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飛行訓練

荷物を片付けてグレイヴの背に乗った。うちもグランツに乗る。そのまま乗るよりはるかに楽だった。

「森の中を木に当たらずに飛行する。」

「了解。」

「いいか、ドラゴンばかりに任せるな。周囲を見渡すのはライダーの役目だ。」

そう言うと、一気に飛行して来た道を戻って行った。すぐ近くに霧が掛かった森があるけど……。

「ねぇ!」

ステラ姉がちらっとうちの方に顔を向けると、グレイヴは減速し、隣に並んだ。

「なんだ。」

「近くに森があるけど!そっちはダメなの?!」

「叫ばなくとも聞こえてる。あの森はダメだ。ドラゴンと離れてしまえば二度と出られなくなる。それに、霧が濃すぎてまともに見えないだろ。」

確かに、ステラ姉は普通の声量なのによく聞こえる。グレイヴの翼の大きさで結構離れているはずなのに。

「それも、そうね。ねぇ、なんでよく聞こえるの?風の音とか凄いのに。」

「それがライダーだ。下を見ろ。」

言われた通りに見る。特に異常も無い。

「下には何が見える。」

「えっと……ハングレイクとグレアの群れが見える。あと、商人。それがどうしたの?」

「一般人ならば、この高さにいて何が居るのかは確認できない。それに、この高さにいれば酸欠や気温差、気圧の変化で一気に体調を崩す。」

そういえば、こんなに風が吹いているのに、あまり寒くない。そして故郷の森の中にやってきた。

「入り組んだ場所の飛行に慣れてきたら、ここから海沿いに向かって応用特訓をする。そうだな、コースは……そこのねじ曲がった大木から、あそこの大岩までだ。」

「簡単そうだけど……。」

「翼の先が少しも当たらずに行け。」

「分かった。」

グランツに乗って位置に着くと、はっきりと見えていた大岩が他の木々のせいで僅かにしか見えなかった。

「グランツ、大丈夫?」

ちょっと自信ないかも。

「何も一発で成功させる必要ないんじゃない?」

う、うん。

「じゃあ、行くぞ。よーい、始め!」

ステラ姉の掛け声と同時にグランツが翼を広げ、大岩に向かって一直線に飛び立った。

「よし、良い感じ!」

ほんと!?

「ちょっ、バ…!」

え?

グランツがいきなり一瞬だけ体を起こしたせいで、枝にぶつかった。

「いったぁ!!……ちょっと!」

ご、ごめんなさい。

それからというもの大岩まで行けたとしても翼の先やうちが擦れたり、グランツの足がぶつかったりと失敗が続いた。

「はいっ!どう!?」

「やり直し。また同じところが擦れてる。」

「えぇぇ??もうよくない?!」

「はっはっは!あぁいいとも!……翼が引きちぎられても、いいならな。」

「え、どういうこと?」

「ぶつかった木が仮に邪龍の攻撃なら簡単にもげる。邪龍は生物が噛み付いて来るのとは訳が違う。邪龍の噛みつきは黒魔術による圧縮破壊だ。その数cmが命取りだ……俺の、父のようにな。」

「ステラ姉の……お父さんは……。」

何も言わずにそっぽを向いた。言いたくないのだろう。これ以上追求するのはやめておいた。

「グランツ、もう一度やってみましょ。」

うん。

それから何回も挑戦した。真っ直ぐ進むパターンや、蛇のようにうねうねと岩に近づくパターンと色々と試して見たが、どれもダメだった。辺りは暗くなり始めていた。

「ステラ姉。」

「なんだ。」

「お手本が見たいんだけど。」

「……構わんが、なんの参考もならないと思うぞ。」

「お願い。」

ステラ姉は軽くため息をつくと、グレイヴの背に乗って定位置につき、飛び立った。

……本当に何の参考もならなかった。

「待って、もう1回見てもいい?」

何も言わずにやってくれた。動きをちゃんと見なければ。グレイヴはグランツよりも遥かに巨体だと言うのに、葉っぱに当たるスレスレで飛んでいた。羽ばたきもせずに。更にステラ姉は枝に当たる前にグレイヴが一回転して当たらないようにしていた。

「どうやって?グランツよりも大きいのに。」

「飛行生物は高く空を飛ぶのに何回か羽ばたかなければならない。だが、ドラゴンの両脚両翼は強靭だ。1回の羽ばたきで空高く飛べる。それを利用する。」

なるほど。だがグランツは他の飛行生物のように何回か羽ばたかないと高くは飛べなかった。何か……そうだ!

何か思いついたの?

グランツ、羽ばたく時にもう少し翼を閉じられる?

え?できるか分からないけど、やってみるね。

それから……

この作戦で行けるといいんだけど。いや、不安になってちゃダメ。できるって信じなきゃ。

位置に着き、グランツが翼を構えた。そして、飛び立つ。

グランツが岩までたどり着くのに羽ばたく回数は3回。まずは1回目。翼をある程度閉じていたおかげで当たらなかった。次に2回目も難なく突破。そして問題の3回目だ。

「今!」

グランツが翼を振り下ろしたと同時に思いっきり体を上げ、その瞬間に鞍から手を離した。うちの体は宙に浮き、何回も擦れていた枝を飛び越してグランツの背に再び乗った。衝撃で落とされないようしっかりと鞍を掴む。そして岩の傍に着地する。

「どう!?」

ステラ姉はまだ険しい顔をしていた。もしかして不合格?しかし、すぐに穏やかな表情を見せた。初めて見る表情だった。

「へぇ〜?面白い突破方法だな。気に入った。」

「ほんと!?じゃあ、合格?」

「あぁ。合格だ。まだまだぎこちない部分もあるがな。」

「やった!じゃあ次は応用ね!」

うちはグランツに飛び乗った。

「待て待て、もう辺りは暗いぞ。あいつらは夜に1番活動する。疲れている状態で見つかったら殺されるぞ。」

「疲れてなんかないよ!」

「はぁ、これだから子供は苦手なんだ。いいか、例えお前が疲れていなくても見つかられると俺が困る。」

「でも、夜の訓練も必要じゃない?夜に襲われたらどうするの?」

「夜は別の機会だな。ここはただでさえウィケルに近いんだ。」

「うーん。分かった。」


完全に夜となり、元々ステラ姉が暮らしていた洞穴で1晩過ごすことにした。ステラ姉が焚き火の準備をしている。

「洞穴の中って炎炊いて大丈夫なの?」

「出入口が大きいから平気だ。それにライダーだしな。」

ステラ姉がグレイヴに寄りかかって座った。うちもグランツで真似をする。中々に居心地はいい。すると、ステラ姉は指先を薪に近づけると、指先から青紫色の小さな火が出てくると、一気に薪が燃えた。

「え、何それ。」

「レガーレ。ドラゴンの力。ライダーとドラゴンの絆が強いと発現する力だ。」

「ほぇー。うちもいつかできるようになるかな。」

「それはお前たち次第だな。」

洞穴に集まる前に集めていた魚を、枝に刺して焼き始める。

やったぁ!魚だぁ!

産まれたての時にあげた魚がそんなに美味しかったのか。

「あ、ねぇ、これステラ姉?一応色々と持ってきたんだけど。」

うちは鞄を漁り、手帳に挟んでいたあの写真を取り出して手渡した。

「それは……!あぁ……。」

見ると、ステラ姉は涙目になっていた。

「だ、大丈夫よ。きっと……生きてるわ。」

「いや……1人はもう、いない。」

「え……。」

「俺の隣にいる……俺の肩に手を当ててる奴、名前はイーサン。俺の同期で、親友だ。イーサンは目の前で邪王のドラゴンに殺された。この写真……丁度それが起こる1週間前だ。」

「どんなライダーだったの?」

「ちょっと意地悪で、ぶっきらぼうな奴だ。任務も真面目に取り組まない時もあったが、凄く楽しい奴だ。困った時はいつも助けてくれた。彼のドラゴン、レイラにもよく助けられたな。彼等は俺の大事な親友だ。」

「そう……。」

「はぁ、あの時逃げていれば、イーサンは殺されずに済んだ。俺のせいだ。」

「どういうこと?」

「邪王……ダレスはドラゴンを殺すために龍舎に現れた。ドラゴン達は皆寝ていて、ライダーや民は宴を開いていた。そこに居たライダーは俺だけだった。皆を逃がす時間を稼ぐために、俺はダレスに挑んだ。勝てないって分かっていたはずなのに。案の定、瀕死になった。この片目もその時に失った。そこを、イーサンが助けに来たんだ。」

「……。」

「はぁ、イーサンに……皆に会いたい。」

「えっと……ごめんなさい。」

「なぜあやまる?」

「だって、写真を見せちゃったからその……」

「気にするな。写真を見なくてもほぼ毎日あの光景の夢を見る。それに寧ろ助かったよ。話をしたおかげで少しだけスッキリしたし、実を言うと、夢を見ていてもイーサンの声や容姿を忘れかけていたんだ。」

「そうなの?」

「あぁ。100年も経つと、さすがにな。」

魚が焼き上がり、食べ始めた。何も味付けをしていないが、疲れきった体にはとても身に染みた。村の野菜も欲しいところだが。

「グランツ……だっけ。そいつ、食事が必要なのか?」

「え?ドラゴンもご飯は食べないの?」

ドラゴンに食事は必要無い。腹が減らないからな。

そうなの?

え、もったいない。グレイヴも食べてみてよ!美味しいよ!

要らん。

えぇ〜。

「……見た感じ、グレイヴから理由を聞いたか。」

「え、えぇ。あ、ねぇ思ったんだけど、元凶であるダレスに挑んだのよね?つまり、龍舎に一緒にいたってことでしょ?なんで……無事なの?殺されてもおかしくないのに。」

そう言うと、まるで硬い石にでもなってしまったかのようにステラ姉は目を見開いたまま固まった。しばらくその状態が続くと、急に表情が緩み、口を開けた。

「……もう、寝るぞ。」

「え?何があったのよ?」

無視して焚き火を消してしまうと、うちに背を向けて寝転がった。

「……おやすみ。」

「ちょっと!……お、おやすみ。」

本当に……何があったの?

グレイヴに聞こうかと思ったが、もう二頭とも眠っていた。

うちも目を瞑ると、かなり疲れていたのかあっという間に眠りについた。

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