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第8話 神隠しの森


第二章 ~三つ星の魔女~









遡ること数時間前──


ジュラフォードたちがエルフの里を抜けたばかりの頃。


デオリア村では、年に一度執り行われる〝奉納祭〟の準備に追われていた。


エルフの里から一山越えると、そこはデオリア山脈と呼ばれる陸の孤島が広がる。


デオリアの山々を境に、東に砂漠地帯、西には草原地帯が横たわる。


西側の山の麓を開拓して作られた村のひとつが、ここデオリア村である。


村独自の文化として根付いた奉納祭は、この一帯に伝わるデオリア山の神へ捧げる豊穣を祈る儀式だ。


だが、今年のデオリア村はその奉納祭を執り行えない危機に瀕していた。


「村長! また村の子供達がいなくなった!」


そう言って村長の元を慌ただしく訪れたのは村民の男だった。


「なんだと!? これで何人目だ……」


「いよいよ子供が一人もいなくなっちまった! そうでなくとも子供が少ないというのに……」


「これでは奉納祭が……」


子供の存在が不可欠なデオリアの奉納祭。


穢れなき魂を持つ子供が舞いを披露するというのが、奉納祭における要だった。


だがしかし、デオリア村ではこの数日間、子供が 行方知らずとなる〝神隠し事件〟が頻発していた。


日を追うごとにその数は増え、元より少数だった子供はついに一人もいなくなってしまった。


「まずは村の皆を集めて対策を考えねばな」


「分かった、とりあえず皆を呼んでくる!」


男の呼び掛けによって、村民のうちの何名かが村長の元へ集まると、話し合いが始まった。


話が煮詰まるにつれて、争点は神隠しの原因がなんなのかと言うところへ行き着く。


単なる集団的な家出による失踪なのか、あるいは誘拐によるものなのか……。


堂々巡りの会話がしばらく続いていると、村で唯一の剣士・ベウニルが遅れて現れた。


「皆、遅れてごめんよ」


「戻ったかベウニル。なにか変わった様子はなかったか?」


デオリア村屈指の実力者であるベウニルは、その責任感から近辺の調査を行っていた。


神隠しが何者かによって行われているなら、真っ先に動くべきは自身であると考えていた。


「手掛かりになりそうなものは掴めた……」


そう切り出すと、落ち着いたまま目撃証言を話し始めた。


それは、村の子供が黒いドレスを着た女と歩いている姿を、森の中で見かけたと言うものだった。


子供はまるで取り憑かれたように森の奥へと消え、ベウニルの呼びかけには一切反応しなかった。


ベウニルもただ黙っていたわけではない。


子供とドレスの女の後を追い掛けたが、突如として霧が立ち込め、最後まで追うことができなかった。


その目撃証言に、集まった誰もが納得したように答えを導き出した。


「こりゃ〝サキュバス〟の仕業かもしれねえな……」


「いや、黒のドレスと言やあ、三つ星の魔女じゃねえのか?」


「だが魔女がそんな悪事を働くのか……? 急に居なくなるしあの人はよく分からねえ」


するとベウニルは、情報が錯綜するなかで追加の証言を重ねた。


「尻尾のようなものもあった。俺はサキュバスな気がする」


「だが俺たちでは到底敵うはずが……」


「おいおい、ベウニルがいるだろ!?」


男がそう言うと、ベウニルは自信がなさそうに反応を示した。


「もしそうなら、幻術を使う相手に俺一人で戦えるかどうか……」


「じゃあ隣の村に応援を呼びましょう! それしかないわ」


「そりゃダメだ。山を越えてるうちに日が暮れちまう! 間に合わねぇ!」


「このままじゃ〝奉納祭〟は無理か……」


「もう一度、森を調査してくる」


「すまないなベウニル…… お前に頼るしかない…」


そうして、村人に見送られるようにベウニルは再び霧の立ち込める森の奥へと調査に向かった。





そして、現在。


ジュラフォードたち──


漂う不穏から、鈍い足取りではあるものの、デオリアへと向かう森を着々と進んでいた。


ユバの険しい反応からしても、村に何かが起こっているというのは疑う余地がなかった。


「しかし…… なんだこの森は……」


「凄い霧ですね。本当にまっすぐ進めてるのかな……」


リリアフィルはジュラフォードの袖をちょこんと摘まみながらその後ろをついていた。


「何が起こるか分からない。気を抜くなよ」


「うぅ~…… ちょっとこわい。」


ユバはジュラフォードの背後で小刻みに体を震わせていた。


「あれ、あそこ…… なにか落ちてますね」


「ん……?」


ジュラフォードが目を凝らし視線の先を見つめる。


とぼとぼと歩いている内に、ハッキリとその正体が分かった。


「なんだこれ……? 子供の靴か……?」


「でも妙ですね。一足だけなんて」


「なにか、嫌な予感がする……」


ボソッとジュラフォードが呟くと、ぴゅーっと冷たい風が森の中を吹き抜けた。


すると、霧のなかから、どこからともなく不気味に女の声が響いた。


「殺してやる…… 殺してやる……」


「うぅぅぅ!?!!」


「御師様っ! ユバこわいっっ!!」


リリアフィルとユバの二人はジュラフォードにがっしりとしがみついた。


その手はプルプルと震え、見えないなにかに怯えているというのは一目瞭然だった。


しかし、ジュラフォードは怯えるどころか、霧のなかで見えないなにかに向けて言い放った。


「おい! 誰だ! 姿を現せ!!」


「死ね……! いますぐ……!」


依然として姿なき声は不気味な言葉ばかり口にしていた。


間も無くして、霧のなかからはどこからともなくぼんやりとした人影が現れた。


「お前か……!」


迷霧のなか、極限まで視力を研ぎ澄ませるジュラフォード。


おぼろげながらに見えてきたのは、霧に浮かぶ黒い人の形をしたシルエットだった。


「黒い…… なんだあれは……? ドレスか?」


辛うじて黒いドレスと認識出来る程度で、本当にそれが人かどうかは依然として判然としないままだ。


「少し反応をみるか…… ユバ、お前の短剣を貸してくれ」


「ど、ど、どぞぉ……!」


ユバは恐怖のあまり、短剣を渡す手も声も、ピクピクと震わせていた。


短剣を受け取ると、ジュラフォードは右腕で軽く投擲してみせる。


だが、確かに狙いを定めていたはずの短剣はするりと黒いシルエットをすり抜けた。


それどころか、辛うじて見えていたシルエットは蒸発するかのように霧の中へと消えていった。


「いったい何者だったんだ……」


「ジュ、ジュラフォード様ぁ…… はは、早くこんなとこ出ましょ……」


「見たところこれは本物の霧ではない。幻術魔法の類いだろう」


冷静に分析しつつ、この魔法を誰が仕掛けているのか、と考えながらジュラフォードは先を進む。


先ほど投げた、地面に転がる短剣を拾い上げるとその切っ先を見つめた。


「やはりあれは幻影だったか……」


「まさか、オバケ!?」


「ははっ、そうかもな?」


「ちょ、ちょっと! やめてください!!」


「冗談だ。しっかりと魔力を感じている。そんな類いではないのは確かだ」


と、ジュラフォードがそう言った矢先のことだった。



ガサガサガサガサ……!



「「ひぃぃぃぃい!!」」


とうに風は止んでいるというのに、はっきりと草木が擦れる音が耳元まで届いた。


やはり霊的存在がいるのではないかと怯えるリリアフィルとユバ。


ジュラフォードはスーっと呼吸を整えると、藪の方へ向かって話し始めた。


「何者だ! 今度こそ実体があるな! 姿を現せ!」


確信を持って断定的な口ぶりでそう言うと、霧の奥からはカツカツと足音が聞こえだした。


「こりゃ凄い。よくその距離で分かったね」


ジュラフォードたちの前に姿を現したのは、腰に鞘を納める一人の剣士だった。


「君たち見たところ部外者だね。珍妙な格好をしてる子もいるし…… おや? これは驚いた。君、エルフ?」


剣士の男は饒舌に喋りながら間合いを詰める。


その一挙手一投足にジュラフォードは注意を向けていた。


「おいおい、無視? 俺は質問…… してんだけど…ッッ!!!」


キィィィィィィイインンン!!!


ある程度の間合いを取れたところで、剣士は流れるような手捌きで素早く剣を抜いた。


しかし、相対するジュラフォードもまた瞬時にユバの短剣で剣を受けていた。


「へぇ! 少しはやるんだね…」


「おまえら、少し離れてろ」


「で、でも……!」


見通しの悪い濃霧、そして先ほどの声と幻影、それに加え目の前の強襲する剣士。


それら全ての状況が、リリアフィルやユバを恐怖に駆り立て、行動を鈍らせていた。


左腕には抱き付くようにして離れないリリアフィル、背中には荷物とユバ。


使えるのが右腕のみ、そのうえリーチ負けする短剣ともなれば明らかに分が悪い。


ジュラフォードのアウェイな状況は、剣士にとっては十分な追い風になっていた。


「じゃあこれはどうかなッ!」


剣士は後方にステップを取り、リーチを作ったところで、有利な一手である突きを放った。


「少しだけ本気を出すか……」


そう小さく囁くと、ジュラフォードはリリアフィルとユバを抱えたまま、ひゅんと左方向へと身を躱した。


「なんだと……!?」


まるでステップを踏んだ時点で、行動を先読みしていたかのような超速回避に、一瞬にして剣士から戦意が削がれた。


高速の突き攻撃はあえなく外れ、剣士は右側からジュラフォードのカウンターを受ける。


ドンッッッッ


脇腹に重い膝蹴りが入ると、剣士はその場でのたうち回った。


「うっ、ぐっ……!」


「殺すつもりはない、大人しくしろ」


「く、くそっ……! なんて強さだ……!」


剣士は片手で脇腹を押さえながら、地面に突き刺した得物を杖代わりにし、よろよろと立ち上がった。


「も、申し訳ない…… 敵意が無いのは分かった。少し試すつもりだったんだ……」


「お前は何者だ」


「いててっ…… 俺の名はベウニル。このデオリア村に住む剣士だ。改めて詫びる、無礼を許してくれ」


そう言うと、ベウニルは軽く頭を下げたのちに、ジュラフォードへ握手を求め手を差しのべた。


ジュラフォードはその手を握ると、自身の胸元へグッと寄せ「まだまだ突きの重心が甘いな」と発する。


「あの、ジュラフォード様…… ベウニルさんなら、この霧のこともさっきの…… オ、オバケ……のことも、知ってるんじゃないですか?」


リリアフィルのその一言に、ベウニルは大きく目を見開いた。


「ジュ、ジュラフォードっっ……!? ま、まさか、あのッ……!?」


驚愕一色の顔色を見せるベウニル。


だが、次にベウニルが放った一言に、ジュラフォードもまた驚きを露にする。



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