23話
「レオン様!」
私は、魔力の渦に負けないように一歩、また一歩と近寄っていくと、レオン様がこちらに気付いて声をあげた。
「シャー……リー? どうして……逃げ……ろ」
こんな時ですら、自分のことではなく私のことを心配するレオン様。
私は声をあげた。
「大丈夫ですか!? これは、魔力暴走ですか!?」
「……ぐぅ……すまない。魔力過多症による、魔力暴走だ……ぐうぅぅぅぅ」
「そんな……」
「ずっと……言えて、いなかったが……ジョン殿と違って、私の魔力暴走は……命を蝕むのだ」
「え?」
「ぐっぅううう。私はいずれ、魔力暴走によって体が壊れ……死ぬ、運命にある」
カーライル家の方に、短命な人物が多い。それを貴族名鑑で見た時には分からなかった。
けれど、レオン様の言葉で、私は、これが理由だったのかと思い至る。
「そんな……」
「すま……ない。落ちる時に魔力を使ったら、聖域というのもあってか、体の中の魔力量が何故か一気に増えてしまってな……ぐぅ……逃げろ。このままでは、シャーリーも、巻き込んでしまう……」
私は、唇を噛むと覚悟を決める。
「レオン様! このままだと、魔力にレオン様は呑み込まれて、死んでしまうかもれません! だから、だから」
ジョンの魔力暴走があってから、何回か試験薬の改良は行ってきた。だけれど、まだ完成ではない。
「まだ副作用は、あるかもしれないです。でも……」
魔力暴走をまたジョンがいつ起こしてもいいようにと、ポケットの中にいつも魔力を抑制する試験薬を入れてきていた。
それを、私はポケットから取り出す。
「レオン様……魔力抑制の試験薬を、使っても、いいですか?」
まだまだ実験は足りない。そう思う。けれど、このままじゃレオン様は危険な状態だ。
魔力暴走の規模が多すぎて、魔力を制御できていない。
今のままだと全身の魔力を使いすぎて……いずれ命ごと尽きてしまうだろう。
「レオン様……! お願いします!」
目から涙が溢れていた。
失いたくない。死んでほしくない。
こんなに怖いのは初めてで、私が泣きながらそう叫ぶとレオン様が、優しく微笑んだ。
「……ははは。ありがとう。……どうせこのままじゃ未来は見えているから……頼む」
その言葉に、私は試験薬の蓋を開けた。
「魔力を限界まで、どうにか抑える。その間に、薬を、頼む」
「はい!」
恐らく、もうレオン様は限界だったのだろう。
顔面は蒼白になり、苦しそうな声だった。
けれど、私を巻き込まない為に、一人で移動し、そして一人でこの大量の暴力のような魔力に耐えてきたのだ。
絶対に助けたい。
レオン様が全身の力を込めて、魔力の渦を一瞬抑えたその隙に、私は駆けだした。
「レオン様!」
そして、レオン様の口の中へと、試験薬を注ぎ込む。
ゴクリと、レオン様がそれを呑み込んだ時だった。
清涼な、みどりの風がその場に吹き抜けていった。
渦巻いていた赤黒い魔力が空気中に霧散し、綺麗な緑の風へと変貌したのである。
「シャー……リー……ありが……」
「レオン様!」
私がそう声をあげ、倒れそうになったレオン様の体を支える。
「レオン様! レオン様!」
「だい……じょうぶ……ただ、少し……休む……」
糸が切れてしまったかのようにレオン様はそう呟き意識を失った様子だ。
私の体はまだ子どもなので、レオン様を支えてあげることもできず、潰されるように倒れた。
近くにレオン様がいすぎて、心臓に悪い。
そして筋肉に押しつぶされて苦しいけれど、温かくて居心地がよくて……私はハッとして自分の邪な煩悩を打ち消そうとする。
その時だった。
「あら、シャーリー」
「つぶれているわね」
「さっきの魔力ってその彼?」
アカ、キイ、アオの三人の妖精が現れると私達の周りをくるくると回る。それから楽しそうな様子でレオン様を私の上からひょいと持ち上げてどける。
その小さな体のどこにそんな力があるのだろうかと驚いた。
「あ、ありがとうございます」
そう告げると、妖精達は私のことをじーっと見つめると言った。
「この前、森の民助けたそうね」
「すごいじゃない」
「ちなみに今は何をしていたの?」
私はレオン様が眠っているだけなのを確認すると答えた。
「実は、また無効化薬を作りたくて、それに必要な材料を採りにきたんです。ジョンに遠くのものを採りに行ってもらっています」
すると、妖精達が私の両肩と頭に乗る。
「なら手伝うわよ」
「何を集めるの?」
「教えて頂戴な」
親切な妖精達だなと思い、私は持ってきた必要な魔法植物一覧の紙をポケットから取り出した。それを見せると、妖精達が言った。
「あはは。私文字読めないんだったわ」
「私も。ふふふん。口で言ってちょうだい」
「妖精に文字必要ないものねぇ」
けらけらと笑いながらそう言う妖精達に、私は苦笑を浮かべると、いくつかの魔法植物を伝えて採ってくるのをお願いした。
「おっけい! わかったわ。じゃあ移動しましょう」
「近くに洞穴あるから、そこで休んでおきなさいな」
「そうね。ここじゃさすがに雨降ったら大変だしね」
そういうと手際よく三人がレオン様の体を持ち上げて運び始める。私は慌ててそれに着いて行った。
洞窟の中は少しひんやりとしていて、居心地がいい。
「ジョンにも伝えておくわ」
「しばらくしたら迎えに来るでしょう」
「じっとしておきなさい。貴方はジョンの主だからこの森では襲われないけれど、レオンは違うわよ」
その言葉に、私はぞっとした。
私がレオン様をしっかりと守ってあげなければと思い力強くうなずく。
「「「じゃあいってきます!」」」
「ありがとうございます!」
私は、三人を見送ると、レオン様をちゃんと守らなければと気合を入れて、隣に座ったのであった。
けれど、ただ隣に座るだけなのも暇なので、いつも肩から下げているポシェットからいくつかの魔道具を取り出す。
近くに落ちていた小枝を集めて焚火の準備をすると、火をつける魔道具で火をつけ、紅茶の出る魔道具で温かなお茶を入れた。
しばらくすると、森の中に雨が降り始める。
「よかった……妖精達の言う通りにしていて助かったわ」
雨が降りだすと外が一気に暗くなる。私は焚火を付けていて良かった。
揺れている炎を眺めているだけで、どうしてこんなに心が穏やかな気持ちになれるのか。
「うぅ……」
「レオン様?」
うなり語が聞こえて慌ててレオン様の様子を見ると、ゆっくりと瞼が開いたのであった。







