25話
「そこに残りの果物おいておきます。あと、聖獣の主様、貴方には感謝しているんだ。本当にありがとうございます。森の民は、皆、貴方の味方だ」
「え?」
「じゃあな」
そういうと、ルッソさんは出ていき、私とレオン様だけになる。
ただ、私は抱きしめられたままの状態であり、何とも言い難い。
「君は……可愛らしいのだから、私以外の異性と二人きりにならないでくれ」
「へ? は……はい」
「心配だ」
私の肩口に顔を埋めながらレオン様はそう言う。
くすぐったいけれど、なんだか寝ぼけているのが可愛らしく思えて、私は笑ってしまう。
「ふふふふ」
「笑いごとではないぞ」
「そう、ですか?」
「あぁ。至極まじめだ」
けれど、そう言った瞬間、レオン様は瞼を閉じるとこてんと床に転がって眠ってしまう。
その様子に私は笑いをぐっと堪えたのであった。
私達は結局その日は森の民の家に泊まらせてもらうことにした。
レオン様は夕刻に起きたのだけれど、私達は森の民の歓迎の宴に招待されることになったのだ。
「レオン様、公爵家の方は大丈夫ですか?」
「ん? あぁ。家に帰らないこともあると伝えてあるからな」
「そうなのですか?」
「あぁ。ある程度の状況については弟に伝えてあってな、上手くやってくれているだろう」
「まぁ……」
弟のアレックス様、色々大変なのではないかと一瞬脳裏をよぎる。
「アレックスは昔やんちゃをしていてな。私には色々と借りがあるのだ。だから、借りを今こそ帰す時と頑張ってくれているだろう」
「そう、なのですね」
兄弟の関係とはどのようなものなのだろう。
私にとって、リリーお姉様は王族の姉妹で年も近かったため、それなりに交流する機会があった。けれど、レオン様とアレックス様のような気やすい関係になったことはない。
レオン様のようなお兄様がいれば、楽しかっただろうな。
けれど、それだと結婚できないので、私は兄妹でなくてよかったな、なんて変なことを一人で頭の中で考えていた。
「シャーリー?」
「へ、あ、はい」
「宴が始まるようだ。行こうか」
「はい!」
自分が心の中で考えていたことがが、今更ながらになんだか恥ずかしくなってくる。
私はたぶん、レオン様のことが……。
その時、太鼓を打ち鳴らす音が聞こえ始めた。宴の会場には松明がいくつも掲げられていて明るくなっている。
「わぁぁ」
「行こう。向こうに席が用意されているようだ」
太鼓がいくつも並べられており、大きな太鼓を打ち鳴らす人もいる。
ジョン様はすでに酔っているのか、楽しそうな声をあげている。
「いいぞ! いいぞ! 太鼓をならせ~ あ、主! レオンも大丈夫か? 魔法植物はすでに採取してあるぞ」
するとジョンの背中には妖精達も乗っていた。
「起きたのねー!」
「魔法植物こっちも採り終わったわよ~」
「一緒に座りましょう」
妖精達は私の所へと来ると、頭の上に乗った。
ちょっとだけ頭が重たくなる。
私が頭をぐらぐらとしながらもジョンの横に用意されたクッションの上に座る。
ふかふかしてとても心地がいい。
「すっごくふわふわなクッションですね」
私がそう言うと、飲み物を運んできたルッソさんが言った。
「それ、森で捕まえた鳥獣型の魔物の毛を中に詰め込んでいるんだよ。すげぇ気持ちいだろう?」
魔物の毛という単語に私は驚きながらも、たしかにふわふわで気持ちがいいなとそう思う。
「ほら、飲み物。レオン様は酒でいいか?」
「あぁ。ありがとう」
「わぁ! ありがとうございます」
病み上がりのレオン様にお酒大丈夫だろうかと少し心配になるけれど、レオン様が笑顔でそれを受け取っていた。
「うっまいぞ。ほら、乾杯」
「乾杯早いな。あぁ、乾杯」
二人はそういうと、酒を飲みかわした。
あまりにも美味しそうに飲むものだから、私は気になって尋ねた。
「お酒って、そんなに美味しいんですか?」
私の言葉にルッソさんが苦笑を浮かべた。
「おこちゃまは、まだ駄目だからな」
それにレオン様も賛同する。
「あぁ。それにこの酒は結構強いからな。匂いだけ嗅いでみるか?」
差し出された木のコップに注がれた酒の匂いを、私は鼻でスンスンと嗅いで目を丸くした。
「これ、魔法植物が入ってますね!」
「「え?」」
二人共私の言葉に目を丸くする。
「香りを嗅げば分かります」
私が自慢げにそう告げると、ルッソさんが酒の匂いを嗅ぎながら言った。
「俺には、全く分かんねぇな。酒造りを俺はやったことないし……鼻がいいんだな」
「たしかに……」
これまで気づいたことはなかったけれど、私は鼻がいいのだろうか。
そこでふと、確かに匂いには昔から敏感だったなと思い出す。
「自分でも気づかなかったです」
そう告げると、ルッソさんはなるほどなぁと言った後に少しか考えると思いついたのか走って行った。
どうしたのだろうかと思っていると、お盆を両手に持ってこちらへと戻ってくる。
「良いもん持ってきた。ちょっとシャーリー様借ります!」
レオン様は苦笑を浮かべうなずく。
お盆の上には木の水の入ったコップと、魔法植物の花が一輪乗っており、ルッソさんは楽しそうに声をあげる。
「聖獣様の主様による、匂い当てゲームをするぞ!」
「え?」
あれよあれよという間に、森の民の皆さんの中央へと私はルッソさんに押されていく。
皆がなんだなんだとこちらを見て、私はドキドキしながらルッソさんに言った。
「え、え、あの、そんな、無理です。は、恥ずかしいです」
「よーしよしよし。もし当てることが出来たら! 景品だそう!」
「景品?」
「魔法植物好きなんだろう? 一年に一度咲く魔法植物が、丁度明日開花日だ! それをあげよう!」
「やります!!!!!」
私は勢いよく手をあげる。
「よし! じゃあ、後ろを向いてくれ。一つのコップにだけ、魔法植物の蜜を入れる。それを当てられるか!」
「わかりました!」
私は後ろを向いて、念のため両手で顔を覆う。
「よし! 色は変わっていない! さぁ、分かるか!」
声がかけられて、振り返るとお盆の上に乗った木のコップをじっと見る。見た目は変わらずどれも同じだ。
私はコップに鼻を近づけて一つ一つ嗅いでいった。
「あ、これです!」
それはすぐに分かった。
一つのコップを私が手に取って掲げると、皆から歓声が沸き起こった。
「すごいな!」
「嗅がせて! えー!? まったく何の香りもしない」
「私にも! う……ん。しないわ」
「俺も俺も!」
皆が私の当てたコップの匂いを嗅いで、首を傾げている。
「もう一回やってもらおう!」
「賛成!」
会場は盛り上がり、匂い当てゲームが始まった。
私は繰り返し繰り返し何度も当てると、皆が驚いたような顔で歓声を上げる。
自分にこんな才能があったなんてと思いながら、私はしばしゲームを楽しんだのであった。
それからは席に戻ってレオン様と一緒にご飯を食べたり、余興を見たりして楽しく過ごした。
こんな風に大勢に囲まれて、一緒に食事をとることは初めてである。
高揚すると言うのはこういうことなのかもしれない。
初めて体験するその雰囲気に、私は手渡された飲み物を笑顔で受け取って飲んでいた。







