36話
それにルパート様が笑い声をあげる。
「なんだ。仰々しく現れたかと思ったら、聖獣一匹と、人間一人か」
レオン様が厳しい表情で、はっきりと告げる。
「シャーリーを帰せ。そうすれば、我々は引こう」
「主を帰せ」
二人の姿を見て少し緊張が和らぐが、私はハッと気づく。
私は今、大人の姿である。これでは自分がシャーリーだとレオン様には気づいてもらえないだろう。
けれど、そんな話題関係なしに話しは進んでいく。
「言っておくが、騎士達はただの騎士ではないぞ。魔法植物によって、魔力が増強された最強の騎士だ。さて、立った二人で敵うとでも?」
その言葉に、レオン様が笑う。
「立った二人? 目が悪いのか?」
「なんだと」
ルパート様が周囲を見回した時、足元に弓矢が射られる。
それに後ろに一歩後ずさるルパート様。
よくよく見てみれば、私達は森の民の人々によって囲まれていた。
木の陰、建物の上、様々な所に森の民が息をひそめこちらに向かって弓を構えている。
「いつの間に……っは。戦闘民族っていう名前は伊達じゃないってことか」
森の民は皆口に布のマスクをつけている。それにグレイが苦笑を浮かべた。
「催眠効果のある魔法植物対策もしてきたってことか」
ルパートはにやりと笑うと、楽しげな様子で言った。
「まぁ、別に俺は帰してもいいさ。だが、本人が帰りたがるかなぁ」
それからレオン様達に聞こえないように小声で呟く。
「わかっているな……さぁ、返事をしてやれ。笑顔で、な」
背中を押される。私は、一歩前へとふらつきながら出て、それから皆の方へと視線を向ける。
助けに来てくれた。
今すぐにでも、私は、帰りたい。
でも……。
私は、表情に笑顔を張り付ける。大丈夫。このくらい、いつも王城でやってきた。
紛い物の姫君と呼ばれ、誰にも相手にされなかった私にできることは、微笑んで、邪魔にならないようにしていることだけ。
微笑むことには、なれている。
「助けに来てくれてありがとうございます。でも、私、ここに残ろうと思います」
するとレオン様の眉間にしわが寄る。
子どもの姿ではない私が、シャーリーだと、理解、まずできていないだろう。
だから、私は口を開いた。
「騙していて、ごめんなさい。子どものシャーリーの……本当の姿は……私なんです。紛い物の姫君なんて呼ばれている……王女シャーロット・フォーサイス。呪いのせいで、子どもの姿になっていたんです。騙していて本当にごめんなさい」
私は頭を下げて謝る。
レオン様は騙されていて、怒っているだろうか。怒らない方がおかしい。
するとルパート様が言った。
「くふふふふ。ほら、本人が帰りたがっていないんだ。仕方ないんだろう」
そんなわけない。本当は……今すぐにでもレオン様の所へ帰りたい。
するとレオン様がため息をつく。何を言われるのだろうかと覚悟をしながら待っていると、優しい声が聞こえた。
「シャーリー。大丈夫だ。心配しなくていい」
「え?」
呆然と私がしていると、レオン様が真剣な顔で言った。
「作り笑いなんてしなくてもいい。すぐに助けるから、一緒に帰ろう」
ルパート様がその言葉に声をあげた。
「いいかげんにしつこくないか? 彼女は帰らないと言った。分からないのか?」
その言葉にレオン様は笑みをこぼす。
「好きな人の嘘を見抜けないほど、俺はバカじゃない。ルパート殿の方こそ、分かっていないな」
好きな人?
言葉の意味が理解できずにいると、ルパート様は、大きくため息をついた。
「はあぁぁぁ。興ざめだ。まぁ最初からシャーロットを帰すつもりも、お前達を生きて帰すつもりはない。やれ」
「「「「了解」」」」
騎士達は、剣を構えて動き始める。それは普通の動きではない。
魔力を使い体を強化した騎士達は、常人よりも素早く、それでいて力も強い。
森の民達は弓と短剣を使い戦っており、ジョンは全身を使って騎士達を薙ぎ倒し、レオン様は魔力を全身に纏わせて戦っている。
その姿を祈るように見つめていると、グレイが魔法植物を使い作ったであろういくつかの薬を取り出す。私はそれを見て、止めなければと思い、グレイの腕をつかんだ。
「やめてください。魔法植物はそんなことに使っていいものではないです!」
「は? 魔法植物は道具だ。人間が有益に使ってやるべきだろう」
「魔法植物は、争いごとに使うべきではありません!」
グレイはそんな私のことを突き飛ばす。それにルパートが声をあげた。
「おい。それは気に入っているんだ。手荒いことはするな」
「じゃあちゃんと躾けろ! はぁぁぁ。言っておくが、俺はこいつを怨んでもいるんだ。お母様がリリー王女殿下の家庭教師をクビになったのはお前のせいなんだからな!」
その言葉に、私は唇を噛むと言った。
「……違うわ」
「は?」
「……私も後から知ったことだけれど、あの頃にはマイヤー先生はご病気をわすらっていたの」
「は? そんな……ばかな……だって、母様は、ずっと元気で」
「えぇ。私にもそう見えたわ。でも、かなり無理をされていたみたい。リリーお姉様はそれを知って、マイヤー先生をやめさせたの。王族が家庭教師をやめさせることはあっても、家庭教師が自ら辞めたいとはなかなか言えないのを、知っていたのよ」
「いや、それならば母に、事前に話をすればよかっただけだろう!」
その言葉に、私は首を横に振る。
「王族の女子は……何か事件でもない限りは、そこまで発言権があるわけではないの。だからお姉様は、マイヤー先生をやめさせる理由として、私を使ったの。まぁ……本音もあったと思うわ。そして、タイミングがよかったのでしょうね」
グレイはその言葉に驚きながら、手に持っていた人形を見る。
「か、母様……本当に?」
私はその様子を見ながら呟く。
「マイヤー先生。自慢の息子がいるって、言っていたわ
「え?」
「勉強家で、なんでも覚えてしまうって。貴方のことだったのね。マイヤー先生は貴方のことを誇りに思っていたわ」
「……そんな……母様……かあ、様……」
瞳いっぱいに涙をためたグレイは、人形を抱きしめる。それを見つめながら私は言った。
「……あの頃の私は褒められたことなんてなかったから、ずっと、感謝していたの。マイヤー先生は、本当に良い先生だったわ」
グレイはうめき声をあげてうなずくと、うつむいた。
きっとグレイにも色々とあったのだろう。母のことを人形にしてまで世話するほどに。
そしてリリーお姉様をもう一度子どもに戻して、人形の母と共に仕えようとするほどに。
けれど、今のままでいいはずがない。
すると、ルパート様が言った。
「おい。グレイ。今はそんなこと関係ないだろう。集中しろ」
「あ、あぁ……」
「本当にそれでいいの? 貴方がしたかったのはこれなの?」
「俺が……したかったこと?」
「おい! いい加減にしろ。黙れ」
私はその言葉に、睨み返す。そんな私の首をぐっとルパート様は掴み絞めると声を荒げた。
「おい! お前ら! 戦うのをやめろ! こいつを殺されたくなかったらな!」
その言葉に、皆が騎士と距離を取り動きを止めた。
「やめろ! シャーリーから手を放せ!」
レオン様の声が響いて聞こえた。
私は呼吸すらうまく出来ず、うめき声をあげる。
不甲斐ない。
私は弱くて、結局何の役にも立てない。
涙が瞳から零れ落ちる。悔しくて、どうにかしたいのにどうしようもなくて。
その時だった。
「おい……おかしくないか」
グレイがそう呟いた。
「何がだ」
「木が……」
庭に生えていた草木が、茶色く変色して枯れ始める。それから、ブンブンというような羽音が、響き渡り始めた。
「なんだ」
皆が異変に気付きだす。
「お前達の仕業か! やめろ」
レオン様が口を開いた。
「違う。我々ではない」
グレイとルパート様は周囲の変化の異様さや自分たちの足元の土までもがひび割れていることに気がついた。
「なんだ、どういうことだ」
「何が、起こっている!?」
動揺する二人の一瞬の隙を突く。ジャンと森の民がそんなレオン様に道を開けるように他の騎士達を薙ぎ倒す。
ルパート様が気がついた時、レオン様が眼前にいた。
「くそっ」
ルパート様は腰の剣を引き抜き、レオン様の剣を受け止めたが、その剣の重たさに片膝をつく。
それから幾度と剣を交わし、レオン様がルパート様の剣を叩き折った。
「ルパート! よけろ!」
グレイがレオン様に向かってナイフを投げる。それをレオン様が剣にて弾く。その合間、ルパート様は私の腕を引いて逃げようとした。
私は、反射的にレオン様に手を伸ばす。
レオン様の元に戻りたい。そう思って伸ばした手だけれど、お姉様のことが脳裏をよぎる。
助けを求めてはいけないのではないか。
けれど、そんな私の手を、レオン様がぐいっと引っ張る。
「何があっても助けるし、君が不安に思うことも全てどうにかする」
私を胸の中に抱きしめながらレオン様は言った。
「だから、私の手の届くところにいてくれ」
「レオン様」
片腕で抱きしめられながら、私は涙が溢れた。
「はい……ありがとうございます」
お姉様の身代わりに呪いを受けた時のことを思い出した。
あの時の私は、手を伸ばしても、誰にも助けられることなく、絶望に呑み込まれた。
けれど、今は違う。
「レオン様、ありがとうございます」
あの時の、一人ぼっちだった自分ごと、救われた気持ちだった。
今週末で完結まで生きそうです(´∀`*)ウフフ
読んでくださる皆様に感謝です!
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