


「それも三流だから擬態がヘタクソで一定の姿を維持できないのよどうせ! 私なら完璧にできるわ!」


サキュバスと比較することで、自身の魔法使いとしての実力を誇示した。


「つまり、ムラがあるってことですよね。調子良い時はジュラフォードさんが見たやつ、調子悪い時は俺が見たのって感じで」


「だからそう言ってるじゃない」


ジュラフォードとベウニルがともに森のなかで見かけた〝黒いドレス〟のシルエット──


差異はあれど、それは共通してサキュバスが正体と判明。


しかし、ジュラフォードはさらに加えて残る疑問を投げかけた。


「それと、こいつが幻術に掛けられたとき、アンタと俺を混同していた。これも幻術が三流だからか?」


「そうとも言えるけど、幻術の魔法って術者の精神状態が色濃く反映されるの」


魔女は、ほんの少しだけ表情を曇らせながら続けた。


「だから私とアナタがサキュバスにとって強い感情を抱く対象だからなのでしょうね……」


魔女の解説にベウニルは「なるほど」と、納得。


だが、ジュラフォードにはその一言が引っ掛かった。


「おいおい待て、お前は知らんが、俺は面識がないんだぞ? なのになぜ殺意を抱かれてる!?」


「そんなこと言われても…… 私だって知らないわよ」


魔女との出会いによって、ある程度の謎は解き明かされたものの、さらに新たな謎が生まれた。


なぜ一方的に強い感情を抱かれているのか。


再び芽生えた謎に頭を抱えるジュラフォード。


「はぁ…… ダメだ。考えても分からん……」


しばらくジュラフォードが黙り込んでいると、ベウニルがその沈黙を破った。


「それはそうと、ジュラフォードさん! リリアフィルさんのことを」


ジュラフォードは一瞬にして真剣そのものな表情に代わり、魔女に向き直った。


「頼む、俺の仲間を助けてほしい。どのみちサキュバスを討ち破るにも、そいつの力が必要なんだ」


頭頂部の旋毛が見えるほどしっかり頭を下げ頼み込む。


そのとき、それを見ていたベウニルはジュラフォードに意外な一面があるのだと思っていた。


「いいわよ。アナタも頭など下げないで」


「そうか! 恩に着る…… えぇっと……」


ジュラフォードは魔女の名前がなんだったか、ベウニルに耳打ちで訊ねた。


「たしか、メルマドゥナでした」


ベウニルはジュラフォードの耳元で小声で答える。


「メルマドゥナ、だったな?」


「あ、え、えぇ……? まぁ、そ、そうよ……」


名前を出されると、あからさまに挙動不審になる魔女。


「よろしく頼む、メルマドゥナ! 俺の名はジュラフォードだ!」


すると、ジュラフォードたちが予想もしていない出来事が目の前で起こった。


「やっと、やっとだわ……!!」


メルマドゥナの頬を熱いものがなぞる。


潤んだ瞳でジュラフォードを見つめる微笑みには、それまであった怪しさは消えていた。


「お、おい! なぜ泣くんだ!?」


「ぐすっ…… ごめんなさい。久しく誰かから優しい声で名前を呼んで貰ってなかったから…… みんな私のことは魔女魔女魔女って……」


「魔女って言うからてっきりどんな奴かと思ってたが、案外涙もろい人間味のあるやつじゃねぇか」


するとメルマドゥナは、もじもじしつつジュラフォードに頼み込んだ。


「ね、ねぇ…… あなたのこと…… その無比の強さに敬意と愛を込めて、ジュラ様とお呼びしてもいい?」


その予想外の言葉にほんの一瞬、困惑するもののジュラフォードはぶっきらぼうに答える。


「……ふんっ、勝手にしろ」


「もう! そんなにつんつんしないで♡」


「一体なんなんだこいつは……」


思わずメルマドゥナのペースに飲まれそうになるジュラフォード。


「私に出来る事があれば協力するわ、ジュラ様……!」


三つ星の魔女・メルマドゥナ──


自然な笑顔を取り戻した彼女から協力を得る事に成功した。


依然として謎は残るものの、着実に事態は進んでいた。





一方その頃、ユバたちが待つデオリア村では──


「お嬢ちゃん悪いことは言わねぇ! 早く逃げるんだ!」


「だめ! ユバは友達を置いてにげたりしない!」


村人は我先にと高台の丘へと向かっていた。


唯一、村に残っていた大人さえも消えとうとう空っぽとなってしまうデオリア村。


だが、ただ一人だけ勇敢にも残ったのは、まだ年端もいかぬユバだけだった。


「情けない大人たちと違って気が強いのねぇこのコ。気に入ったわ」


「へへ、味見は俺に任せろ」


小刻みに震える小さな手は、昏睡するリリアフィルの手を決して離さない。


ジュラフォードが消えた隙に村を襲ったサキュバスとインキュバスの二人。


〝生贄〟として、ユバもその手に掛けようとしていた──



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