33話
「っはぁ……」
私は自分の両手を見つめ、大きく成っていることを確かめる。
大人の手だ。
ただ、何故か不思議と久しぶりな感じではない。
私は急いで洋服を着替えると外へ出ようとゆっくりと周辺を伺ってから廊下へと出る。
見つかる前に、どうにかレオン様とジャンに知らせなければ。
私は庭へと走って出ると、身を低くして、見つからないようにリュックサックから先ほどの魔法植物と種とを出していく。
近くに落ちていた石でいくつかの種を砕き、手で魔法植物の葉を何枚か千切ってもんでいく。
すると、半透明の緑色の液体が、手からぽたぽたと落ちていく。
雫が砕いた種に当たった瞬間、パチパチと音を立てて、一気に煙が噴き出し、空高くへと昇っていく。
肉眼では、見えないかもしれない。けれど、きっとジョンならこの匂いに気付くはずだ。
「よし! やったわ」
私がそう呟いた時であった。
「……なーにやってんのかな」
後ろから声が駆けられ、私は慌てて立ち上がると、走って逃げようとした。
誰かは分からないけれど、捕まらないように逃げなければ。
「鬼ごっこ?」
男の人は私のことを追いかけてくる。
必死に走るけれど、男の人の足には勝てず、腕を掴まれて地面へと押し倒された。
「あれ……君は……」
その男の人は、リリーお姉様の婚約者である、ルパート様であった。私はちらりと周囲へと視線を向けるけれど、誰もいない。
護衛もつけていないということは、ここはルパート様にとっては安全な場所だということだろう。
「……シャーロット王女? まさか、グレイが言っていた聖域の森から連れてきたのが君ってこと? 一体どうやって聖域の森に?」
名前を呼ばれ、私は、ルパート様へと視線を戻す。
何も答えないで、私はルパート様を睨みつけていると楽しそうに口元が弧を描く。
「へぇ。なんだ、良い目をするようになったじゃないか。呪いを受けた時は、弱弱しくって、興味もなかったけど……ふ~ん。いいね」
じろじろと嘗め回すように見つめられ、私は掴まれた腕を振りほどこうとするけれど、両手を拘束されてしまう。
「ははは。むだむだ。ふ~ん……なんだ。こんなに良い目をするなら、君と婚約をすればよかったな」
その言葉に、私は目を見開いた。
「……なんて……失礼なの? リリーお姉様が、リリーお姉様がどんな気持ちで貴方様と婚約したか……」
すると、興味なさそうにルパート様は言った。
「そんなのだいたい予想できるよ。あれでしょ? フォーサイス王国では、女性王族は基本政治の駒。だから、結婚相手に勝手に期待してるっていう話でしょう?」
「そんな言い方……」
「でもそうでしょう? ははは。俺達だってばかじゃない。わかるさそれくらい」
私達女性王族に結婚相手を自由に選ぶ権利はない。
国王陛下の命令に従うしかないのだ。
ルパート様は、睨みつける私の視線に楽しそうな様子でくすくすと笑う。
それから、片手で私の両手を押さえつけると、私の頬を指で撫でる。
「ふ~ん。なんだ。綺麗じゃないか。うん。リリーより全然興味深いし……そそるな。というか、脱走しているってことはもしかしてグレイがへましたのかな? あー。あいつはリリーのことに夢中で抜けているところがあるからなぁ」
その言葉からグレイと共謀していることがうかがえて、私は声をあげた。
「どうしてこんなことを? どうして、グレイの元にお姉様を? 貴方の妻となるはずでしょう?」
「リリーよりグレイの方が有能だからね。グレイはリリーさえ渡せば、魔法植物を呪いという武器として生産する。なんていう恐ろしい才能だろうね」
「そんな! 有能無能で決めることではないでしょう? それに魔法植物を武器に生産だなんて……魔法植物はそんなことのために育っているわけではないわ!」
大きな声で笑われ、私は唇を噛む。
「聖域がどうして不可侵なのか、今なら分かる。魔法植物は宝の山だ。だから両国がその取り合いで争わないようにと遥か昔に決められたのだろうな。だが、俺からしてみれば、なんと愚かなことだ。聖域を掌握し、自国にし、魔法植物を武器にすれば、ローレン王国はさらに大国になるだろう!」
その言葉に私は首を横に振る。
「いいえ。聖域は聖域たる由縁があるはず。貴方のような浅はかな考えは滅びに繋がるわ」
「ははは。それはどうだろうなぁ」
私達がにらみ合っている時、いくつかの足音が響いて聞こえたかと思うと、数名の騎士が現れ、ルパート様の耳元で何かを囁く。
「なんだと……。分かった。お前達、地下へ行き様子を見てこい。グレイが、くふふ……困っていたら、助けてやれ」
「「「はっ」」」
騎士達は走っていき、私はルパート様に抱きかかえられる。
「離して!」
「ふ~ん。そんな態度とってもいいのかな? リリーがどうなってもいいの?」
「そんな……」
「言うことを聞けば、悪いようにはしないさ」
ルパート様の言葉に、私は眉間にしわを寄せながら言い返す。
「なら、せめて、牢ではなくお姉様を普通の部屋へ戻して」
そう伝えると、楽しそうな様子でうなずいた。
「仰せのままに、お姫様」
その後、何故か楽しそうなルパート様に抱きかかえられて別の場所へと私は運ばれていった。







