15話
私はそれにほっとしているとルッソと呼ばれていた男の人が前へとでた。
「俺は……ルッソ。……聖獣様の高貴なる名前がジョン……様……なのですね」
何故そんな顔をするのだろうかと私がちらりとレオン様を見ると、レオン様が何故か笑いをこらえているような表情だ。
「あの、もしかして……ジョンって名前、変でした?」
「そ、そんなことはありません! 素晴らしいお名前です。ただ……その、親しみのある感じだったので、そこがなんだか不思議で、えっとその……すみません。そして、聖獣様の主様とは知らず、申し訳ございませんでした」
そう言うと、森の民の男の人達がその場に膝をつきこちらに頭を下げてくる。
それに私は慌てて言った。
「そ、そんな。貴方方の大切な森だと知らずに、ずけずけと入ってしまい、こちらこそ申し訳ありませんでした」
そんな私達の会話を気にする様子もなく、ジョンは尋ねた。
「森の民よ。それにしても、どうしてこのような場所に? ここはそなたらの住まいから遠いだろう」
ジョンの言葉にルッソさんはその場で跪きながら言った。
「そ、それが。森の民の集落にて問題が起こって、聖獣様にお力をお借り出来ないかと、探しに来たのです!」
「問題?」
何かあったのだろうかと私が首を傾げると、ジョンが言った。
「一度見に行ってみるか。主、我は行ってくるが……どうする?」
私は何が起きているのか気になったので尋ねてみた。
「一緒に行ってもいいですか?」
するとレオン様が言った。
「シャーリーが行くならば私も行きたい」
ジョンはうなずくと、体を伏せると言った。
「ならば、二人共我が背に乗れ」
その言葉に私は驚いていると、レオン様は迷うことなくその背に私を担いだまま乗った。
ルッソさんはその様子に呆然とした様子で呟く。
「聖獣様の……背中に……」
ジョンはそんなルッソさんに向かって告げる。
「その場に案内せよ。ついていく」
「は、はい! こちらです!」
ルッソさんはすぐにうなずき、慣れた様子で森の中を駆けだした。それに他の森の民の人々もついていく。
木の枝やツルを使って移動をするルッソさんは、森の民というだけあって、森の中の移動が常人ならざる速さである。
それを見つめながら、小声でレオン様が呟く。
「森の民……聖獣……シャーリー。ここはすごい場所かもしれない」
「え?」
それ以上レオン様は何も言わなかったけれど、何かを考えている様子であった。
森の中には木々が生い茂っていると言うのに、一切ぶつからないことに驚いていると、私は気づく。
「違う。植物が、動いているんだわ」
ジョンが避けているのだと最初は思った。けれどよくよく見てみれば、植物の方がジョンに道を開けているのである。
まさに、木が避けている状態である。
するとジョンが口を開いた。
「この森の植物は大半が魔法植物だからな。普通の森よりも走りやすいのだ」
その言葉に私は魔法植物にはそんなことも可能なのかと驚いた。
やはり文献で見るだけでは知りえないことがたくさんある。
この森の中の魔法植物をもっと調べてまとめていきたい。
私がそんなことを考えていると、ルッソさんが指を指して声をあげた。
「もうすぐ着きます! あの、のろしの上がっている場所です」
その言葉に私とレオン様が視線を向けると、たしかに煙の上がっている場所がある。
私達が到達すると、そこには小さな村があった。
藁の家がいくつも立ち並んでおり、広場のような場所に、人だかりができている。
そしてジョンがくると、皆が跪いて頭を下げた。
松明がいくつも立てられており、その煙と焼ける匂いに少しばかり目がしゅぱしゅぱとする。
一人の年配の女性がジョンの目の前に進み出ると、頭を深々と下げて言った。
「聖獣様、来て下さりありがとうございます」
ルッソさんはその方の所へと向かうと一礼して私達の説明を行う。
「おばば様、聖獣様をお連れしました……あと、背中の方々は、聖獣様の主様と……あと連れの方です」
「聖獣様、本日は来て下さりありがとうございます。そして聖獣様の主様方も、来て下さりありがとうございます。この森の民を取りまとめているメルバと申します」
私とレオン様はジョンの背中から下りると頭を下げる。
「こんにちは。本日は突然来てしまいすみません。シャーリーです」
「丁寧にあいさつありがとうございます。私はレオンと言います」
そう告げると、メルバ様は頭をゆっくりと下げた後、ジョンの方を向いて言った。
「見ていただきたい物があるのです。よろしいでしょうか」
ジョンがうなずくと、メルバ様は歩き始め、それに私達はついていく。
「あの、私達もついていってもいいのでしょうか」
私が歩きながら尋ねると、メルバ様はうなずいた。
「もちろんです。聖獣様が認められた主様ですから、どうぞ見てください。我が森の民にとっては一大事にございます」
他の森の民の方々は頭を下げたままこちらについてくる様子はない。
本当にジョンのことを神様のように敬っている様子だ。
少し歩いた先に、大木が両側にあり、そこの先に、小さな祠があった。ルッソさんは大木の所で止まり、そこからはついてくる様子がない。
そしてその祠の裏手側に、小さな黒い魔法植物が生えている。
それを見た瞬間、ジョンがうなり声をあげる。
「……これは……」
レオン様も構えており、二人の表情が曇る。それを見つめながら私は魔法植物を観察する。
それは黒く染まっているが、私も知っている魔法植物である。
「ルピタ魔法植物ですね。地中の魔力を吸い上げて空気中に放出する」
私がそう口にすると、ジョンがうなずく。それから、口を開いた。
「いつからこの色に?」
「十日ほど前でございます。それまでは、心地の良い魔力を吐き出してくれていたのですが……」
「まずいな。このままだと死人が出るぞ」
ジョンの言葉に、皆が目を丸くした。
ファンタジーな雰囲気が大好きです(●´ω`●)







