6話
庭を抜けて温室の方へと歩き進めながら、シャーロットは自分はなんという嘘をついてしまったのだろうかと今更ながらに後悔をし始めていた。
呪われて幼い姿になっていると、そのことについて正直に話すべきだった。
だけど、訪れたレオン様があまりにも美しい美丈夫で、頭の中が混乱してしまったのだ。
それで気がつけば、変な嘘をついてしまっていた。
どうしよう。
そう後悔するけれど、後悔したところでもう遅い。後の祭りである。
確かに今日、離宮へとやってくる旨の手紙は届いていたけれど、私は社交辞令であり中にまで入ってくるなんて思わなかったのだ。
呪いは伝染する、そう勘違いしている者が多い。
そして伝染しないとしてもまさか会いに来るなんて思ってもみなかったのだ。
ちらりとレオン様へと視線を向けると、周囲をきょろきょろと見回しながらウキウキと下楽しそうな様子である。
「あ、あの、レオン様。レオン様は……シャーロット様が呪われていることはご存じですよね?」
「あぁ。もちろん。呪いは伝染しないことは分かっているし、婚約者殿に直接挨拶をしないのは不義理だろうと思いやってきたのだ」
「なる、ほど……」
呪いについて知識があるのだろう。そして今の口調からして、私のことをちゃんと婚約者として受け入れいているようだ。
呪われて離宮に捨て置かれている自分なんかで、本当にいいのだろうか。
そう思いながら道を進み、私は一体どこへ案内するべきかと悩む。
「あれは?」
「え?」
レオン様は立ち止まると、温室の方を指さした。
私はそのことに視線を泳がせつつ、どうしようかと悩みながら口を開いた。
「あれは、温室です……」
「あぁ。立派だな。この離宮は魔道具がかなり組み込まれていると聞くが、どうなのだ?」
「えっと、はい。すごいと思います。日常生活のほとんどは、この離宮内で賄えますし、設備だけで言えば王宮よりもすごい点が多いです」
「すごい設備だな。あの温室も案内してもらえないか? 見てみたい」
「え? ……」
「あ、難しければいいのだ」
温室に興味があるのだろうか。そう思いながらも、見てみたいと言われれば、自慢の魔法植物たちを見てもらいたい気持ちがむくむくと沸いてくる。
「も、もちろんご案内いたします」
「ありがとう。嬉しいよ」
もしや、レオン様も植物に興味があるのだろうか。
少しウキウキとしながら歩いていき、私はいつものように温室の扉に全身の力を込めて開けようとした。すると、すっとレオン様が私の代わりに扉を押し開けてくれた。
「どうぞ。なるほど、こういうところは、手動なのだな」
「あ、ありがとうございます」
当たり前とばかりにレオン様はこちらに視線を向けるので、これほどの優しさも兼ね備えた美丈夫がモテないわけがないと、そう心の中がざわつく。
可哀そうに。
私みたいな見捨てられた王女の婚約者とされてしまうなんて……。そう思わずにはいられない。
そんなことを思いながら温室の中へと入ると、レオン様はその光景を見て感嘆の声をあげる。
「これは、見事だな……待て、これは、魔法植物か?」
その言葉に私は瞳を輝かせる。
「よくご存じですね! 魔法植物は聖域の森に多く生える植物で、普通の森では滅多にお目にかかれないものです」
「あぁ……こんなに? 一体、どうやって……」
その言葉に、確かにどうやってここまで運んできたのだろうかと私も首を傾げる。
「そうですね。よくよく考えると確かに」
「フォーサイス王国とローレン王国の狭間にある、不可侵の聖域の森にはたくさんの魔法植物が生えるというが……普通の森では滅多に見られないものだぞ」
「えっと、そう、ですね」
「ここの管理は君が?」
「あ、元々あったもので、魔道具によって全体は管理されているんです」
「ほう。すごいな。……これだけの魔道具があるとは……」
「調べたところ、第五代国王が娘エレニカ・フォーサイス王女殿下の為に作られたそうです。愛されていたエレニカ様ですが、奇病を患ってしまい外出が出来なくなり、国王陛下
はそんなエレニカ様の為にとこの魔道具の溢れる離宮を作ったそうです」
「あぁ。王族の歴史を学ぶ授業で聞いたことがあるお名前だ。聡明で国民に愛されていたとか。ただ、若くして原因不明の奇病により亡くなったとあったな。なるほど、この離宮はそのお方の為に最初作られたのか」
「はい。もしかしたら、エレニカ様が魔法植物が好きだったのかもしれないなと、倉庫の資料などを読みながら、私は考えていたところです」
「資料もあるのか」
「はい。研究もされていたようです」
「魔法植物か。近くで見てもかまわないか?」
「もちろんです」
私はそう答えると、レオン様に丁寧に一つ一つの魔法植物について伝えていく。
「こちらは地中から魔力を吸い上げるルピタ魔法植物です。その奥にあるのは一年に一度開花するマンス魔法植物。現在、まだまだ魔法植物についての研究はなされておらず、未確認の魔法植物も多いのです。なので、名前がついていないものもたくさんあります」
奥の資料庫には、そんな魔法植物を記録する魔道具もある。それによれば、かなりの数の魔法植物を採取し、研究していたようだと分かる。
ただ、その魔法植物をどうやって入手したのかは謎だ。
「茹でたり、冷やしたり、日光に当てたり、暗闇においたり、燻したり、そうすることで魔法植物の様々な効果を見ることもできるんです」
「効果?」
「はい。方法によっては巨大化したり弾けたり、様々な効果があるんです」
そう告げるとレオン様が眉間にしわを寄せる。
「そんなことが……」
私はうなずきながら近くにあった魔法植物を指ではじいた。すると光が空中に舞ってふわふわと浮いた後に弾けて消える。
「綺麗でしょう? 魔法植物って、本当に不思議で綺麗で素敵なものなんです」
「あぁ」
「だからこそ、手入れが楽しくて楽しくて」
私は手をワキワキと動かしていると、レオン様が視線を奥の机の方へと向ける。
「あっちの机は? 実験かなにかもしているのか?」
そう尋ねられ、私は嬉々として答えた。
「はい! そうなんです! 今、魔法植物の成分の研究も行っていて、色々と分かることもあって面白いんです!」
「へぇ。シャーリーはそのようなことも出来るのか」
「はい! 魔法植物を使えば、怪我の治療や病の治療にも色々と生かせそうなんです。あと、一番は魔力の抑制効果のある魔法植物の研究もしていて、すごく面白いんです!」
「魔力の……抑制?」
その言葉に、レイス様の表情が変わる。私はどうしたのだろうかと思いながら、レイス様を見上げた。
「どうかしましたか?」
「魔力を抑制する、植物があるのか? 詳しく話を聞かせてもらいたいのだが」
その言葉で私はレオン様が魔法植物に興味があるのだろうかと、気持ちはどんどんと高鳴っていったのであった。
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