応用特訓
「う、うーん。」
小鳥のさえずりが聞こえてきて、目を擦りながら起き上がる。もうすっかり朝のようだ。
おはよ!!
おはようグランツ。
片目で見ると、ステラ姉は荷物を片付けていた。
「起きたか。」
「うーん。頭がぼーっとする。体も、なんか痛い。」
「そりゃ、昨日は慣れないことだらけだっただろうしな。水はいるか?」
「……いいの?」
「あぁ。」
「ありがとう。」
水を飲むと、大分頭がスッキリした。背伸びをし、立ち上がると水筒を返した。
「あ、ステラ姉に昨日渡したかった物があったんだけど。」
「ん?」
「昨日の話を聞いてね、もしかしたらって思って……どこにやったかな。」
荷物を探りながら言った。
「あ、あったあった。はい。これステラ姉のでしょ?」
「それは……。」
うちは複雑な紋様が刻まれた銀色の珠を掴む龍の爪を象ったペンダントを手渡した。
「昨日の話で、龍舎にいたのはステラ姉だけなんでしょ?なら、これってステラ姉のかなって。」
「父の形見だ。一体どこで?」
「龍舎の中にあった。」
ステラ姉は切れていた紐を直してしまうと、それを首にかけた。
「これはとても大事なものなんだ。もう戻ってこないと思っていたが……ありがとう。」
「たまたま見つけただけだから。それに、色々と良くして貰ってるし。お礼を言うのはこっちの方だし。」
「そうか。よし、片付けも終わったし、応用特訓に入るぞ。」
「やった!」
え〜、ぼく特訓よりも美味しいものをたくさん食べてたいよ。
終わったら食べられるよ……多分ね。
ぶー。
うちはグランツに乗ると、空へと飛び立った。
「早く〜!」
「元気だな〜。」
ステラ姉を待ちながら、上空を飛び回っていた。最初は怖かった上空も、今はとても楽しい。色んな技をやってみたい。お兄ちゃんにも、この楽しさを感じて欲しかったな。
「はぁ〜ほんっと最高!」
ね!
「グランツも?」
うん!元々飛び回るの大好きだもん!あと、食べることと走ること、転がることに…
「わ、分かった。分かったから。」
「待たせたな。」
「遅かったね。何をしていたの?」
「焚き火の跡を消していた。見つかられると困るか…」
「海よ!海が見える!応用特訓は海沿いでやるんでしょ?早く行きましょ!グランツ!」
うん!
「……やれやれ。」
うちはしっかりと鞍を掴んだ。ビュービューと風が顔に当たる。風が強くてあまり分からないが、微かに潮の匂いがする。
海沿いに着くと、早速グランツが海で大はしゃぎして遊び始めた。
「綺麗……。」
「海は初めてか?」
「まぁ。写真くらいでしか見たことないかな。ねぇ、海の向こうに行ったことはあるの?」
徒歩で移動しながら話す。
「無いな。」
「ふーん。海の向こうってどうなってるのかな。」
「ここと同じように大陸があって、国があるだろうな。」
「王族は外国の人と交流しなかったの?」
「貿易や移民に対して交流することはあるが、そこの人のトップには交流しなかったな。まぁ、手紙は届くことがあったが。」
「どんな手紙が来るの?」
「大体の国が同盟を結んでくれって話ばかりだな。あとは、ドラゴン、もしくは卵を取引で寄越せって話か。」
「外の国にはドラゴンがいないのね。ってなんで知ってるの?」
「精鋭部隊の司令官だからな。普通に耳に入る。あぁそういえば、お前が住む村も移住者の集まりだぞ。」
「え、そうなの?」
「グラダリウス大陸にある村や街は基本的にダヴィンレイズ王国の国民だ。だが、ピク村に住む村民に関しては正式に国民とは認められていない。それで他の村や街、城下町に移り住むことを禁じられている。」
「へぇ……。」
「着いたぞ。」
見ると、海には大小様々な石柱が沢山疎らに立っていた。
「応用特訓は何をするの?」
「俺に攻撃を当てろ。」
「……え、え〜楽しそうではあるけど、無理じゃない?だって司令官だったんでしょ?」
「お兄さんを助けるなら俺よりも強いヤツと相手しないといけなくなる時が来る。まぁ手は抜くよ……多分な。」
「た、多分って……いや、本気でやって。」
「いいのか?容赦はしないぞ?」
「本気でやってくれなきゃ意味が無い。強くなりたいもん。」
ステラ姉は軽く微笑んだ。
「その意気だ。だが、さすがに今の俺じゃ本気を出したくても出せんな。今は勘弁してくれ。」
「わかった。よし、グランツ!ってあれ?」
後ろを振り返ると、グランツがいなかった。
「え、どこ行ったの?」
すると、砂がもくもくと隆起すると、砂が一気に飛び散った。
ひゃっっっほぉぉぉ!!!
「あんたってドラゴンは……もう。」
グレイヴはと言うと、嫌そうな顔をしながら自分を砂埃から翼で守っていた。
「やれやれ。お前たちは似た者同士だなぁ。」
「え?嘘あんなのと一緒にしないで。」
ぼく今度は海で泳いでくる!
そう言いながら一直線に海に向かって舌を出して走り出した。
「こら!このアホドラゴン!待ちなさい!」
うちはグランツの尻尾を掴んで引っ張るが、逆に引っ張られて海に落ちてしまった。
無理矢理グランツに乗り、鞍を引っ張ってなんとか引き戻した。グランツは今度はグレイヴにじゃれ始めた。
「ほんっと最悪。ねぇドラゴンってデカくなったばかりは皆こうなの?」
うちは布で体を拭きながら言った。
「いや……さすがにそれは無いと思うが……こればっかりはシャドウに聞かないと分からんな。」
「シャドウ?」
「人でもなければ、ライダーでも無い変わったヤツで、ドラゴンの卵を選別し、今生きるドラゴンの前の代を知っていたんだ。今……彼は生きているのだろうか。」
「選別?前の代……?どゆこと?」
「まぁ、今は難しい考えをするのはよそう。もう乾いたか?」
「えっと……まだ。」
「グレイヴ。」
「え……ぎゃあああ!!熱っ……くない?」
グレイヴがうち目掛けて思いっきり炎を吹いた。体はもうすっかり乾いていた。
「これでよし。着いてこい。」
ステラ姉はグレイヴに乗って先に行ってしまった。
「あ、ありがとう。」
うちもグランツに乗って後を追う。
「この石柱を利用して攻撃を防ぐか、攻撃しろ。攻撃方法は自由だ。ドラゴンの爪でも、矢でも。」
「了解。」
「そしてグレイヴには何回攻撃しても合格にはならない。俺に攻撃を当てろ。理由はもう分かるな。」
「もちろん。」
「よし、じゃあ…。」
ステラ姉がグレイヴに軽く触れると、それが合図かのように、グレイヴが赤黒い光線を出した。
「うぇぇ!?あっぶな!」
うぅ……ね、ねぇ本当にやるの?ぼくにはむりだよぅ。
やらなきゃ強くなれない。お兄ちゃんを助けたいの。それに、あなたならできる。信じてるから。
君が……そう言うなら?がんばってみるよ。
ありがとぉぉう!?
石柱の死角からグレイヴが前足を突き出して突っ込んできた。危なかった……グランツの体が小さいのはある意味有利かもしれない。
グレイヴの攻撃が何度も飛んできた。遠距離で攻めてくる時はあの光線や火球、火炎放射が。近距離で攻めてくる時は鉤爪だけでなく尻尾や翼も使って攻撃してきた。
追いかけて矢を放っても、グレイヴが早すぎて追いつけない。練習だからいいけど、これが実戦なら誘われてる可能性もあるから追いかけるのは逆に危険。矢も有限だ。
グランツ、火は吹ける?
わかんない。やったことないから。
うーん……あ、そうだ!グランツ、グレイヴが目の前に来たら、思いっきり体ごと後ろに振り向いて。
え?う、うん。いいよ。
ブレスやタックルといった攻撃をかわし続け、チャンスが来た。
「今よ!」
しっかりと鞍を掴み、グランツが体ごと振り返った。




