38話
ジョンの背中の上に乗っていると、先ほどまでに起こったことがまるで夢のようだった。
太陽が明るく大地を照らし、私はそれを見つめながら息をつく。
「大丈夫か?」
レオン様にそう尋ねられ、私はゆっくりとうなずく。
「はい……でも、これで良かったのかなって……お姉様勝手に連れてきてしまったけれど」
するとジョンが口を開く。
「なに、もしも主の姉が帰りたいと言えば、帰してやればいいだけのことだ」
あっけらかんと言われ私が驚いているとジョンは言葉を続けた。
「現状、ごたごたとしているロマーノに置いておくよりはましだろう」
その言葉に、私は確かにそうかもしれないと、考えを改める。
まずはお姉様に尋ねてみることがいいだろう。
顔をあげると、澄んだ空気が吹き抜けていく。先ほどまでの重たい空気は消えており、たくさんの妖精が一緒に森に向かって飛んでいる。
「ふふふふ。妖精さんこんなにたくさんいたんですね」
私がそう告げると、アカ、キイ、アオが私の肩と頭に座りながら答えた。
「妖精の庭があるの」
「私達の故郷ね」
「そこから応援に来てくれたのよ」
そんなところがあるのか。
世界には知らないことがたくさんあるのだなと、そんなことを思っていると、ふと、どっと疲れを感じて、私はレオン様に体重を預けてしまう。
「す、すみません。あれ……力が、入らなくて……」
「ずっと気を張っていたのだろう。大丈夫。少し目を閉じるといい」
「でも……」
「大丈夫。私が支えているから」
「……ありがとうございます」
瞼を閉じると、レオン様の心臓の音が聞こえた。
規則正しく聞こえるその音に、私は夢に誘われていったのであった。
眠ったシャーリーを見つめながらレオンは息をつく。
「無事で、本当に良かった」
するとジョンが口を開く。
「本当に良かった。それにしても、妖精達よ。そなたらは本当に過激だな」
アカ、キイ、アオは肩をすくめてジョンの頭に乗る。
「過激じゃないわよ~」
「そうそう。あの子が、森を守ってくれたから私達も守るのは当たり前」
「それに、不可侵を破った人間が悪いのよ。本当なら全部枯らしてあげようかと思ったけれど……でも、あの子本当にいい子ねぇ」
楽しそうな声でそう言う横を走るルッソが口を開く。
「けど、このめんこい娘さん連れてきて本当に良かったのか?」
その言葉にジョンが答えた。
「あぁ……残してきても……良い人生は送れないだろうからな」
レオンもそれに同意する。
「あぁ。ロマーノ王国に来てからルパートではなくグレイに捕らわれていたということも明るみにでるだろう。そうなれば……第二王子の方へと婚姻が流れることも難しいだろう。国に帰ったところで、どのような扱いを受けるかは……目に見え散るからな。それならば、自分で未来が選択できる方がいいだろう」
ルッソには貴族や王族の社会があまり分かっていないからか、理解が出来ない様子であった。
レオンは小さく息をつく。
「とにかく、一度戻らなくてはな」
すると、妖精達が楽しそうな表情でレオンに尋ねた。
「ねぇ、シャーリー大きくなったわね」
「どうなの? 好きなの?」
「愛しているの?」
楽しそうな妖精の姿に、レオンは肩をすくめた。
「なかなかお目にかかれない妖精が、こんなにもおしゃべりで色恋ごとにも食いついてくるなんて思ってもみなかった」
すると妖精達は声をあげる。
「まぁ! そうやってはぐらかすつもりね」
「妖精っていっても、聖獣とは違って私達は自由なのよ」
「そうよそうよ。私達は何にも縛られず! 自由なの! だから、教えて?」
きゅるるんっといった瞳で見つめられたレオンは笑い声を小さく立てると答えた。
「これだけ愛おしくて、好きにならない方がおかしいだろう」
「「「きゃー!!!!!」」」
妖精達は空中を飛び回り、そしてジョンは大きな声で鳴く。
「おいおいおい。あまり騒がしくするな。起きるだろうが」
レオンがそう諫めると、皆、しーとお互いにするように見つめ合った後に、笑い声をあげる。
レオンは、こんな賑やかな場に自分が混ざることがなかったので、新鮮な気持ちだった。
シャーリーの薬を飲んでから、体の中の魔力が一定に保たれている。
あれほど自分の中で暴れるように増えていた魔力が、今は落ち着いているのだ。
魔力をわざわざ枯渇させることなく、人と接することが出来る。それがどれほど幸福なことか普通の人には分からないだろう。
「シャーリーは俺にとっては救いなんだ」
小さな声でレオンはそう呟く。
眠っているシャーリーを見つめながら、レオンは安堵した表情で息をついた。
「無事で本当に良かった」
皆に優しく見守られていることを知らず、シャーリーはすやすやと寝息を立てているのであった。
安心して眠るシャーリー可愛いでしょうね(*´▽`*)