26話
レオン様はメルバ様とジョンと共に何やら難しい顔で話をしており、私はどうしたのだろうかとそちらを伺う。
その時、飲み物から一瞬、魔法植物の匂いが鼻をかすめる。
この飲み物にも入っているのだろうかと思いながらも気にせず飲み続け、そしてその後、宴がお開きになる頃に、私とレオン様は先程の家まで戻った。
一緒の部屋で泊まることになってしまったけれど、子どもの姿であるし問題はないだろう。
それにしてもと、私は先程から自分が少しばかりどこかおかしいことに気付く。
いつまで経っても、宴の高揚感が抜けず、ふわふわとしているような感じがするのだ。
しかも体が次第に熱くなり始め、私は首を傾げる。
「シャーリー。私は今宵は外で一夜を明かす。だから気兼ねなく眠るといい」
「へ?」
「シャーリー?」
体が熱い。私はその場にうずくまると自分の体を抱きしめる。
「あ、熱い……」
「どうした? 熱か? 大丈夫か?」
「うぅぅぅ」
言葉にならない声が喉の奥から零れ落ち、それから私は焼けるような熱さに瞼を閉じてぐっとうずくまる。
「シャーリー……体が……」
「ふわぁぁ……うぅぅ。洋服が、苦しいです」
「ちょ、ちょっと待て! その場で脱ぐな!」
レオン様が慌てたような声を出すと、ベッドから毛布を持ってきてそれを私にかぶせた。
洋服が突然きつくなった。
私はそれを脱ぎ捨て、毛布にくるまるとレオン様に尋ねた。
「レオン様……? あの、お顔が、真っ赤です。どうかされましたか?」
そう尋ねると、レオン様は慌てた様子で、家の戸が開いているところがないか確かめ、それから床に座り込むと息を吐いた。
「はぁぁぁぁ……どういうことだ。……何故?」
「何故? ……何がですか?」
小首をかしげると、レオン様は鼻をスンと鳴らした。
「酒……まさか、シャーリー。酒を飲んだのか?」
「ふぇ? いいえ。飲んでおりません」
「だが……」
レオン様は立ちあがると私の方へと歩み寄り、それから私の頬に触れて顔を近づけると言った。
「酒の香りが……する。間違えて飲んだのか?」
「え? ど、どうでしょう。でも……たしかに、体が熱くて……ふわふわはします」
私がそう告げると、レオン様が大きくため息をついた。
「はぁぁぁ。森の民の酒には、様々な魔法植物が使われるのだと聞いた。はぁぁ。なるほど、おそらくそれで……体が元に戻ったのか」
「元に? ……へ?」
頭の中に霧がかかったように物事が考えられない。
私はこれは何だろうかと思っていると、不思議と楽しくなってくる。
「ふふふ。何でしょう。なんだかとっても楽しいです」
レオン様は家の中にある飲み水用の水がめから一杯水をくむと、それを私に差し出した。
「さぁ、飲んで」
「喉は、乾いていないのです」
「強情を張るものではないぞ」
「ふえぇ……でも、飲みたくないのです」
上目遣いでレオン様を見上げると、レオン様がうっと言葉を飲む。
「どうしました?」
私が尋ねると、レオン様は私の体を支えながら、口元に水の入ったコップを当てた。
「一口だけ、頼む」
「えー……じゃあ飲んだら、抱っこしてください」
「だ……抱っこ?」
「はい。レオン様に、前に抱っこしてもらったでしょう? 私、抱っこされたことなかったので……抱っこされるとあんなに幸せな気持ちになるなんて知らなかったんです」
「……されたことが……なかった……幸せな気持ち」
私の言葉を繰り返すようにレオン様は呟くと、覚悟を決めたようにうなずいた。
「わかった。ちゃんと飲んだら抱っこしよう」
それに、私は両手を上げて喜ぶと、レオン様が顔を真っ赤にして急いで後ろを向いた。それからコップだけをこちらに向けて差し出してくる。
私は、水を一気飲みすると、毛布にもう一度包まってから言った。
「ふふふ。飲みました」
そう告げると、レオン様はこちらにを恐る恐る振り向き、それから両手を私に向かって広げた。
その顔は未だに真っ赤である。
私はレオン様も先ほどのお酒で顔が赤くなっているのだろうかと思いながら、毛布にくるまったまま、レオン様の腕の中へと飛び込んだ。
「えへへへへ」
膝の上へと私はすわり、レオン様の胸にすり寄る。
なんだか、頭の中がふわふわしているのも相成って、レオン様の腕の中が本当に心地よい。
そんな私のことを、恐る恐ると言った様子でレオン様が抱きしめる。
温かくて、なんて幸せな気持ちになるのだろうか。
「ふふふ。幸せって、こんなところにあるのですね」
そう呟くと、レオン様が、私の頭を撫でた。
「レオン様って、優しいですね。私なんかにも、こんなに優しくて、嬉しいです」
「私……なんか」
「はい。だって、私は紛い物ですもの……」
「紛い物……か……」
「せめて、王族の色を有していたら、良かったのですが。ふふふ。残念……ぎゅってしてください」
「……酔っているな」
「へへへ。そうなのでしょうか……」
よくわからない。ただ、ふわふわしていて、あまり考えこむことも出来ない。
「この調子だと、今日あったことを明日覚えているかも怪しいな」
「そ、そんなこと、ないですよ?」
「どうだろうな。君に私は翻弄されっぱなしだというのに、どうしようもないのがもどかしい」
「もど、かしい?」
「あぁ」
レオン様は、私の頬にかかる髪を、私の耳に掛けながら呟く。
「君に近寄れたかと思えば、遠ざかっての繰り返しだ」
「遠ざかっていません」
「どうかな。まぁでも」
そこで言葉を切ると、私の髪の毛を指でもてあそんだあとレオン様が口づけを髪に落とす。
「逃がすつもりはない。私は、自分が存外嫉妬深く、執着心が強いということに、君に出会って気付いた」
「ふへ? 嫉妬? 執着心?」
「あぁ、でも酔っている君にどうこうする気はない。だが不思議なものだな。君の体が小さくなったり大きくなったり……大丈夫なのだろうか」
「えーっと……どう、でしょう?」
「ふふふ。だが、君はどうせ覚えていないんだよなぁ。まぁ、いいか。じゃあ、今日は一緒に抱っこのまま寝よう」
「いいんですか?」
「もちろん。私は我慢強い性分なのだ」
「えへへ。嬉しいです」
レオン様にぎゅっと抱き着いていると温かくて眠気がすぐにやってくる。
「ふわぁ……こんな風に、眠るのなんて初めてです……」
「そうか」
優しく頭を撫でられるのが心地よい。
「もし……もし、私が、今後も生きられて、シャーリーの呪いも解けて、結婚出来たら……こうやって、毎日一緒に眠ろう」
「ふふふ。それ、幸せですね」
「あぁ。幸せだろうな」
私達は抱きしめあったまま、眠りの中へと落ちていった。
いちゃこらシーン大好きです(*´▽`*)







