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4話 ※レオン視点

 レオン・カーライル。


 カーライル公爵家にて現在最も魔力が強く、その実力は王国に轟くほどであった。


 戦場に立てばその力は悪魔のごとく強力であり、敵味方関係なく彼を恐れた。


 黒い髪と菫色の瞳、その顔立ちは残酷なほどに美しい。


 だが、その美しさをもってしても彼の纏う冷ややかな空気に圧倒され、誰も近づくことが出来ない。


 人ではない。


 彼を前にした時、皆、そのように印象を受ける。


 カーライル公爵家において、彼は現当主を務めている。ただし、結婚はしていない。


 理由はいくつかある。


 第一に魔力量の多さ故に威圧的に見えるのか彼を前にすると皆がすくみ、身動きすら取れなくなるのだ。故にお見合いが上手くいかない。


 第二に魔力を持たない人間は、その大量の魔力に拒絶反応を起こし接触するだけで気を失い体調を崩す。


 そして第三に、魔力量の多さから短命である。故に、当主は引き継ぐものの歴代、次男が跡継ぎを作ることが多い。だからこそ無理に婚約者を作る必要もないとされていた。


 公にはされていないがカーライル家に関わらず、柱となる公爵家には多い習わしだ。


 そんな中、王家からの命によってこの度、第三王女の婚約者となることを命じられた。


 十六歳となった王女は婚約者を決める習わしがある。それをいくら呪われたからと言って破ることがためらわれたのだろう。


 そしてレオンならば公爵家次男はすでに婚約者も決まっており世継ぎも心配がない。


 王室にとってもカーライル公爵家にとっても婚約だけの関係だろうと、関係上のデメリットがない。


「……だが、王女は違うだろう……」


 レオンは王室からの手紙を読み終わった後、ため息をつき椅子に深く座った。


 カーライル家にとっては王室との関係が良好であることを示すことが出来て良い。


 だが。


 レオンは、体から溢れてくる魔力に頭を押さえ、うめき声を漏らしながら拳を強く握りしめる。


 体がきしむ音がし、窓ガラスが割れ、物が吹き飛ぶ。


 少しの間、部屋の中は魔力の渦に呑まれて荒れ狂うが、しばらくすると風がやみ、レオンは大きく深呼吸を繰り返す。


 未だに、頭を鈍器で殴られているかのような痛みと吐き気は続いているが、周囲への影響は落ち着いた。


「あぁ……私も、もう、それほど長くはないだろうな……私のような者と婚約しないといけないとは……可哀そうに」


 呪われた紛い物の姫君と笑う者が多い。そして、第二王女が無事でよかったとも皆が言う。


 だけれど、姉を庇い自ら呪いにかかり離宮に閉じ込められ、その上、私のような化け物が婚約者となる。


 なんと可哀そうな運命か。


 レオンは大きくため息をついた。


「……せめて、せめて婚約者であれる時期だけは、彼女に報いてやりたい」


 自分が魔力に飲み込まれて死ぬ運命は、とうの昔に受け入れている。


 だが、その運命に巻き込まれるシャーロット王女の悲運は、あまりにも受け入れがたい。


「会いに行くか」


 威圧し、怖がらせるかもしれないから、魔力を極限まで一時的に枯渇させ会いに行こう。


 レオンはそう決めると、シャーロットに向けて手紙をしたためた。


 手紙をこんなにも緊張して丁寧に書いたことはない。


 何度も読み返し、書き直し、ボロボロになった部屋でやっと出来上がった手紙を、早々に北の離宮へと届けてもらう。


 そして、届けてもらってから、本当にあの手紙で大丈夫だっただろうかと部屋で悩んでしまう。


 すると、扉がノックされ弟であるアレックスが姿を現した。


「兄上。侍女が外で、部屋の片づけをしてもいいかって戸惑っているよ。ほら、隣の部屋へ移動しよう」


「ん? あぁ……まぁ、この部屋でもいいんだが」


「いやいや。兄さんの部屋、こういうことが起こるから五部屋はあるでしょう?」


「もう荒れ果てた部屋で生活でも私はいいんだが」


「僕達は嫌だよ。英雄である兄さんがボロボロの部屋にいるなんてさ」


 腕を組んでこちらを見つめるアレックスにレオンは笑みを向けて立ち上がると、その頭を優しく撫でる。


「可愛いな。さすがは私の弟だ」


「はぁ……もう。兄上の魔力がもうちょっと弱かったら、王国中の美女が押し寄せただろうにね?」


「ははは。そんなわけはないだろう」


 同じ魔力の性質を持つ兄弟間では、魔力による弊害が起きないのは救いだ。


 レオンにとっては弟に怖がられたり、恐れられたりしないことは心のよりどころでもある。


 隣の部屋へと移動すると、侍女がお茶を運び、他の侍女達は隣のレオンの部屋の片づけを手慣れた様子で行っていく。


 紅茶を飲み進めながら、レオンは呟いた。


「今度、シャーロット王女に会いに行こうと思う」


「へっ!?」


 アレックスが驚きティーカップを落とすところだったのをレオンは優雅に受け止め机の上に置きなおした。


「魔力過多である私の寿命は後少しだろう。可哀そうに、そんな私を当てがわれた王女を蔑ろにすることは出来ない」


「兄上! 諦めないでください! 方法がきっとあるはずですから!」


「アレックスは優しいな。だが、歴代の魔力過多の公爵家の者は皆そうなのだ。私の死後はそなたがカーライル公爵家を継いでいくのだ。よろしく頼むぞ」


「そんな……」


 悔しそうに俯くアレックスの頭をレオンは優しく撫でる。


「まぁその予行練習として、しばらく公爵家を頼む。私は、シャーロット王女様にとって良き婚約者でありたいのだ」


 同じ魔力を持つものだからこそ、アレックスにとってレオンは畏怖の対象ではなく、尊敬できる兄であった。


 両親亡き後、公爵家を背負ってきた兄の願いに、アレックスはうなずいた。


「もちろん。兄上の好きにしたらいいよ。でも、僕は兄上が生きている未来を諦めてはいないからね」


 その言葉にレオンはうなずき、その後、ふむと息をつく。


「王女殿下は……何を喜ばれるだろうか」


 きっと北の離宮では暇を持て余しているに違いない。だからこそ、面白い物や少しでも楽しいと思ってもらえるものを手土産に持っていきたい。


 アレックスは眉間にしわを寄せた。


「兄上……あの……相談してくださいね。兄上は……その、あまりセンスが……」


「ありがとう。だが、私も初めての婚約者だからな。婚約者殿の為に自分で考えたいのだ」


「……わかったよ。うん……兄上、普通の女性だからね。いい? それを念頭においてね」


「もちろんだ」


 それからレオンは仕事をアレックスへとある程度任せると、シャーロットのプレゼント選ぼうと自ら店へと足を運び、プレゼントを選んだ。


 それを見たアレックスが微妙な顔をした。


 兄弟であっても、趣味は大きく異なる。


 そして、支度を整えたレオンは、北の離宮へと馬車で向かう。


 国王陛下にも許可を取っており、北の離宮への入室も許可された。ただし、連れは連れて行けず、必ず一人で入るようにとくぎを刺されている。


 ただし、表ではそう言いつつも、本当にレオンが北の離宮内に入るとは思っていないと言うような雰囲気があった。


 レオンはそれを感じながらも、自分は婚約者であるし気にする必要はないだろうという気持ちでいる。


 最初の挨拶だからと、レオンは今までにない程自分の身だしなみに気を付け、仕立て屋に一級品の衣装を用意させてそれを着ている。


 怖がらせないように魔力を出来る限り、公爵量の森にて発現させ、枯渇させてきた。


 だから多少体に力が入らない。


 魔力が多すぎても枯渇させすぎても不便だから難しいものだ。


 これならば、もしかしたら怖がられないかもしれない。レオンは僅かな期待を抱き、北の離宮の門の前へと立つ。


「……ん? ……見張りは、いないのか」


 正門へと向かって立つが、そこに見張りの姿は見えない。どうやら魔道具によって鍵が駆けられており誰も通さないようにとなっているようだ。


 北の離宮は様々な事情で外へと出れない、もしくは出せない物を幽閉する施設だ。


 こんな場所に閉じ込められて、心細くしているだろう。


 ただでさえ、呪いという枷を嵌められてしまったのだ。


 せめて自分は婚約者として、生きている間だけでも力になりたい。


 そう思いながら、扉の前へと手を翳す。


 すると魔道具が反応を示す。


『王城より入室の許可がおりております。どうぞご入場ください』


 どこからか声が聞こえ、扉が開いていく。


 これほどの魔道具が仕掛けられているのかという驚きを抱きながら扉が開き、中へと入ったところでレオンは足を止める。


 後ろで扉が閉まる音がした。


「ん?」


「……え……」


 可愛らしい幼女が、籠を抱えてそこに立っていた。


幼女シャーロット!

可愛さ抜群! めちゃくちゃ可愛いので皆様にも見てほしいです(●´ω`●)

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