40話
お姉様に挨拶を済ませて外へと出ると、三人がちょうどこちらに返って来る所であった。
「皆様、ありがとうございました」
そう告げると、三人はうなずき、メルバ様が私に向かって言った。
「とても良い瞳をしている子だ。大丈夫。彼女ならきっとここで暮らしていけるさ」
「ありがとうございます」
「これからはルッソが面倒を見る。大丈夫。ルッソは世話好きだ」
その言葉にルッソさんへと視線を移すと、にっと歯を見せて笑顔でうなずかれた。
「大丈夫。しっかりと鍛えてやる」
「……鍛え……あの、や、優しく、お願いします」
「あぁ。大丈夫。大丈夫」
本当に大丈夫だろうかと思っていると、レオン様が言った。
「ルッソ殿はなんだかんだ優しい。ここに連れて来てからもすごく面倒を見てくれた」
「そうなんですね! ありがとうございます」
「あ、いや。ははは。それより、イノシシの調理を始めるんだ。お前も手伝え!」
「はい! もちろんです」
「その前に、ちょっとだけ、二人で話をしてきてもいいか?」
レオン様に私は手を取られ、そう告げられる。
私がドキリとしていると、ルッソさんがにやにやとした顔でこちらを見る。
「もちろん~。ごゆっくり。その間に美味しく調理しておくな」
ひらひらと手を振られ、メルバ様も優しく微笑んで見送ってくれた。
私はレオン様に手を引かれて歩いていく。
繋いだ手から、体温が伝わってきてドキドキしてしまう。
人気のない森の方へと、レオン様と私は歩いていく。
森の中は清々しくて、鳥たちが楽しそうな声をあげながら飛んでいく。
少し歩いたところに、小さな小川の流れる場所があり、澄んだ水の中に魚が気持ちよさそうに泳いでいる。
私達は、木陰の岩の上へと腰を下ろした。
二人で並んで座っていると、川の流れる音が心地よく聞こえる。
「なんだか、のんびりですね」
「あぁ。本当だな」
穏やかな空気が流れていくが、私は静かに深呼吸をしてからレオン様の目の前に立つ。
そして、頭を深々と下げた。
「嘘をついて、ごめんなさい……私は本当は、王女シャーロット・フォーサイスなのです」
ちゃんと自分の気持ちを伝えなければと、私は下を向いたまま、口早に言った。
「本当は、嘘をつくつもりなんてなかったんです。でも、でも……呪われていましたし、レオン様は素敵で……動揺してしまって……つい、気がついたら……嘘を……本当にごめんなさい!」
喋れば喋るほどに言い訳をしている自分が恥ずかしい。
人に嘘をつくことも、こうやって頭を下げることも初めてで、どうしたらいいかが分からない。
すると、レオン様の優しい声が聞こえた。
「ふふっ……頭をあげてくれ」
「え?」
「その……実は、結構最初から……シャーリーはシャーロット王女殿下かなと、思っていたんだ」
「へ? え? ふぇぇぇえ!?」
私が悲鳴にも似た驚きの声をあげると、レオン様は落ち着くようにと私に座るように促してから、喋り始めた。
「いや、だって……離宮は入れる人間が限られているし、シャーリーとシャーロット王女殿下の髪色や瞳の色が同じだし……」
「で、でも! 私小さくなっていましたし、おかしいとは思わなかったのですか?」
「ん? あー。まぁ……でもあと、その……シャーリーは、記憶がないようだけれど……数回、大人の姿も見ている」
「へ? え? え?」
私の記憶にはない。いや、ちょっと待てと、私は脳みそをフル回転させながら考え、既往のかけらの中に、夢だと思っていたことが蘇る。
「ま、まさか……私、私……レオン様に、抱っこ……せ、せがみましたか?」
「ん? ……あぁ。とても可愛らしすぎて、理性との戦いだった」
「ふわぁぁぁぁぁぁぁ。もももももももももし分けありません。すみません。わ、私、なんてはしたない!」
「いやいや。可愛らしかった。だから問題ない。むしろ、これからもいくらでも」
そう言うと、レオン様が両手を広げる。
「え?」
「膝の上に乗るかい?」
「ひゃ……」
ぼふんと音を立てるように、私は顔に熱が溜まる。
レオン様は分かっていないのだろうか。
私が出会ってきたどの男性よりも、レオン様は美しい。
黒いサラサラの髪の毛も、菫色の澄んだ瞳も、私の婚約者だと信じられないほどに素敵な人である。
私はドキドキとして、胸を抑える。
「す、すみません……刺激が強くて」
「ふふふ。そうか。では、少しずつ慣れていってくれ。私も慣れていこう」
「え?」
「私は、ずっと魔力過多症のせいで、家族以外で人とこのように喋ることも、触れ合うことも出来なかったのだ」
その言葉に、私は驚きながらも、そうか、レオン様も寂しかっただろうなと思いその手をぎゅっと握った。
私の手を握り返しながら、レオン様が言った。
「以前話をした時は、子どもの姿だったな。……シャーリー。いや、シャーロット王女殿下。私は魔力過多症で、長くは生きられないかもしれない。だから最初は義務感から婚約者に生きている間は、誠意をもって尽くそうと思っていたんだ」
その言葉に、私はうなずく。
レオン様は優しいからこそ、呪われた私を憐れんでくれたのだろう。
そう思うと、少しばかりさみしい気持ちになるのは、私がレオン様に好意を持っているからだろう。
勘違いしてはいけない。私はレオン様に好かれているわけではない。
義務感なのだ。
いよいよ、次で最終話です(●´ω`●)







