20話
鳥のさえずりが聞こえ、私はゆっくりと瞼を開けた。
体のだるさがまだ残っているものの、すっきりと目覚めることが出来た。
「……朝……」
夢を見た。
私の看病をレオン様がしてくれて、ずっと傍に居てくれるという夢。
体を起き上がらせてみれば、私の部屋には誰もいない。それはそうだ。レオン様が私の看病をしてくれるなんてことはない……。
そう思った時、額の上に乗せられていたタオルが落ちる。
「え?」
視線を彷徨わせれば、ベッドの近くには水差しとタオルを冷やす用の水桶などが置かれている。
混乱していると、部屋の扉が開いた。
「あ、目覚めたのか? おはよう」
「へ? レオン……様?」
「ん? あぁ。昨日は熱を出していたから、ひと晩ここにいさせてもらったんだ。さぁ、調子はどうだ? 食欲は?」
「だ、大丈夫ですが……ひと晩?」
ここに、泊まって私のことを看病してくれていたのだろうか。
もしや、寝顔を見られたのだろうか。
そう思うと、申し訳なさと羞恥心とが湧き上がってくる。
「おおおおおおお手数おかけしてしまい、ももももももも申し訳ありません」
「いや、いいんだ。私がそうしたかっただけだ。朝食を私の侍従に届けさせて運んできた」
レオン様の手には籠がもたれており、それを開けるとレオン様は果物を取り出し、一口フォークに挿すと私の方へと差し出す。
「果物であれば食べられるか?」
「え? は、はい」
フォークを受け取ろうかと思ったのだけれど、レオン様がそれを私の口元へと差し出す。
私はじっとそれを見つめた後、レオン様へと視線を向ける。
「食欲がないか?」
「え? いえ……あの……」
自分で食べられますと言おうと思ったけれど、なんだかレオン様の視線からそれをいうこともはばかられて、口を開けた。
するとそこにレオン様が果物を入れてくれる。
咀嚼していると、レオン様がほっとした様子で微笑むから、なんだかいいようのない感情が湧き上がって来た。
「……おいしいです」
「もし食欲があれば、サンドイッチなどもあるから」
「は、はい……」
私は少し俯くと、自分の小さな手が目に映る。
そうだ。私は今、子どもの姿。ならば、まぁ許されるかもしれない。
レオン様の優しさに甘えて、私は食事を食べさせてもらったのであった。
それから食事を終えた私は、そこでハッと気づく。
「も、申し訳ありません。私、そのシャーロット王女殿下のお世話をしにいかなければなりませんので、その……」
ずっとこのままだと、シャーロット王女を蔑ろにする悪い侍女だと思われるかもしれない。
そんな私をレオン様はじっと見つめると、小さく息をついてから言った。
「自分の仕事に責任を持つことは大事だが、無理はしないように。私がここに居てもゆっくりできないな。また明日くる」
「あ……」
席を立ったレオン様の服を私は思わずつかんでしまい、慌ててそれを放す。
何故掴んでしまったのか自分でも分からずおろおろとしていると、レオン様の大きな手が私の頭を優しく撫でた。
「また明日。シャーロット王女殿下にも、いずれお会いしたいと伝えていてくれるかい?」
「は……はい」
「では、また明日」
そう言うとレオン様は部屋を立ち去っていく。
私はその背を見送りながら、少しばかりの寂しさを覚えたのであった。
その日は一日ゆっくりと眠った。翌日には元気を取り戻しており、鏡に映った自分を見て私はゆっくりと決意を固める。
「あの森に生えている魔法植物を使えば、私に掛けられた呪いも解けるかもしれない」
自分の呪いを解くことよりも、研究の方を優先してこれまで過ごしてきてしまった。
このままでもいい、戻らなくてもいい、そんな考えがあった。
けれど、レオン様を知って、レオン様と時間を共に過ごした私は、婚約者としてちゃんとシャーロットとしてレオン様に会いたいと、そう思ったのだ。
「ちゃんと自分に掛けられた呪いとも、向き合おう」
私はそう心に決めた。
その為には、自分に掛けられた呪いの成分を解読し、その上で、呪いを無効化するために必要な魔法植物を集めなければならない。
「頑張ろう。ちゃんとレオン様にも……私が、シャーロットですと、信じてもらえるように」
無効化する薬が出来上がったら元の姿に戻り説明し、誠心誠意謝ろう。
そう決めると、私は朝の支度を済ませると立ち上がり、昼食の運ばれてくる籠を取りに行く。
そして朝食をさっと食べ終えると温室の中にある私の研究室へと向かい、魔道具を使って保管しておいた呪いの小瓶を棚から取り出す。
それをじっと見つめながら、お姉様を襲おうとした犯人が脳裏をちらつく。
あの時、ルパート様はお姉様の傍に居た。だからあの男はお姉様の婚約者ではない。
けれど、メルバ様が持っていたあのネックレスにかけられた呪いは、魔法植物を使って作られたものであり、私に掛けられた呪いと似た匂いがした。
魔法植物から呪いを生み出す。そんなこと考えたこともなかったけれど、たしかに、悪用しようとすばそうした使い方の可能性もあるのかもしれない。
早急に解明しなければと思った。
小瓶の中には呪いの雫が数滴残されていた。それを元に、どの魔法植物が使われたのか魔道具を使いながら調べていく。
この魔道具は、おそらく以前ここの離宮に幽閉された誰かのためのものなのだろう。そこには私も知らない魔法植物が記録されていた。
そして今まで採取してきた魔法植物の中で適した物があれば見つけられるのだ。それが分かれば無効化するための薬も作れる。
そして成分が割り出されると、無効化に必要な植物も分かった。
「よし……これで……」
呪いが解けたとしたら、私はどうなるのだろうか。
不安はあるけれど、私はレオン様にちゃんとシャーロットとして会いたい。そう思い、私が気合を入れた時、レオン様がやってきたのであった。







