20話
怪我をした人もいるかもしれない。
そんな私の不安を見透かすように、レオン様は私をそっと抱き上げると言った。
「大丈夫。きっと皆無事だ」
「そう、ですよね」
するとルッソが笑って言った。
「当り前だろう。森の民は戦いに慣れている。多少の怪我はそりゃあるかもだが、そんなのただの勲章だ」
生きることとは戦うこと。
森の民の皆と知り合って私はそれを感じるようになった。
生きているということは、平凡な当たり前のことではないのだとそう思う。
集落へと帰り着くと、皆があわただしく働いていた。
子ども達は手当てのための薬を運び、メルバ様は帰って来た者達から話を聞き、地図を見ながらうなり声をあげている。
そして私達が帰って来たのを見て立ち上がった。
「良かった! 無事だったか!」
「メルバ様!」
良かった。
森の民の人々は怪我を負っている人もいるようだが、大きな怪我はないようだ。
私がホッとしながらメルバ様の傍に行くと、メルバ様は私のことぎゅっと優しく抱きしめた。優しい香りに包まれて、私は少し驚いた。
「心配をしたいのだ。無事でよかった」
優しい声。なんだかほっとするその温かさに、私もぎゅっとメルバ様を抱きしめ返した。
「メルバ様も、ご無事でよかったです」
するとからりとした笑顔でメルバ様は言った。
「私はこの森の長だ。簡単にはやられないよ。さぁ、こちらへ。シャーリー。聖獣様、レオン殿、ルッ
ソ。この森を救うための知恵をお借りしたい」
私達はうなずき、話し合いの席に参加することになる。
現時点で自分達の得た情報をお互いに出し情報をすり合わせていく。
「青い炎の薔薇の魔女によって、森の中に青い炎の薔薇が他の魔法植物に寄生し広がっている。青い炎の薔薇は魔獣にも寄生を始め、寄生されれば意識は混とんとし暴れまわる。だがおかしなことに、我が集落へと向かってくるのだ」
「古の伝承によれば最初は人に魔女の呪いが出現しそして犠牲がでたとあった。だが今回は違う。森に青い薔薇が広がり、それに魔獣や他の魔法植物が寄生されている」
「今回はシャーリーの作った薬のおかげでどうにかなったが。あのまま魔獣が増え、対処していればこのように今話し合いはできないないだろうな」
私は自分の作った薬についても説明をする。そして、それが尽きたことも話をした。
「また新しく作らなければなりません。必要な材料を集める為、皆さんのご協力をいただいてもいいですか?」
すると皆がうなずく。
「ありがたい」
「何が必要か教えてもらえたら、怪我をしていない者で集めてくる」
私はうなずくと、必要な植物をメモしそれを手渡す。
ただし問題は、ロムア様のいる場所へ扉が繋がるかどうかだ……。
考え込んでいると、妖精が私の元へと帰って来た。
「シャーリー! 調べてきた」
「大変だ」
「……どうしたらいいのだろう……」
妖精達はそう言うと、私の手のひらの上で慌てたように言葉を続けた。
「私達やジョンはローレン王国側で目覚めた魔女を再度封印しようとしていたの」
「でも、魔女はローレン王国側の方から青い炎の薔薇に寄生させた魔獣を従えていて。それに対処するようになった」
「そこでどうにか魔女の進行を食い止めていると思っていたの。でも違った。知らない間に、広がっていた!」
「「「青い炎の薔薇が、森全域に広がっている!」」」
その言葉にジョンが立ちあがる。
「なんだと!? そんなわけはない! 魔女は確かにあそこにいた! どうやって青い炎の薔薇を増やしたと!?」
妖精達やジョンは魔女の進行を抑えていたのか。
けれど知らない間に、青い炎の薔薇の分布は広がり森全域になっていた。けれどこの森の民の集落の周りには生えていなかった。
どうして……。
「ねぇジョン。昔青い炎の魔女をどうやって封印したの?」
「その時の魔女はすでに弱り果てていたのだ。その状態で森の民を襲い、だからこそ我らが封印した」
「魔女は何故森の民を襲ったの? それは何か理由があったの?」
「ふむ……おそらくだが、魔力が欲しかったのでは。この森の中心となるルピタ魔法薬草がここにあるしな」
「……魔力……それなら魔女はここを本当は狙いたいはずよね」
「我らがそれを阻んでいたから来れなかったのだろう」
「そう……ね」
そう答えながらも、何かが引っかかる。けれどそれが何なのか分からない。
「私はこれから、薬を作りに移りますね」
メルバ様はうなずく。
「では、空き家に薬は運び入れるようにするぞ。あそこでまた薬を作るだろう」
「ありがとうございます。でも、あの空き家使ってもいいのですか? その以前も使わせてはもらいましたが、あの空き家だけ他の家とは作りが違うようですし、大切な家なのでは?」
以前にも泊めて貰ったり、薬づくりに利用させてもらったりした空き家は、ほかの森の民の家とは様子が違うのだ。
造りもしっかりとしているし、絵なども飾られている。
「あそこはかつて、客人を招く家だったのだ。まぁ私が生まれるよりももっと昔の話さ」
「そうなのですね。では、大切に使わせていただきます」
「あぁ。きっと家も喜ぶ」
私はうなずき、レオン様と共に薬づくりに向かうことにした。
お姉様も心配なのだけれど、お姉様に飲ませる薬も作らなければ。先ほどの魔獣達によってどの薬がより良く効くのかは分かった。
それを元に、薬を精製しなければ。
私はちらりとレオン様を見る。
「……そういえば」
「え? は、はい」
レオン様が私の方を見つめて真面目な顔で言った。
「先ほどはリリー嬢に触れてしまって、すまなかったな」
「……え?」
それからくすっとこちらをからかうように微笑む。
「やきもち、やいてしまうのだろう?」
その言葉に私は目を見開いてそれから顔に熱が込み上げてくる。
「そ、そそそそそ、それは……」
「ふふ。嬉しかった」
「レオン様! からかわないでくださいませ!」
「いや、本当に」
そういうとレオン様が私を抱き上げて、髪を片手で優しく救い上げる。
「私の婚約者殿は可愛いなと思った」
「もう! レオン様ったら、私が子どもだと思って! もう!」
ドキドキと心臓が高鳴り、私は体が熱くなる。それと同時に、ボフンという音を立てて私は大人の姿へと戻った。
「シャーロット」
驚くレオン様の頬を私は両手で包むと、子ども扱いばかりしてほしくなくて、その額にちゅっとキスをした。
「私は、貴方の婚約者なのですから! こ、子どもじゃ、ありませんわ!」
すると、レオン様が驚いた顔のまま、見る見るうちに顔を赤らめていく。
それを見て、私も同じように真っ赤になっていくのが分かる。
お互いに真っ赤になりながら、しばらくの間沈黙が落ちる。
すると、レオン様が小さな声で呟く。
「……心臓が、痛い」
「え? だ、大丈夫ですか?」
「あぁ。それに……シャーロットを見ていると、なんだか……」
「私を見ていると、なんだか?」
首をこてんと傾げると、レオン様が慌てた様子で私のことを地面へと降ろして、一歩後ろへと下がった。
「ちょっと、待ってくれ」
「どうなさったのです?」
「分からないんだ」
レオンはそう呟くと、両手で自身の顔を覆って呟く。
「君が愛おしくてたまらない」
その言葉に、私は勇気をふりしぼって伝えた。
「子どもを愛おしく思うような、愛おしさは、いりません」
「え?」
「婚約者として、愛おしく、み、見て、ほしい……です」
森の一大事の時に何を言っているのだろうか。
それでも、ちゃんと伝えなければと思いそう告げると、レオン様は驚いたような表情を浮かべそれから、口元を抑えて動きを止める。
何も答えてもらえないと、いたたまれない。
レオン様は顔を赤らめてから呟く。
「この話は……また、今度にしてもいいだろうか」
その言葉に、私は残念に思う一方で、その通りだなとそう思う。
「そうですよね。今は、森の一大事ですものね」
「あぁ」
私は気持ちを切り替え、家へと向かった。







