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41話

 義務感……。


 そう思っていると、レオン様が口を開いた。


「けれど、そんな義務感は今はない」


 どういう意味だろうかと私は顔をあげると、レオン様が優しく微笑んでいた。


 レオン様は立ちあがり、私の目の前に立つと握っている手に口づけを落とした。


「今では、そんな義務感など忘れるほどに、君が愛おしい」


「ふわっ!」


 私は、心臓がバクバクと煩くなり、突然のことに体の中の血が沸騰しているようであった。


「そそそっそおっそそそそそ」


 呂律が上手く回らない私の頭をレオン様が優しく撫でた。


「ふふふ。可愛いなぁ」


 その様子を見て、私はすんと、心臓がゆっくりと静まる。


 これは、私の感情とは違うのではないかという思いがむくむくと沸きあがってくる。


 それもそうである。


 私は昨日までずっとレオン様の前では子どもの姿であり、保護対象だったような気がする。


 つまり、先ほどの愛おしいとは……子どもに対する、愛でる意味ではないだろうか。


 そう考えれば自分の中でも納得がいく。


 レオン様のような素敵な人が私に恋に落ちるなんてことはあるわけがない。


 心の中が、凪いでいく。


「……レオン様」


「ん? どうした?」


 首を傾げるレオン様もまた素敵に見える。


 たとえ、今は恋愛感情を持ってもらえていないとしても、いつか、いつか私のことを少しだけでも好きになってほしい。


 その為には、私は努力しなければならないだろう。


「私、勉強します」


「ん? 勉強?」


「はい」


 これまでの人生で、私は色恋について勉強をしたことがない。


 つまり私には伸びしろがあるということである。


 私はレオン様をじっと見つめると言った。


「私頑張ります! いつか、いつか……」


 レオン様に私のことを好きになってもらえるように。出来るならば、浮気せずに私のことだけを見てもらえるように。


 私は心の中でそう決める。


 そんな私をじっと見つめていたレオン様はなんとも微妙な表情を浮かべる。


「なんだろうか……なんだか、すれ違っているような気がする」


「? すれ違ってはいませんわ」


 その時、美味しそうな香りが風に乗って来た。


「ふわぁ。いい香りですね」


「あぁ。料理手伝いに行こうか」


「はい!」


「シャーリー。シャーロットと呼んでもかまわないかな?」


 その言葉に、私は笑顔でうなずいた。


「はい! 読んでください」


「あぁ。シャーロット。じゃあ行こう」


「はい。レオン様」


 私達は、皆のいる広場へと向かって歩き始めたのであった。


 広場には皆が集まっており、大きなイノシシを解体して、焼いたり煮たりと、大仕事である。


 そんな中に、森の民の衣装を着たお姉様の姿もあった。


「あれ、お姉様……その格好、とても可愛いです」


 そう伝えると、お姉様が嬉しそうに笑う。


「ふふふ。とっても楽なのよ」


「似合ってます」


「良かった」


 姉妹としてこうやって話が出来ると言うのが嬉しい。


「こっちは焼くぞ。お、帰って来たか。話は出来たか?」


 ルッソさんの言葉に私はうなずきお礼を告げた。


「ありがとうございました。ちゃんと話出来ました」


「おう。それはよかったな」


 ルッソさんはそういうと私の頭を少し乱暴に撫でる。


 その様子を見て、お姉様が言った。


「あの、ルッソさん。一応この子も、成人したのでそのように触れては……」


「あ、そうか。子どもってのが抜けなくて……でもまぁ、俺よりは年下だしいいだろう」


 するとレオン様が笑顔で言った。


「人の婚約者には軽々しく触れる物ではないぞ」


 ルッソさんは両手をあげると降参というように声をあげた。


「わかったわかった。保護者が増えたな」


 その言葉に、その場にいた皆が笑い声をあげる。


 最初の頃は距離のあった森の民の人々だけれど、今ではとても友好的に話しかけてくれる。


 まるで大きな家族のようだった。


「森の民の人々は温かいな」


 レオン様の言葉に私はうなずく。


「はい」


 それから皆でイノシシ料理を作り、美味しくいただいた。


 皆で囲む食事は美味しい。そのことを私はここに来てから教えてもらったような気がする。


 そして、いつの間にか森の民の皆が集まり、飲めや歌えやの宴へとその場は移っていく。


 いつの間に太鼓や笛なども準備がされて、食べ終わった人々が踊り始める。


 すると、ルッソさんが輪の中で踊りながら声をかけてくれた。


「せっかくだ、一緒に踊ろう」


「いいんですか?」


「シャーロット、行こうか」


「はい!」


 私とレオン様も踊りにまざる。


 軽快な民族的な音楽に身を任せて踊るのは、とても楽しい。


 煌びやかな舞踏会よりも、私はレオン様とこうやって踊るほうが楽しいと思った。


「ふふふ! 楽しいですね。レオン様」


「あぁ。楽しいな。それっ!」


 踊りの途中で私はレオン様に高く抱き上げられ、浮遊感を味わう。


「きゃっ! レオン様!」


「ははは。うまいうまい」


「もう」


 こうやって、一緒に過ごす時間を重ねて行けば、いつか子どもではなく私を恋愛対象として見てくれる日がくるかもしれない。


「レオン様、私頑張ります!」


 婚約者が私で良かったと、そう思ってもらえる日まで頑張るぞと意気込む。


 私は魔法植物を研究しながら、今後もレオン様と共に生きていきたいなとそう思ったのであった。


 夜通しお祭り騒ぎは続いていく。


 私にとって、生まれて一番幸福で、楽しい日となったことは、間違いない。



 おしまい



最後まで読んでくださった皆様、ありがとうございました。

今回のお話は、魔法植物を研究する乙女の物語でした。書いていてすごく楽しかったです。

読者の皆様にも楽しかったなと思っていただけたら幸いです。


最後に評価★★★★★をつけていただけると嬉しいです。どうぞよろしくお願いいたします。

今後、このお話の続きもアップしますので、ブクマはそのままにしていただけると嬉しいです。


6月2日、この物語はTOブックスより書籍発売いたします。コミカライズも同時スタートです。

イラストはすがはら竜先生です。コミカライズの漫画家様はえすえいち先生となります。

そちらも楽しんでいただけたら嬉しいです。





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