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やがて聖戦と呼ばれる戦い



「これで全員揃ったな」


立派な顎髭を蓄え、貫禄を漂わせる男がそう言うと、円卓には緊張感が走った。


「これまでとは比べ物にならないほど、異常な数の魔獣の出現が確認された」


男は表情を強張らせながら続ける。


「これより、魔獣殲滅作戦を決行する! 総員、抜かりはないな!」


男の気迫を前に、他の七名もまた各々の声色で「了解!」と、気合いの掛け声で応えた。


──対魔獣殲滅組織 〝烙印同盟らくいんどうめい


元老院と呼ばれる集団の管理下にある、帝国には属さない少数精鋭の戦闘組織だ。


「ガーディウス団長ォ、ちょっといいッスか?」


軽い調子で男に投げかけたのは、弓使いの青年・フェレインだった。


「なんだフェレイン? こんな状況だ、手短に話せ」


「なんでこの件に〝王立魔導協会おうりつまどうきょうかい〟は動かねぇんスか? 帝国は俺たちだけでどうにかしろって考え?」


「余計な詮索はするな! 協会は帝国のお膝元だ。我々とは立場が違う」


そう言って話を切ると、ガーディウスはすぐさま戦地への出動を指示した。


王立魔導協会は帝国直属組織であり、特別に魔法の使用が許可されている。


しかし、国に属さない烙印同盟とはその設立目的からして異なっていた。


「ちぇっ、ほんと堅物だよな。もういいや、さっさと行こうぜ相棒ジュラフォード


フェレインは親友であるジュラフォードに愚痴をこぼすと、その会話を最後に各員は戦地へと向かった。





烙印同盟が降り立った戦地は、暗雲が渦巻き、地平線を覆い尽くすほどの魔獣の軍勢で溢れ返っていた。


戦闘開始早々、多勢に無勢の状況に追い込まれ、同盟は一気に消耗していく。


個々の力で奮闘するものの、次第に窮地へ追い込まれていった。


「おい、ジュラフォード! まだやれんのか?」


「俺のことはいい! それより団長の加勢に入ってやれ!」


ジュラフォードはフェレインの心配をよそに、周囲を気にかける余裕すら見せていた。


と、そのときだった。



ズゴゴゴゴ……



突き上げるような揺れと共に、腹の底に響くような地鳴りが轟き、各員は攻撃の手を止め辺りを見回す。


同盟を取り囲む軍勢の最後方から、雲を衝くほどの巨体が姿を現していた。


「な、なんだあれは!?」


「あれも魔獣? でも、そんなの報告には……」


「団長! 一体なんなんです!?」


「俺にも分からん……!! 総員、衝撃に備えよ!」


元老院からの報告にも無かった謎の巨大魔獣の出現に、戦慄する一同。


だがしかし、ジュラフォードだけは様子が異なった。


「ようやくお出ましか」


ジュラフォードがそう呟きながら見つめていると、巨大魔獣は鼓膜を裂くほどの咆哮を放った。


「ゴォォォォオオオオ!!!!」


大気すら震わせるその声は、辺りの山々を揺らし、荒れた大地に地割れを呼び起こした。


その衝撃は、遠く帝都にまで届くほどであった。


咆哮が引き起こした衝撃波により、同盟の面々は周囲の魔獣もろとも吹き飛ばされる。


だが、この状況下においてもただ一人だけ、ジュラフォードは無傷のまま君臨していた。


そして、神々しきオーラを放つ剣を携え、巨大なる魔獣を見据えていた。



けろッ──!!」



その言葉を放った途端、ジュラフォードは目にも止まらぬ速さで、天高く巨大魔獣の頭上へと跳んだ。


「まさか! あれは〝神具じんぐ〟!? なぜ奴が!?」


ガーディウスが神具と呼んだその剣は、たったの一太刀で巨大魔獣を真っ二つに引き裂く。


二つに裂かれた巨体は剣の放った光に包まれると、煌めく粒子となって微塵も残さず虚空へ散っていった。


それと同時に、無数に転がっていた魔獣の亡骸も光を受け浄化され、大地から魔獣の気配が完全消滅した。


「な、なんということだ……!」


「あの巨体をたった一撃で……!?」


ジュラフォードは、巨大なる魔獣を葬り去った神々しき剣を天に翳す。


すると剣は、雲のような黒い物体に姿を変え、ジュラフォードの左手を覆い尽くした。


戦いを終え、荒れ果てた大地に再び降り立つジュラフォード。


辺りを見渡し、衝撃波によって身動きの取れなくなっている味方を見つけると、順番に一人ずつ手を差し伸べた。


「ぐっ…… すまねえなジュラフォード。助かったぜ」


フェレインが差し伸べられたジュラフォードの左手を取ると、すぐにその異変に気が付いた。


「おまえ……! 左手が!」


その左手は手首のあたりまで真っ黒に染まり、烙印同盟の証とも言える紋様は消え去っていた。


左手の異変について触れられるも、無言を貫くジュラフォード。


その様子を見て、フェレインはそれ以上なにも聞こうとはしなかった。


そしてジュラフォードは、最後にガーディウスの元へと向かった。


「団長ともあろう人が、不甲斐ないな」


「そう言われても仕方あるまい……」


ガーディウスは、ジュラフォードの手を借りず自らの足で立ち上がった。


その後、ジュラフォードは呼吸をひとつ整えると、静かにガーディウスに語りかける。


「あの巨大魔獣デカブツの額には、俺たちと同じ烙印同盟の紋様が刻まれていた……」


「な、なんだと!? それは本当か!?」


「この目で見た、間違いない」


ガーディウスは驚愕した表情のまま、黒く染まったジュラフォードの左手を一瞥すると、独り言のように呟いた。


「お前が元老院の許可もなく神具を扱えた理由……」


そう言うと、ジュラフォードは左手を握り締めながら答える。


「あぁ、俺はおまえらと違って母の指示で動いていた」


「そうか、では〝聖女様〟が神具をお前に……」


その場にいる誰もが、ジュラフォードの発言に首を傾げていた。


少しの間を置いて、沈黙を破るようにジュラフォードが口を開く。


「俺にはまだやるべきことがある。おまえらとはこれで最後だろう」


そう言い残すと、ジュラフォードは引き留める仲間に振り返ることもなく、淡々と戦地を後にした──





それから数日後。


行方不明になったジュラフォードを追うフェレインの元に、烙印同盟の紅一点・ジルディータからの呼び出しがあった。


「ジル、重要な話って一体なんだ?」


「信じられないかもしれないが、今から話すことをよく聞いてくれ」


そう言うと、ジルディータは極めて冷静な面持ちで話し始めた。


「先日、ジュラフォードが元老院の一人をったらしい。しかも神具まで奪ったと聞かされている……」


「な、なに!? それは本当か!?」


その一言に、フェレインの表情が凍り付く。


「あぁ、それだけじゃない。マリアレーナさんも亡くなったそうだ……」


「そんな…… ジュラフォードはマリアレーナさんの指示で動いていたんだろ!? ならなんで母親であるマリアレーナさんまで死ぬ!?」


「さあな…… 私だって聞きたいさ。それと、おまけにガーディウス団長まで行方不明になってる。もう何がなんだか……」


ジルディータの言葉を前に、フェレインは声を震わせて尋ねる。


「ヨテルは無事なんだよな!?」


同じ烙印同盟で、フェレインが歳の離れた弟のように接していたヨテルの身を案ずる。


「あぁ、心配するな。ヨテルは私が匿ってる。無事だ」


「そうか、なら良かった…… でも分からないのはジュラフォードだ。お尋ね者になるにしても理由が分からねえ」


「私は何か裏があると思っている。少なくともなにか理由があるはずだ。ジュラフォードはそんなやつじゃない」


「あぁ、当然だ。あいつが訳もなく誰かを殺すなんて考えられねえ」


元老院、そしてフェレインたち──。


各々が異なる理由でジュラフォードの消息を追うものの、その影すら掴むことは出来なかった。




世界の全てを超帝国・グランヴァーエただ一国によって統治されていた時代。


まだ魔獣の存在がそれほどの脅威ではなかった時代。


そして、魔法が国によって厳格に管理され、多くの人々が魔法を使えなかった時代。



やがて月日ばかりが過ぎていき、ついには途方もない時間が流れる。


帝国の時代は、ジュラフォードの知らぬ間に終焉を迎えた──





時代は移ろい、とうに数百年が過ぎていた。



ジュラフォードは人知れず、辺境の地のある霊峰に篭り隠遁生活を続ける。


かつての大戦は、人々から聖戦と呼ばれるようになり、ジュラフォードは伝説の剣士として語り継がれるようになっていた。


数百年が経ち、世界が大きく変わった今となっては、それが神話ではなく真実だったと知る者は少ない。


「母上、この聖装は俺が必ず…… そして、元老院を……!」


母に託された二つの神具じんぐ聖装せいそう帝剣ていけん


そして、聖女である母・マリアレーナからの大いなる遺言。



ジュラフォードが待つ〝来るべき日〟は、もうすぐそこまで迫っていた。



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