21話
「おはよう。調子はどうだ? 食べやすいものをと思ってプリンやゼリーを持ってきたのだが、食欲はあるだろうか」
そういわれ、私は笑顔でうなずく。
「ありがとうございます。体調は良くなりました。レオン様のおかげです。本当に、ありがとうございました」
そう告げると、レオン様は私の元までやってきて、額に手を当てた。
「うん……よかった。熱はもうないな」
「は、はい」
「手土産は冷やしておくようの魔道具へ入れておくぞ」
「ありがとうございます」
「あとで一緒にプリン食べよう」
「はい」
最近知ったことだけれど、レオン様も甘い物が好きなのだという。
手土産に甘い物が多いのはそういう理由だったのだかと納得がいった。
「今は何をしているのだ?」
レオン様に尋ねられ、私は一瞬言葉に詰まる。
それから、ゆっくりと答える。
「シャーロット王女殿下にかけらえれた、呪いの無効化に必要な魔法植物を調べていました」
「……そう、なのか? 呪いは無効化できるのか?」
「はい。できそうです。ただ、ジョンの森で魔法植物を見つけに行かないといけませんが」
私の言葉に、レオン様はなるほどとうなずくと言った。
「そうか。では一緒に頑張って魔法植物を見つけよう」
当たり前のようにそう言われ、私は尋ねた。
「力を貸してくれるのですか?」
それにレオン様は眉間にしわを寄せる。
「当り前だろう。シャーリー。私も腕に覚えはある。君を守りながら魔法植物を採取することも可能だ。まあ、ジョン殿と契約している故、下手な獣も襲ってはこないだろうがな」
当たり前のようにそう言ってくれるレオン様。私はありがたく思いながら、意を決して口を開いた。
「レ……レオン様。私、レオン様にちゃんと話さなくてはいけないことがあるんです」
「……あぁ」
「それで、呪いが無効化できたら、聞いてもらえるでしょうか」
私の言葉に、レオン様はうなずく。
「あぁ。私も、君に伝えなければならないことがあるんだ」
「え?」
「言っておきたいことがある。だから、私の話も聞いてくれるか?」
思いがけない言葉だったけれど、私はすぐにうなずいた。
「もちろんです」
「よかった」
ほっとしたように笑うレオン様に、何の話だろうかと不思議に思った。
私とレオン様は、魔法植物を採取するためにプリンを一緒に食べてから魔道具の扉を潜り抜けた。
レオン様が持ってきてくれたプリンは最高に美味しかった。
帰ってきたらゼリーも食べようと約束をしている。
爽やかな風を感じながら、ふと私は誰かと約束をすることなど初めてだなと気づいた。
私にはまだまだ体験したことのないことがたくさんある。これからレオン様と一緒に過ごす中で、経験出来たら素敵なことだろう。
「主! 体調はどうだ?」
扉の前で待っていたのか、ジョンが体をむくりと起き上がらせてこちらにとことこと歩いてくる。
「大丈夫です。心配してくれてありがとうございます。えっと、待っていてくれたんですか?」
顔を摺り寄せてくるジョンのことを撫でる。
「あぁ。心配だった。人は……すぐに死んでしまうからな」
そう呟くジョンの声は、すごく寂しそうであった。
私ではない誰かを思って呟かれた言葉だということはすぐに分かった。
きっと大切な人だったのだろう。
私はぎゅっとジョンを抱きしめる。
「すぐに死なないように気を付けますね」
するとジョンが喉の奥で笑い声を立てる。
「ふふふ。そういうところもよく似ている。さて、今日はどうするのだ?」
私は意を決するとジョンに向かって言った。
「必要な魔法植物があるのです。それらを採りに行こうと思っています」
「そうか。遠くにあるものは我が採ってこよう」
「いいのですか?」
「もちろんだ。そなたは、我が主だからな」
「ありがとうございます!」
ジョンに必要な魔法植物の生えている地点を数か所教えてもらい、私とレオン様はそこへと向かう。
ジョンはかなり距離のある場所にしか生えていない魔法植物を採りに向かってくれた。
私とレオン様は森の中を二人で歩きながら、ところどころに生えている、必要な魔法植物を採っていく。
その合間に他愛のない会話を続けていた。
何が好きだとか、読んだことのある本だとか。
こうして聞いてみると、レオン様について色々と知れて嬉しく思った。
そうするうちに家族の話へと移っていく。
「前に、弟がいると言っただろう?」
「はい。可愛らしい方なんですよね」
「あぁ。すごく可愛い。今は私よりも公爵家をうまく切り盛りしているくらいだ」
その言葉に、私は若干の違和感を抱く。
国の英雄と謳われるレオン様だ。公爵家を引き継ぐのはレオン様だろう。
けれど、公爵家を切り盛りしているのは弟のアレックス様だという。そう言えばとふと気づく。
こんなにも毎日私の所へと足しげく通っているレオン様だけれど、仕事はいいのだろうか。
普通公爵とは時間のあるものではないと推測できる。
「ただ、アレックスはお節介やきなところがあってな、シャーロット王女殿下へのプレゼントも、本当にそれでいいのか、やめたほうがいいんじゃないかってすごく言われたのだ」
「え? 素敵なプレゼントでしたよ? あのお面、奇抜な色合いが素敵で……と、シャーロット王女殿下も言っていました」
「だろう? どうにも弟とは趣味が合わないんだ。あんな変なものを喜ぶレディはいません! って言われたのだ」
「まぁ……アレックス様の好みではなかったのですね。でも私も素敵だと思いました」
「だろう?」
趣味の合う合わないはあるだろう。
「やはり、同じ血が流れていても趣味嗜好とは違うものだなと感じたのだ」
「そうですね……私も、お姉様とは全く違います」
「ん?」
「お姉様はとても素晴らしい人なんです。私は必死でやらなくてはできないことでも、すらすらと行う。ずっと、お姉様には憧れていました。まぁ……私は嫌われていましたが」
「……シャーリー」
「仕方のないことです。私とお姉様では……違い過ぎたのですから」
異国の血が混ざる私が、そもそもお姉様に憧れることすら傲りだったのだ。
「違うか……だが、違うからこそ私はいいのではないかと思う」
「え?」
「違わなければ同じ方向ばかり見るだろう。同じ方向ばかりを見ていると、想定外のことが起こった時、対処はできない。君が、森の民を救ったのも、そうだ。もし君が魔法植物という人が詳しく知りえないことを同じように知らず学んでいなければ、森の民は大変なことになっていただろう」
「あ……」
「多角的方向に、人が向いていることは悪いことではない。違うことは悪いことではない」
そう言われ、私は歩いていた足を止めた。
王族として、王族らしくあらねばならない。
王族として、お姉様のようにならなければならない。
王族として、役に立たねばならない。
私に絡みついていたものが、伸し掛かっていたものが、レオン様のその言葉によって、剥がれ落ちていく感覚がしたのであった。
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