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霧に巻かれて

うちらは迷いの森へと降り立った。グラダリウス大陸の1割を占める巨大な森。どこを見渡しても霧しか見えない。

「ステラ姉?いるよね?」

「あぁ。ドラゴンからは絶対に降りるんじゃないぞ。私とはぐれても、空に飛び立てば脱出できる。」

「わかってる。」

一気に不安が襲いかかる。見えないというのはこんなにも不安になるのか。小さいグランツの翼の先さえ見えない。

光……いる?

グランツ……そうじゃん!あなた光らせれるじゃん!

グランツは尻尾の先を光らせた。しかし、思った以上に霧は濃いようで、対して明るくならなかった。

あんまり明るくならないね。

そうね……野生動物とかが集まると厄介だから、消しておきましょ。

うん。ねぇ、これじゃあお肉食べられないよ?

あなたいつも食べることばかり考えてるのね。お腹空いてるの?

いや、お腹は空いてないよ。空いたことないから空くってどんな感じなのか分からないけど。美味しいから食べたいんだ。

……そういえばあなたにお肉なんてあげたっけ。

レトーラから貰ったよ。すっごく美味しかったなぁ〜。

いつの間に……うちの魚よりも美味しいって?

魚も美味しいよ!

はぁ。

どんどん暗くなってきた。霧のせいかさらに暗く見える。

「す、ステラ姉?いる?」

「まだ起きていたのか。さっさと寝ろ。」

「眠れない。」

グランツが一緒にいるとはいえ、怖いものは怖い。突然野生動物か何かの鳴き声が聞こえ、ビクッと肩が跳ねた。冷や汗が止まらない。

「目をつぶってれば寝れる。おやすみ。」

「待ってステラ姉!」

「なんだ。」

「お、お話しましょ!うちもグレイヴに乗るからさ!」

えぇ!?ぼくは!?

あんたは空飛べるから平気でしょ。それにあんただとちょっと心配。

えぇ〜?

「お前変だな?どうかしたか?」

「ねね、眠れないから!」

素直に怖いって言えばいいのに。

うっさい!

「一緒に乗るとしても、私の場所が分かるのか?」

「え……あ。」

そういえば霧が濃すぎて全然分からない。しかもグレイヴは黒いから余計に。いや、降り立った位置的に多分斜め前にまっすぐ進めばステラ姉とグレイヴがいるはず。

グランツ、進んで。

えぇ?うん。

少し進むと、すぐ大きな黒い影が見えた。紅い色もぽつぽつと見える。グレイヴだ。

「ステラ姉?」

「なんだ来たのか。」

うちは恐る恐るグレイヴに飛び乗った。きっとグレイヴが目だけこちらに向けて睨んでいると思う。

ステラ姉は、グレイヴの首を背もたれにして目をつぶっていた。うちは少し離れた翼の部分と背鰭の間に挟まるようにして寝転がった。すると、また動物か何かが鳴き声をあげた。

「な、なに!?」

「静かにしろ。」

「ごめん。」

「……怖いなら傍に来ればいいだろ。」

「こ、怖くなんてないから!」

また鳴き声が聞こえ、思わずグレイヴの棘にぎゅっと手で掴んだ。

「ったく。うるさくするなら突き落とすぞ。」

「ごめん。」

うちはなんとか寝ようと目を閉じた。動物の鳴き声が聞こえる度に体が強ばった。

数時間そうしていると、いつの間にか寝ていた。

何時間経ったか分からないが、鳥の鳴き声と揺れで目を覚ました。

朝か……朝になってもなんだか暗い。

何回か瞬きをし、目を慣らす。

「起きたか。」

「……ステラ姉!?」

気づいたらうちはステラ姉の前に座り、寄りかかっていた。しかも、マントを布団がわりにしてかけてくれたようだ。

「お前寝相悪いな。何回か落ちかけてたぞ。」

「え、嘘。ねぇ、どこに向かってるの?グランツは?」

ここにいるよ。

朝は霧が薄いようで、グランツが一緒に歩いていた。よく見ると、尻尾をグレイヴの尻尾に巻き付けている。

「ここを少し探索しようと思ってな。」

「ただの霧が深い森じゃないの?」

「にしてはちょいと妙でな。嘘みたいに体が軽いんだ。」

ステラ姉を見ると、左目を中心に広がっていた黒い筋が薄くなっていた。ここには黒魔術を浄化する力でも宿っているというのか?

「あ、そろそろ戻るね。勝手に乗ってごめんなさい。それとマント、ありがとう。」

うちはグレイヴから飛び降りると、そのままグランツに乗った。グランツは巻き付けていた尻尾を離し、グレイヴの黒い影を頼りに後ろから着いていく。

しばらくすると、また霧が濃くなり、グレイヴの姿が見えなくなってきた。

う、嘘……勘弁して。

見えないよ。

「ステラ姉〜!」

返事が返ってこない。もう遠くに離れてしまったのか?

グランツ、一旦空に行きましょ。

うん。

グランツが翼を広げて、飛び立とうと構えると、影が見えてきた。

「あ!ステラ姉!もう、どこに行ったのかと……?」

違う。何かが揺れ動いている。目を細めてじっと見る。見覚えのあるシルエットだった。

「あなたは……ヴィーヴル?」

ヴィーヴルの姿が見えると、辺りが淡く光出した。あの時と同じだ。手でイヤーカフに軽く触れる。同じ個体なのだろうか。そもそもヴィーヴルは複数個体いるのだろうか。うちをじっと見ていた。

彼女からは様々な感情を感じた。そのほとんどは穏やかな感情だったけど、復讐心や怒りも微かに感じた。

確か、ヴィーヴルはライダーの魂の集まりなのよね。

「ねぇ、どうしてうちを選んだの?」

目の宝石が淡く点滅する。多分、何か言ってる。

グランツ、何言ってるか分かる?

うーん、知らない言葉だから分かんない。

ほんとに?言語を喋ってるの?

うん。

なら、きっと解読できるはず。

何かヒントになるのではないかと思い、イヤーカフを握った。点滅の回数に光の強弱、そして感情を読み取るの。

「何……終わり……終わらせる?」

「おーい!アデラ!」

突然の声に一瞬強ばった。すると、ヴィーヴルが一気に霧とともに消えてしまった。

「待って!」

霧が薄くなり、グレイヴの影が見えた。

「アデラ、一体どこに行っていたんだ?……どうした?そんなぼーっとして。」

「ステラ姉……うぅん。なんでもない。」

「そうか。置いて行っていたのならすまない。」

「うちらが立ち止まっちゃっただけだから。それより、どうだった?何か見つかった?」

「……いや、何も。出よう。ここにずっといると頭がおかしくなりそうだ。」

「えぇ。」

終わらせる……何を?うちが何かを終わらせるってこと?

うちらは空へと飛び立つと、あっという間に霧を抜けた。地上を見下ろすと、分厚い霧に覆われて森は真っ白だった。遠くの方に、山のように大きな木が見えた。遠くから見る巨木は、コンヘラジオン山やエターキール(果てしない壁)と同じくらいの大きさに思えた。

「ステラ姉?」

「ん?」

「手は平気?その、怪我の状態とか。」

「痛みはもうほとんど無いな。どうした?何か思い悩むことでもあるのか?」

「いや、手を酷使している気がしたから、ちょっと心配になっただけ……。」

ステラ姉は何も反応せず、うちのことを見透かしたかのように、ただじっと見ていた。

「えっと……ごめんなさい。ステラ姉は、ヴィーヴルって知ってる?」

「まぁ、少しなら。」

うちはイヤーカフに触れた。

「この石、うちがライダーになる前にそのヴィーヴルから貰ったものなの。それで、さっきも霧の中で会って、何を言っているのか分からなかった。何かを終わらせるって多分言ってたんだけど、よく分からなくて。」

ステラ姉は少し考え込むように目を閉じた。しばらくして、言った。

「まぁ、今そのことを考えても、何も変わらないだろう。」

「そうよね。」

ねぇ、ヴィーヴルが喋っていた言語、ステラは分かるのかな?

え?覚えてるの?

うん。念の為覚えていたんだ。

あなたほんっと最高ね!

えへへ。

グランツは、ヴィーヴルから伝わった知らない言語を何度も繰り返し言った。うちも頭の中で何度も唱え、覚えた。

「ステラ姉!」

「どうした?」

「えっと、聞いてほしいの!」

多少言葉が詰まったりしたが、何とか知らない言語を言った。

「お前その言語どこで覚えたんだ?」

「知ってるの!?」

「あぁ。ラフザ語と言って、私含めた部隊長や司令官、総帥が暗号としてよく使っていたな。」

「何を言ってるか分かる?」

「かなり古い言葉に訛ってしまっているが……黄金の矢を見つけ出し、全てを終わらせよ。だと思うぞ。」

「ステラ姉ありがとう!黄金の矢ってなんだろう!」

このモヤモヤ感が一気に晴れたような気がした。

グランツ、あなたもありがとう。記憶力良いのね!

お礼はお肉ね!

げっ、あなたいつの間に見返りを覚えたのね。分かったわ。

やったー!

「やっと元気になったな。」

「え?」

「お前、レイビン王国を出てからずっと空元気だったろ。港町でも、無理をしているように見えたぞ。」

「あはは……あっ!見えてきた!」

遠くの方に、どんよりとした空気が漂うダヴィンレイズ王国が見えてきた。

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