決意
「ぎゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
落ちる落ちる落ちる落ちる!!風がビュービューとうちの顔を打つ。必死にグランツの体にしがみつくが、グランツの鱗は魚や蛇のようにしなやかで少しツルツルしているため滑る。背中に生える棘を掴むしか無かった。
ひゃっっほーーー!
急に速度が落ちたと思ったら、グランツは翼を畳んでいた。
「待って待って待って!いやああああああ!」
一気に真っ逆さまに落ちる。ほんとにやめて欲しい。すると、また突然上昇した。風が緩やかだ。やっと落ち着いたのか?恐る恐る片目を開けて辺りを見回す。
「……わぁ。」
うちの目に広大な世界が視界いっぱいに広がった。
「綺麗……。」
でしょでしょ!
「うん。」
これがドラゴンという生き物なのか。鳥やワイバーンでは辿り着けないであろう高空域まで飛べる。……兄に、見せてあげたかったな。
「ってかあんた、なんでそんな勢いよく飛ぶの?!死ぬところだったわ!?」
そう言いながら思わずひっぱたいた。
うぅごめんなさい。
「はぁ、ママとパパになんて言えばいいのかしら。とりあえず一旦降りましょ。」
うん。
グランツは地面に向かって降下した。この風も慣れたものだな。
「ライダーだ!!」
「え?何?」
見ると、厭世部隊があの煙の生き物に乗ってこちらに向かってくるのが見えた。
「やばい、グランツ逃げて!早く!」
え、えぇ!?分かった!
グランツは猛スピードで逃げてくれた。すると、どこからともなく斜め前から厭世部隊が突っ込んできた。間一髪で避けられた。
油断していると振り落とされそうだ。この速さにどうにかして慣れなければ。
気づけば周りには5人くらいの厭世部隊が集まっていた。向こうの方が速い。じきに追いつかれる。弓矢さえあれば太刀打ちできるのに。どこかで隠れてやり過ごすか?いや、グランツの体色的に隠れられない。こんなことになるなんて。すると、突然目の前に厭世部隊が突っ込んできた。グランツは急激に速度を落とし、なんとか回避しようとするが、これでは間に合わない。グランツよりもはるかに大きな煙の生き物が大きく口を開けて突っ込んでくる。……終わった。ごめん。ママ、パパ、お兄ちゃん。
その時だった。
「……何?今の。」
斜め下……陸側から赤黒い光線が飛んできたのだ。それに直撃した厭世部隊は消滅した。と同時に、目の前を黒い大きな影が通った。恐る恐る見上げると、そこには大きな黒いドラゴンがいた。その背中には見覚えのある人が跨っていた。
「旅人の……お姉、さん?」
「あいつだ!」
「まずい!1度撤退しろ!全滅するぞ!」
うちは後ろを振り向き、厭世部隊の様子を見る。すると、いつの間にかあの黒いドラゴンは厭世部隊のところにいた。見えなかった。瞬間移動?いや、速すぎるんだ。黒龍は翼や尻尾を使いこなし、的確に厭世部隊を仕留めた。空中戦とは思えない動きだった。そして全員死んだ。
「何をぼーっとしてる。着いてこい。」
「え、あ、分かった。」
着いたのは普段来ている森の更に奥深いところだった。
「お姉さんあなたは、いったい……。」
何も返してくれず、スタスタと歩いていく。
「ねぇ!待ってよ!」
すると、どこか洞穴にたどり着いた。
「ここは?」
「俺の家だ。バレたからもう移動するが。」
「うちも連れてって。」
「断る。家を変えるだけだから、どうせ着いてきたところで面白くないだろ。」
「……お姉さんは一体なんなの?その、ドラゴンは?」
彼女のドラゴンを見た。グランツよりも大きな漆黒の体に深紅の眼や棘、片方の角は短く、傷だらけだった。
「俺の相棒だ。まさか、今になってライダーが現れるとはな。それも女の。」
彼女は荷物を整理しながら言った。
「女って……お姉さんも女じゃない。」
「そうだな。用が済んだらとっとと出て行ってくれ。」
「着いてこいって言っといて次は出ていけ?なんなのよあなたは。」
「一時的な隠れ場所を提供してやっただけだ。それに、姿も隠せない派手な金龍がここにいられると困る。」
「……ねぇ、あなたドラゴン騎士団でしょ。」
そう言うと、動きを止めた。図星か?しかし、すぐにまた荷物を片し始めた。
「……そんなものは無い。」
「嘘よ!」
「ならドラゴン騎士団があるのになんで王国は滅んでるんだ。……ドラゴン騎士団というものは、弱すぎるな。」
「騎士団を率いるリーダーが……滅ぼしたから。」
そう言うと、彼女は持っていた荷物を落とした。うちを見た。驚きの表情をしていた。
「……なんで……知ってるんだ。」
「こんなこと言ったら親に怒られるんだけど、うちいつも廃城に宝探しに出かけてるから。」
「馬鹿なヤツだな。黒魔術が蔓延してると教わらなかったのか?」
「言われた。でも、うちは村の外を知らないから。知りたくて……グランツを見つけたのもそこなの。卵の状態だったけどね。」
彼女は大きくため息をつき、立ち上がってうちの方を向いてくれた。やっとうちの話しを聞いてくれるようだった。
「ねぇ、助けて欲しいの。うちのお兄ちゃんを。奴らに捕まってそれで……」
「断る。」
「なんでよ!」
「生きてるかも分からないのになぜ危険を犯さねばならない?」
「死んでいるかも分からない。生きている可能性があるなら、うちは助けたい。血は繋がってないけど、大事な家族だから。」
「もう奴らとは戦いたくない。グレイヴとのんびり余生を過ごすって決めてるんだ。」
「グレイヴ?」
その名前を聞いたことがあるような気がする。
「俺の相棒の名だ。」
「……ねぇ、お願い。うちのお兄ちゃんを助けてよ。ドラゴン騎士団なんでしょ?うちも、もっと強くなるから。」
「……ドラゴン騎士団は滅んだ。助けに行ったところで殺される。奴らは血眼になって生き残りの俺を探してる。これ以上俺を頼るな。諦めろ。いいな。」
そう言うとスタスタと外に出て別の準備を始めた。
どうすれば説得できるの?
「グレイヴって言ったよね。どうにかして説得できない?」
何も言わない。自分の相棒じゃないと伝わらないのか?うちは大きくため息をついた。
アデラ。
「なにグランツ。」
グレイヴが言うにはね、あの人、100年前はあんなんじゃなかったんだって。
「えっ、100年前から生きてるの?」
ライダーって寿命が長くて、1000年は生きるみたいなんだ。
「……それで、あんなんじゃなかったって?」
グランツが言うには、100年前は戦うのが好きで、よく手合わせしていたと。厭世部隊相手にも無双していて敵無し。そして、とっても優しかったという。国が放置するような事……貧困層や襲撃による建物の崩壊の修理費など、彼女はどんな人にも救いの手を差し伸べてたという。
「……何がきっかけであぁなるの?国が滅んだこと?仲間が殺されたこと?」
それもあるな。
「え?グランツ声どうしたの?……?」
やっと通じたか。金龍の乗り手の割には遅いな。
「グレイヴ?」
いかにも。あいつは仲間や民が死んだのは自分のせいだと思っている。選択を間違えた。とな。いつしか悪夢にうなされるようにもなった。もう俺の声ももはや届かない。
「相棒なのに?」
あいつの心は完全に閉じてしまっている。かれこれ数十年は会話していない。何度か俺の声を聞こうと努力していた時があった。だが、何も届かなかった。あいつ自身も分かってるはずだ。このままだとダメだと。
「……。」
これ、遠回しに説得しろって言われてる気がする。何年も付き合いが長い相棒より、ぽっと出のうちに任せて大丈夫なのかな。まぁ、やるだけやってみるけど。
うちは少し離れたところの隣に座った。
「……グレイヴと何を話したんだ。」
「え?いや、ちょっとね。」
「……どんな声をしていた?」
「声が低い男性って感じ。あとちょっとぶっきらぼうな印象かな。」
「そうか……ふん。変わってないな。どうせ俺を説得しろなんて言われたんだろ。それも分かりづらく。」
なんで分かるの?それぐらい元々の絆が深いってこと?
「説得しても無駄だ。俺はもう、諦めた。」
「何事にも諦めない。あなたはそんな人なんじゃないの?」
「……もう俺には戦う力なんか残ってない。今はただ、グレイヴと話がしたい。」
「……そうだ!ねぇ、うちを育ててよ。」
「は?」
「特訓して!うちも強くなりたい。」
「言っただろ。協力する気は無いって。」
「お姉さんは、誰かを強く育てるのが好きなんじゃないの?」
「はぁ?」
「違うの?グレイヴがそう言ってたみたいだけど。」
「……あぁ好きさ。」
「なら教えるだけ教えて。うちが一人で行くから。」
「バカか、死にに行くようなものだぞ。」
「死なないようにする。」
「お前よりもずっと経験があるドラゴン騎士団の皆が死んだんだぞ?仮に生き残れたとしても…」
お姉さんが眼帯を外した。その風貌に思わずうちは後ずさった。
まるで暗い洞窟の入口のようなぽっかりと空いた穴がそこにあった。それに、鈍く緑色に光ってる?……義眼もつけてないのか。
「俺みたいになる。」
「でも、うちは諦めないよ。腕が無くなろうが助ける。それに、ドラゴン騎士団の皆は本当に死んだの?」
「俺だって最初は皆生きてるって信じてたさ。だが、世界中どこを探し回ってもいなかった。」
「そう……。」
お姉さんは立ち上がった。
「やってくれるの?」
「教えるだけだ。」
「ありがとう。」




