第11話 魔女のもとへ
「ここは一つ協力しないか? その子のことも三つ星の魔女ならどうにか出来る可能性が高い。そして我々も魔女や貴方がたの助けが必要だ」
「……その話は本当なんだろうな?」
ジュラフォードが鋭い眼光を向けてそう言い放つと、村長は素早く応答した。
「あ、あぁ……! 飄々としているが彼女の持つ魔法の知識もその技術も、間違いなく一級品だ。私の命を引き換えにしてでも保証しよう」
そう言い放ったものの、村長自身でも魔女と顔を合わせる手段を持ち合わせてはいなかった。
というより、そんな簡単に魔女に取り入ることが出来たのなら、一連の神隠し事件すらも魔女の協力を得て未然に防げていた。
だが実際には、魔女は村との交流を絶ち、再び取り入ることもままならない状態が続いているのが現状だ。
「三つ星の魔女ねぇ……」
少しばかり意味深長に呟いたジュラフォードは、村長の狙いに勘付いていた。
『おおかた、俺を使って魔女とやらを引きずり出して、あわよくばまた村に引き込もうって魂胆か……』
胸の内で呟く。皮肉にも、その推察は的中していた。
一方の村長もまた、言葉にせずとも、胸の内では打算的な思惑を張り巡らせていた。
『……協力のていで上手く行けば、労せず魔女を再び連れ戻せる…… あいつの力をみすみす逃すわけにはいかん、またとないチャンス…… なんとしても……』
ゴホン……
村長がひとつ咳ばらいをすると、ジュラフォードに答えを迫った。
「さ、さあ…… どうだろう? 他にいまどうにか出来る方法はないんだ。魔女を呼び出すことで手打ちにしないか。その間、この子は責任を持って保護する!」
「……まぁ、いいだろう。乗せられてやる」
「乗せられる……? ハハ…… なんのことかな。ささ、じゃあ魔女の居る場所を……」
ジュラフォードに魂胆を見破られると、冷や汗を流しながら事を急ぐ村長は、懐中コンパスを取り出すとそのコンパスに魔力を込めた。
「なんだそれは?」
「これは魔導コンパスと言って、その人が脳に記憶している場所を魔法でコンパスに写して案内させる道具なんです」
両目を閉じ、コンパスへ意識を集中させる村長に代わってベウニルが答えた。
「便利なもんだ……」
思わずジュラフォードが感心していると、その間にはもう魔女の隠れ家をコンパスへと記録し終えていた。
「さあ、これを」
差し出されたコンパスをジュラフォードが受け取る。
コンパスはほんのりと熱を帯びており、盤面の針はここより北を指していた。
流れるようにコンパスからリリアフィルへと視線を移すと、ジュラフォードは優し気な声色で言葉を投げ掛ける。
「俺がなんとかしてみせる。少し待っていてくれ」
見間違えかあるいは本当にそうだったのか、その言葉を受けるとリリアフィルは昏睡しているというのにわずかに口角が上がったように見えた。
「あ、いま笑ったよ!」
嬉々とするユバにジュラフォードは先ほどと変わらぬ声色で話しかけた。
「お前はここに残って面倒を見てやれるか? 少しの間だがベウニルと二人で行ってくる」
「うんっ! まかせて!!」
健気に笑うユバに微笑み返すと、ベウニルの方へ振り向く。
ユバを背にした途端に、微笑みからキリッとした表情へと一瞬で切り替わる。
それはまるでこの先の戦いに向けた覚悟を暗示しているかのようだった。
そしてベウニルもまた、同じような表情をもって決意を露わにしていた。
「行きましょうジュラフォードさん」
「あぁ、早いとこ終わらせよう」
こうして、ジュラフォードはリリアフィルを昏睡状態から助けるべく、回復の手がかりになるやもしれぬ〝三つ星の魔女〟の捜索へと向かう。
村人にとっても、神隠し事件を起こしたとされるサキュバスを見つけ出し討伐するためには、魔女の力が必要不可欠だった──
*
一方その頃、霧立ち込める森のなか、ひっそりと佇む廃墟と化した館に魔の存在の姿があった。
バチィィィン!!
館の中では、無機質な鞭の炸裂音と、無垢なる子供たちの悲鳴が反響していた。
「もうやめてよ!!」
少女が涙ながらに勇気を振り絞り訴えかける。しかし、非情にもその嘆きはバチンと鳴る鞭の音で掻き消されてしまう。
「うっさいわねぇ……! アタシはいま機嫌が悪いのよ!」
「おい落ち着けよ〝サキュバス〟」
「〝インキュバス〟あなたは黙ってて! アタシの絶対の幻術を解かれた屈辱わかるワケないでしょ!?」
サキュバス、そしてインキュバス──
それぞれ頭部には小さな一角と背中には小さな翼、そして背丈と同じほどの長い尻尾を有している魔獣は、誘拐した子供たちを前に言い争いをしていた。
デオリア村の子供たちは、攫われた理由や目的も分からぬまま、異形たる二匹にただ怯えることしかできない。
「まぁでもよ、ここまで順調なんだ。冷静にならねぇと全てが水の泡になるぜ?」
インキュバスがそう諭すように言うと、サキュバスは我に返ったかのように理性を取り戻した。
「あぁん、もぅ~! ごめんねぇ、坊やたち! お姉サンほんとは怖い人じゃないんだからねぇ~!」
「いや、どう見ても人ではねぇだろ……」
「もうアンタは黙ってて!」
予測不能なサキュバスに翻弄される子供たち。
しかし、そのときまだサキュバスは気付いていなかった。
やがて現れる敵が、最強を誇る剣士だということを──
*
そして、ジュラフォードとベウニルは魔導コンパスの指し示す方角と村長からの情報を頼りに、三つ星の魔女がいる洞窟を目指し、村を発っていた。
ときおり姿を見せる下級魔獣を、ジュラフォードは気迫だけで追い返しつつ、危なげなく着実に魔女へと近付いていた。
格の違う強さをまざまざと見せつけられたベウニルは、次第にジュラフォードに尊敬の念を抱き始める。
すると、わずかに心を開いたベウニルは、魔女の元へ辿り着く道すがらに自身の意外な出自について口にしだした。
「ジュラフォードさん、実は俺……」
少し言い淀むように言うと、ジュラフォードが耳を傾けた。
「どうした?」
「実は俺〝元・烙印同盟〟なんです」
「なに……!?」
ベウニルの告白に、ジュラフォードは衝撃が走った。




