31話
「リリー王女殿下。こんな場所でお待ちいただき申し訳ありません。もうすぐ、殿下の住まいが完成いたしますので、お待ちください」
「……私をここから早く出しなさい」
「もちろんです。準備ができ次第、しっかりとお世話させていただきます。私の母も、リリー王女殿下の到着を待っております」
その声は、グレイのものであり、私は驚いた。
母? どうしてグレイの母も待っているのだろうかと思っていると、リリーお姉様が口を開いた。
「……貴方、何を考えているの? それに、どうして妹のシャーロットまで誘拐したのですか!?」
「シャーロット?」
「そうよ。どうして。妹は離宮にいたはずでしょう」
「ほほう。離宮……ふふふ。ふふふふ。そうですかそうですか。なるほど。やっとわかりました。どこかで見た顔だと思ったのですよ。ははははははは」
ぞっとするような笑い声。
グレイは私の牢の前までやってくると、鉄格子を両手でつかみ、奥にいる私をじっと見据えた後に笑い声を立てた。
「あははははは。俺の呪いは完璧だったってわけだ。年齢も完璧だな」
その言葉にリリーお姉様が声を荒げる。
「シャーロットだけでも逃がしてちょうだい。貴方の目的は私なのでしょう?」
「えぇ。そうですね。でもねぇ……シャーロット王女殿下は……使えそうだ」
「え? 使え、そう?」
にやにやとグレイが笑いながら私のことをじっと見つめる。
私が黙っていると、視線をリリーお姉様の方へ向かって言った。
「俺が、魔法植物について知り、呪いを生み出すようになったきっかけをお教えしましょうか?」
昔を懐かしむように楽しそうに声が弾む。
「母様が家庭教師をクビになった日、間違えてシャーロット王女殿下の読んでいた魔法植物の本を持って帰ってきたのだ。それが……俺が魔法植物を学ぶきっかけだ」
「「え……」」
私とお姉様の声が重なった。
グレイは恍惚とした表情で言葉を続ける。
「やっと、昔のように母様は、リリー王女殿下の元で働けるのだ。やっとだ」
「ちょっと、貴方何を言っているの? それに……もしかして、貴方、マイヤー先生のご子息ということ
なの?」
「はい。俺はマイヤー・メフィスの息子、グレイ・メフィスです。これからはリリー王女殿下のお世話をさせていただきます」
お姉様がそれに声を荒げた。
「私の世話? ふざけないで。私はローレン王国の正妃となるのよ! 男性の執事はつける気はないわ! それにマイヤー先生は……」
すると、大きな声でグレイが笑い声をあげた。
「あははははははは。正妃? あぁ、残念なことに、リリー王女殿下は体調を崩されたので正妃ではなくルパート殿下の慈悲で側妃へと迎えられる予定です」
「は?」
「そして療養のためという名目で、私と母が貴方様のお世話をいたします。昔のようにね」
「ちょっと……どういう、ことなの」
「大丈夫。呪いの効力は絶大ですよ。シャーロット王女殿下がそれを、ふふふ。証明してくれましたから」
そういうと、グレイが私の牢の鍵を開けた。中に入ってきて、私を見下ろす。
私は体が震えそうになるのを堪え、逃げようとしたけれど、髪の毛を掴まれ、引き摺られる。
「痛い! やめて!」
「さぁ、大人しくこい」
「いやぁぁ」
「シャーロット! ……え?」
お姉様が牢の鉄格子に両手でつかみそう声をあげる。私はその前へと髪の毛を引っ張られて地面に転がされた。
「……シャー……ロット? なの?」
「あはあははははは! 呪いの効果が証明されましたね! 大丈夫。リリー王女殿下にも呪いをかけ、せっかくだ。お二人共お世話をして差し上げます。あぁでも、紛い物の姫君には弁えてもらわねば……お前は、正当なる王族ではないのだから」
ぐいっと髪の毛を引っ張られ、私は顔をあげさせられる。
「こんな色に生まれて、王族だと言えるはずがない」
「うぅぅ」
痛みで涙がにじむ。
「や、やめて!」
お姉様がそう声をあげると、グレイはパッと手を放した。
「リリー王女殿下の仰せのままに。いい子にすれば、ちゃんと、お世話をして差し上げますよ? 母様と一緒に、リリー王女殿下に仕えるのが私の夢だったのです」
恍惚とした表情でそう言うと、思い出したかのようにグレイが声をあげた。
「そうだ、母様も連れてきますね」
グレイは部屋の奥の方へと歩いていくと、車いすを押しながらこちらへと戻ってくる。
その声にリリーお姉様が声をあげた。
「何を言っているの? 私、たしかに、聞いたわ。マイヤー先生は、マイヤー先生は」
「ん? 母様がどうかしましたか? ここに座っていますよ。ちょっと足を悪くしてしまいましてね。車いすなんです。母様、ほら、リリー王女殿下ですよ」
「「え……」」
グレイが、押してきた車いすの上には、小さな人形が座っていた。







