誘拐
弓の練習にも飽きて、家に戻ってきた。
「グランツ、また外出るから隠れて待ってて。」
ドラゴンが馬のように聞き分けてくれるのはありがたい。それも子供の時から。
うちは外に出て水を汲んでいた。
「養子の小娘1匹発見。」
「げっ、アダム。」
アダム。うちよりちょっと年上。村中の女の子からちやほやされる人気者。初めて会った時にうちを惚れさせようとしたみたいだけど、恋愛感情なんて無いから無視し続けてたらなんかこうして突っかかってくるようになった。
「後お前だけなんだよこのクソッタレ。」
「バカじゃないの?仮にうちに恋愛感情あったとしても、あんたなんか好きになんないから。ってか、こんなやつ好きになる村の女ってその程度だったのね。聞いて呆れる。」
おうおう、イライラしてるー。でも、見た目だけなら好きになる理由も分かる気がする。こいつは少々不敵な笑みをしてる時が一番顔立ちが良い。いわゆるイケメンというやつだ。性格は……よく分からない。うちが怒らせたから良い奴なのかすら分からん。
「いい度胸してんじゃねぇか。」
あと声も良い。今のはちょっとかっこ良かった。男には興味無いけど。
「というかあんたも養子じゃ無かったっけ。」
「はぁ?」
「いやだってうちみたいに村の人と全然違うじゃん?」
アダムは紅い瞳に白い髪だ。多分、コンヘラシオン山があるコンヘラ地域という白銀に覆われた村出身だろう。その証拠に彼は結構暑がりだ。
するとアダムはうちを壁に叩きつけた。
「いいよな女ってのは。男が傷つけないことを知っておいてすぐ当たりが強くなる。まるで自分が強くなったと勘違いしてさ。男が居なきゃなんも出来ねぇくせして。」
「あのさぁ、うちにそれ言う?ワイバーン仕留めて村守ってから言ってくんない?1人で。あと普通にあんたウザイ。」
さすがにこんなこと言われたら言い返せないようだ。すると、頭上が一瞬だけ暗くなった。
「厭世部隊?もう?」
「は?」
アダムは焦って物陰に隠れた。
「お兄ちゃん、今外に……お兄ちゃん!」
うちは急いでお兄ちゃんを探しに走った。奴らは若い男性に目をつける。なのでいつもなら来るタイミングを把握して、20歳程の男性は家にいるよう指示されるのだが、今回は異様に早い。
見つけた。お兄ちゃんは座り込んでいた。目の前には奴と巨大な煙の生き物。
「お兄ちゃんから離れろ!」
そう言い放ち、すぐに弓を構えて頭に矢を放った。しかし、焦っていたのか軌道がズレ、腕に刺さった。
「ちっ。なんだ?」
「くそっ、外した。」
「アデラダメだ!逃げろ!」
「こいつっ!」
奴はお兄ちゃんを突き飛ばし、武器を構えてうちに突っ込んできた。うちは矢を三本取り出し、1本を奴に、すぐさま2本を空に向かって放った。
「舐め腐りやがって!」
奴は矢を弾き返し、うちに剣を振り下ろす。うちはタイミングを見計らって1歩後ろに下がった。
「……!?」
空に放った矢が奴の脳天に直撃した。しかし、倒れる時に空に緑色のエネルギーを放った。煙の生き物は消滅した。なんか嫌な予感がする。
「お兄ちゃん。」
「アデラ、怪我は?」
「大丈夫。ど、どうしよう。」
「どうしようって?凄いじゃないか。あいつを倒すなんて!」
「いや、でも。」
案の定、嫌な予感が的中した。奴は仲間を呼んでいた。三人。あの大きな生き物に乗っている。
「逃げなきゃ!」
村中が大騒ぎになった。1人以上来るなんて今まで無かったからだ。
「クソガキ!待ちやがれ!」
奴らはすぐにうち達をロックオンした。仲間を殺したのがうちだって分かるのか?
「若い男は連れてけ。」
1人がお兄ちゃんの髪を引っ張って連れていこうとした。うちは咄嗟に矢を武器にして奴に攻撃を仕掛けた。
「アデラ!よせ!」
一瞬、キラっと何かが光った。その直後、顔に激痛が走る。
「あ、あ……痛……っ!」
「アデラー!」
血の気が引いてふらっとする。顔が異様に痛い。すると、もう1人の奴がうちの顔を殴り、髪の毛を引っ張った。
「うっ。」
「蒼い目に黒い髪。こいつか?」
「いや、あいつは片目が無い。目ももっと蒼い。それに、仮にあいつだったとしたら、弱すぎるし、幼い。3人程度なら余裕で殺されるレベルだ。」
「だが、1人殺されるとはな。とんでもない奴だぞ。連れていくか?」
「いや、いい。女はあいつ以外いらない。主も許さないだろう。」
うちを掴んでる奴は、鼻息を鳴らすとうちを投げ捨てた。
「お兄……ちゃん。」
うちは奴らがお兄ちゃんと何人か連れて行くのを見たのを最後に、気を失った。
目を覚ますと、ベッドの上にいた。目の前にママがいる。
「アデラ!良かった。心配したんだよ?」
「……お兄ちゃんは!?痛っ!」
顔が布で覆われていた。すぐ横の鏡を見ると、中心を斜め上から下を布で巻かれていた。
「お兄ちゃんは……。」
ママは悲しい表情をしていた。お兄ちゃんはあの時連れ去られた。
「うちの……せいだ。」
「あんたのせいじゃないよ。寧ろ、お兄ちゃんのために戦ってくれて、ありがとうね。」
視界がぼやける。涙がポロポロと止まらなかった。
「アデラ……起きたのか。無事でよかった。」
「パパ。ごめんなさい。」
すると、パパはうちを抱きしめた。
「よしよし。謝る必要なんか無い。お前は悪くない。」
防波堤が崩れるように、一気に涙が溢れた。
あれからしばらく経った。顔の傷は癒えたが、痕が残ってしまった。お兄ちゃんのいない食事はもの寂しかった。そしていつものようにママとパパは畑仕事に出た。
「グランツ。」
グランツは心配そうにうちの顔を覗き込んだ。
「お兄ちゃんに会いたい。もっと早くあなたを紹介しておけばよかった。」
グランツはキューキューと鳴く。
「何?……あなたって成長遅いのね。生まれてからもう随分経ってるけど。変わってないんじゃないの?」
ぶっきらぼうにそう言うと、急にグランツが走り出して、外に飛び出した。
「ちょっ!待って!嫌味ったらしく言って悪かったよ!」
どこに向かっているんだろう。すると、走りながらぴょんぴょんとジャンプし始めた。ジャンプする度に翼を羽ばたかせている。そして体がふわっと浮いた。
「うそ、飛んだ!」
どんどん高度が上がっていく。
「ちょ、ちょっと!どこ行くの!」
ついに見えなくなってしまった。後悔と同時に苛立ちを覚え、思わず地面に座り込んで拳で叩きつけた。
「痛い……なんなのよ。」
お兄ちゃんが居なくなったからなのか、ここ最近イライラが収まらない。その時だった。
「……何!?」
大きな音が鳴り響いた。音と言うより鳴き声?空から聞こえてきた。ワイバーンか?
弓を構え、空に目を凝らした。すると、雲の隙間から黄金に輝く光が見えた。
「グランツ……なの?」
間違いない。金色の体に鳥のような大きな翼、三本の角、尻尾には丸いものがある。まるで村に伝わる神そのもののような姿をしていた。
グランツは地上に降り立った。じーっとうちを見つめている。抱えるくらいしか無かった小さな体は見る影もない。
えーっと……こんにちわ?
「え?」
あれ?こんばんわだったかな?
「いや、合ってるんだけど、えっと……喋れるの?」
うん。ねぇねぇ、旅に出たいんだよね?なら一緒に行こうよ!
「……今はそんな気分じゃない。それに、あなたは……一体何なの?」
ドラゴンだよ?
「いやそういう事じゃなくて。グランツ……?」
うん!アデラ、よろしくね!
「よ、よろしく。とりあえずうち一旦帰る。グランツは、森の中にいて。」
えぇ〜。分かった。
ひとまず家に帰り、ベッドでふて寝した。
多分、あれは夢。きっとうちは夢を見てるんだ。
しばらく寝たと思う。目を覚まし、辺りを見回す。
「うわっ!」
起きた?おはよう!
窓からグランツが覗き込んでいた。夢じゃなかった。
「……森にいてって言ったよね?」
だって面白くないんだもん。ねぇねぇ!空に行こうよ!
そうか、ドラゴンだから飛べるのか。でも大丈夫なのだろうか。
大丈夫だよ!絶対落とさないから!
「え、嘘でしょ?思考が読めるの?」
うん。
「はぁ。それはそれで困るな。まぁいいわ。言っても聞かなそうだし。それに村の人にバレる。」
とりあえず外に出た。変だな。ドラゴンって多分ワイバーンとかリントヴルムよりも珍しいはずなのに、グランツの性格のせいでなんか……感覚がおかしくなる。
「馬用の鞍って……さすがに無理か。直で乗るのはイヤなんだけど。」
えぇ〜?どうして?
「乗り心地悪そうだから。」
そう言いながらうちはグランツに乗った。乗る場所はここでいいのだろうか?馬と同じように乗ろうにも翼があるし。
よーし、じゃあ行っくよ〜!
グランツは大きく翼を広げると勢いよく振り下ろした。




