27話
聖域の森での一件があってから数日は目まぐるしく毎日が過ぎていった。
森は美しい元の森に戻ったのだけれど、森の民の集落は、壊れた個所などもたくさんあったからその修理も行っていく。
それと同時に、メルバ様が空き家を私達が滞在する家として定めてくれて、その中にも魔法植物の実験が出来るように机やいすなどを整えてくれた。
なんだか二つ目の家が出来たみたいで嬉しい。
そんな中、レオン様とロムア様は当たり前のように私と一緒に森の民の集落の復興のために力を貸してくれた。
「あの、ロムア様は家に帰らなくて大丈夫なのですか?」
おずおずとそう尋ねると、はっと思い出したかのようにロムア様が言った。
「そうそう。それ聞こうと思っていたんだ。シャーリーとレオンはどこからこの森に来たんだい? 僕もぜひそこから帰らせてもらいたい。困ったことに、来るのはいいが帰り道が分からなくてね」
私はその言葉に、ロムア様は扉を通ることが出来るだろうかと少し考える。
するとレオン様が言った。
「扉の所に一度連れて行って見るか? まぁ、もし通れなくても、私がロムアと一緒に馬を走らせて森を抜け、そしてロムアの住む別邸迄送ってくるから大丈夫だ」
その言葉に私はほっとする。
「そう、ですね。ロムア様、あの私達が通っている魔道具の扉の所まで案内しますね」
「あぁ。ありがとう。もう何が出てきても驚かないよ」
ロムア様はとても優しい方で、森の民の皆にもとても親切だった。
突然色々と手伝わせてしまっているのに申し訳ない。
「あの、ロムア様、本当に色々とありがとうございます。このご恩を返せればいいのですが」
そう告げると、ロムア様はにこっと微笑み、私の頭を撫でようとする。が、その手をレオン様にいつも掴まれる。
「……少しくらいいいだろう」
「いや、だめだろう」
しばらく睨み合う二人に、私は笑ってしまう。
「ふふふ。お二人共なかよしですね」
二人は微妙そうな顔を浮かべるけれど、どう見ても仲良しである。
そこへ、ルッソとリリーお姉様が並んで歩いてくるのが見えた。
「ルッソ! リリーお姉様!」
「そろそろ家へ一度戻るのか?」
「シャーロット。本当にありがとうね」
見送りに来てくれたのだろう。
私はお姉様が元気になって良かったなとそう思った。
皆には口止めをして、リリーお姉様がメリザンドに乗っ取られた時の様子などについては黙っていてもらうことにした。
せっかく仲良くなったお姉様に罪悪感など抱いてほしくなかったから。
「お姉様も体調に変化はありませんか?」
「えぇ。大丈夫。森の民の皆も、あれから異常はないわ。シャーロットや皆さんのおかげね」
そう言われると、私でも役に立てたのだと少し自信につながる。
「では、また来ますね」
「えぇ。気を付けて」
そう言うとお姉様がぎゅっと抱きしめてくれた。
温かな体温が伝わってきて、私は心がぽかぽかと温かくなる。
「ふへへ。お姉様、大好きです」
つい心の思いのままそう告げてしまい、しまったと恥ずかしくなった。
するとお姉様は優しく微笑んだ後にうなずく。
「私も、私もシャーロットが大好きよ」
そう言われ、私の心は晴れ渡る。
お姉様が、私のことを大好きと言ってくれた。
その場で走り回ってしまいたくなるそんな感情をぐっと堪えて私が笑顔を返す。
「ありがとうございます!」
お姉様は森の民と共に暮らすようになってから、どんどんとおおらかになって言っているように思う。
それが嬉しかった。
ルッソは私の所に来ると、頭をくしゃくしゃと撫でまわした。
「じゃーな。シャーリー。まぁすぐ来るんだろうけどな」
「もう! ルッソ。髪がぐしゃぐしゃになっちゃいます!」
「あはは」
笑うルッソに、ロムア様がむっとしたようにレオン様に告げた。
「ねぇ、あれはよくて僕はなんでダメなのさ」
するとレオン様は至極まじめな顔で答えた。
「あれはもうシャーロットの家族みたいなものだ」
「え?」
私が首を傾げると、リリーお姉様が声を荒げた。
「れれれれれレオン様! 何を仰っているのですか!」
それにルッソも声を上げる。
「そうだぞ! 俺達はそんなんじゃねぇぞ」
「そ、そうです!」
その様子に、私とレオン様はきょとんとしてしまう。
どうしてそんなに焦っているのだろうか。
「どうしてだ? 森の民はもう皆シャーロットの家族みたいなものだろう?」
そこで、ハッとしたかのように二人は視線を反らす。
「そ、そうですね」
「あぁ。そうだな」
二人の様子に首を傾げると、近くでこちらを見ていた子ども達が笑いながら二人を取り囲む。
「刺繍頑張らないと!」
「晴れの日に着れないぞ!」
「シャーリーも! 祝いの席に羽織ないと嫌だろ!」
「もうすぐかもだから、急いで刺繍しないとなー!」
そう言うと、笑いながら子ども達は立ち去っていく。
私とレオン様は何のことだろうかと首を傾げる。
「とにかく、気を付けてね」
「じゃ、じゃあな。またすぐ来いよ」
そう言うと、お姉様とルッソはそそくさと立ち去って行ってしまった。
結局、どういうことだったのか分からずだったけれど、お姉様も、ルッソも、森の民の皆も元気になって本当に良かった。
私達は元気に走り回っていた子ども達に大きな声で言った。
「一回帰るね! また来るねー!」
すると子ども達は手をブンブンと振りながら返事を返してくれる。
「うん! まーたーね!」
「今度一緒に遊ぼうな!」
「気を付けてねぇ!」
その様子を見ていると、いつもの日常が帰って来たのだなとそう思う。
メルバ様には家を出る前に挨拶をしてきているので、あとは帰るだけだ。
私達は、聖域の森を歩き、そして扉の前へと着いた。
今日は心地よい風が吹き抜けていくなと私は思いながら、扉を見つめる。
お兄様達の時は、扉を開けることが出来なかったが、ロムア様はどうだろうか。
「これがその扉?」
「はい」
「ふ~ん」
ロムア様は扉に歩み寄ると、迷うことなくノブを回した。
「あっ!」
危ないと思ったのだけれど、カチャっと、ロムア様は扉を開いた。
「え? 部屋? すごい……これはどうなっているんだ」
その様子を見て、私とレオン様は顔を見合わせる。
お兄様達は通れなかったが、ロムア様は通れるようだ。これは一体どういうことなのだろうか。
そう思いながら私達は扉を通って離宮へと戻ったのであった。
温室の中へと入ったロムア様は周囲を見回しながら、言った。
「すごいな。魔道具で、離宮と聖域の森が繋がっているなんて」
「はい。私達も最初見つけた時はびっくりしたんですっ……」
私は足がもつれて転びそうになってしまう。
しまったと思っていると、そんな私をロムア様が抱き留めてくれた。
「おっと、大丈夫かな。あ……これはチャンスだ」
そう言うと、ロムア様は私をそのまま抱き上げた。
「やっと抱っこできた」
「ロムア」
ジトッとした瞳でレオン様がロムア様を睨みつけた時であった。
「これは、どういうことか、説明をしてもらおう」
「シャーロットから、即刻離れろ」
腰に携えていた剣を引き抜き、お兄様二人が殺気を漂わせてこちらを睨みつけていた。
「お兄様!」
「……ここで、第一王子殿下と第二王子殿下が突然登場すると、誰が想像できたかな」
ロムア様はそう呟くと、そっと私のことを下ろすと、お兄様達の前へと跪く。
「第一王子殿下並びに第二王子殿下にご挨拶申し上げます。ロムア・クラークと申します。久しく登城しておりませんでしたため、こうしてお目にかかれるのは久方ぶりのことでございます」
お兄様達はロムア様と分かると、剣を治めた。
私は慌ててロムア様の前へと出るとお兄様に言った。
「す、すみません。あの、離宮に勝手に……その、いろいろとあって」
先ほどまでは厳しい表情だったお兄様達だけれど、すぐに表情を和らげるとルードヴィヒお兄様が私を
抱き上げて言った。
「シャーロット。いいんだ。だがな、気を付けなければいけないよ」
「はい……」
「男は常に狼だと思いなさい」
真面目な表情でそう言われ、私はどういう意味なのだろうかと思いながら尋ねた。
「狼ですか?」
「あぁそうだ。男は、狼だ」
「お兄様方も?」
その言葉に、ロベルトお兄様が吹き出した。
「あはは。私達はだいじょうぶですよ」
意味が分からずに私が首を傾げると、お兄様達がレオン様とロムア様を睨みつける。
「特に公爵家の狼は気を付けるのだぞ」
そう言われ私は少しむっとしながら言葉を返す。
「お兄様失礼ですわ。レオン様もロムア様も狼ではございません。お二人とも、本当に優しいんです。今回もたくさん助けていただきましたのよ」
するとロベルトお兄様が笑顔で言った。
「それは聞きたいですね。詳しく教えてくれますか? 特に、ロムア殿まで何故この離宮にいるのか、について」
「はい。話せば長くなるのですが……」
私はそこからお兄様達に、事の顛末を丁寧に教えて言った。
話をしてみると、まるで物語のようだなと私は思った。
現実で起きたことだと今振り返ってみても思えないくらいにはたくさんのことが起きた。
話を聞き終えたお兄様達は、しばらく考えた後に言った。
「本当に色々と会ったのだな。とにかくレオン殿、ロムア殿、シャーロットを手助けしてくれたこと、感謝する。また魔女についてもよく働いてくれたな」
二人は頭を下げる。
「いえ、臣下として当たり前のことです」
「我が家も、積年の悲願を達成できました。この機会はシャーロット王女殿下が下さったものであり、感謝しかありません」
「そうか」
難しい表情ばかりのお兄様。
私はそうだと思い立つと立ち上がった。
「お兄様、この前紅茶をくださったでしょう? すぐに淹れますね。そうだ。皆でお庭でティーパーティ
ーをするのはどうでしょうか」
「あぁ。だが、レオン殿と一緒だと、その……」
ロベルトお兄様が覆憎そうにそう言ったところで、私はそうだったと戸棚からレオン様の魔力抑制剤を取ってきた。
「ちゃんと、レオン様用の魔力抑制剤準備してあります。以前はお兄様達がいらっしゃるタイミングで準備しておらずすみません。これできっと大丈夫です」
私はレオン様に魔力抑制剤を渡した。それをレオン様は受け取ると、瓶の蓋を開けて一気に飲み干す。
「魔力抑制剤……」
「どのような変化が」
ゴクリとレオン様が飲み終わった瞬間、レオン様の中にある魔力が少しずつ体の中へと納まっていくように光が薄れていく。
私は以前はこんなにはっきりと魔力を見ることができなかったのになとそう思う。
するとお兄様達が驚いたように声を上げた。
「気分が、悪くない」
「すごいですね。レオン殿の魔力が強く感じられない」
私は良かったと思い笑顔で告げた。
「ふふふ。良かったです。じゃあ皆でティーパーティしましょう。お時間ありますか?」
そう尋ねると、お兄様達は優しく微笑む。
それからは、庭にテーブルと紅茶と準備をして皆で穏やかな時間を過ごした。
こんな風にテーブルを囲み、庭で優雅にお茶を飲む日がやってくるなんて以前は思ってもみなかった。
「ふふふ。幸せです」
私がそう告げると、レオン様が微笑み返してくれる。
それがすごく嬉しかった。
空が青く輝いて、吹き抜けていく風は優しい香りがした。
ここまで読んでくださりありがとうございました。
読者の皆様に感謝申し上げます。
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