鍛治職人
「あ!見えてきた!」
港町に住む人々が見えないであろうところに、ドラゴンを待たせると、さっそく向かった。
「ステラ姉!早く早く!」
「やれやれ、元気だな〜。」
村や他の町と違い活発だった。さすがに海の外からの訪問者は来ていないようだ。
「私が聞き込みをしているから、好きに見ていろ。」
「いいの?」
「あぁ。ただし、警戒は怠るな。素性は話すなよ。」
「了解。」
「待ち合わせは街の中心地。3時間くらい経ったら集合だ。」
ステラ姉と別れると、街頭に向かった。お店には外国からの輸入品が沢山並んでいた。他にも、輸出用の品も沢山あった。
「ねぇ!これって。」
「おうお嬢さん、いらっしゃい。こいつぁ元々ダヴィンレイズ王国で売られていた品々だ。100年前に取り寄せられた品だから、黒魔術にゃ汚染されてない。本当は輸出用だが、外のヤツらが来なくてなぁ。」
「こんな時代だ。来たくないんだろ。」
一緒に店番をしていた人が言う。
「いくらですか?」
「あぁ全部銀貨35枚だよ。」
高……いや、もう作られてないものだからむしろ安いのかな。ステラ姉から貰ったお金なら……いや無駄なことには使えない。でも、王国にあった品々はずっと欲しかったから捨てがたい……。
「でも、お嬢さん可愛いから、特別にこのイヤリングは銀貨10枚だ。どうだい?石なんか持ってりゃ加工して着けることも出来るぜ。」
「お兄さん達は金属加工ができるの?」
「いや、俺の知り合いがちょうどすぐそこの建物で鍛冶屋をやってるよ。気難しい奴だが、良い奴だ。つい最近ここに入ってきたんだよね。」
「そう。じゃあ、はい。」
袋からちょうど銀貨10枚出して、手渡す。
「まいど!」
衝動買いしてしまったが、あの摩訶不思議な霧の竜から貰った石を直に持ち続けるのは不便だったので、加工してもらうことにした。決して欲しかったからではない。
もう1人の店番のお兄さんに案内されて、うちは鍛冶屋へと寄った。
「おーい、シャラ!」
「……なんだ。」
目を向けずに言う。シャラなんて……なんだか変わった名前。
「このお嬢さんのイヤリングに石をつけてやってくれ!」
「俺は今忙しいんだ。よそを当たってくれ。」
「そこをなんとか!」
シャラという名の男は大きくため息をつくと、うちの方を見た。体も顔も煤で汚れていて、あまり顔が分からなかった。
「……冗談だよな?」
「ナンパした訳じゃないから!」
「違う。お前席外せ。」
「んだよ〜。」
渋々店員さんは鍛冶屋を出ていった。シャラが立ち上がって、扉を閉めた。
「……名前は。」
「ア……スピカ。」
スピカ、なんとなく考えた偽名だ。名前を尋ねられた時のために考えておけとステラ姉に言われていた。
「そうか。お前、ライダーだな?」
一瞬、心臓が止まりかけた。図星の感情を出してはダメだ。平静を装わないと。
「ライダー?何それ。」
興味が無いように、手を見ながら言う。
「知らないのならいい。そもそも女がライダーになるなんぞ、ありえないからな。」
こいつ、なんでライダーについて知ってる?パパの言う知ってるとも違う。明らかに当事者のような風貌だ。
「で、どの石をつけて欲しいんだ?」
「これなんだけど。」
うちはあの霞の竜から貰った紅い石を取り出した。
「これは……精龍晶。お前、選ばれたのか……。」
「選ばれた?何の話?」
「ヴィーヴルを知らないのか?」
「知らない。」
いや、お兄ちゃんが何か言ってたかも。
「ヴィーヴルは実体のない精霊の竜だ。ごく稀に霞と共に姿を現し、霞と共に消える精霊だ。その正体は、ライダーの魂と魔法の集まり……と考えられている。ヴィーヴルに選ばれると、精龍晶を授けられる。どんな力を持っているのかは分からんが、本当に必要な時に助けになってくれるのは確かだ。絶対に取られるんじゃないぞ。特に、厭世部隊の奴らにはな。」
「じゃあ、今あなたに預けるのは危険じゃない?」
「はっはっは。警戒心が強いのは関心だな。安心しろ、盗んだところでどうせあんたに取り返される。」
うちは石とイヤリングをシャラに手渡すと、念の為隠していた弓を携えた。
「申し訳ないけど、何か変なことしたら撃つからね。」
シャラは作業しながら言う。
「弓を武器として使うとは珍しいな。」
慣れた手つきでイヤリングと石を組み合わせていく。今更だが、アクセサリーなんて自分に似合っているのだろうか。あまりしょうに合ってない気がする。
「ほれ、できたぞ。着けてみろ。」
試しに左耳に穴を開けて着けてみた。アクセサリーとは無縁だったから、なんだか変な感じ。
「まぁまぁ似合ってるんじゃないか?」
「まぁまぁってなによ、まぁまぁって。」
「細かいことは気にするな。」
そう言いながら荷物を整えだした。
「どこかに行くの?」
「ここを去る。用ができたんでな。」
「え、どうして?もしかしてうちのことを他の……誰か知らないけど話すつもり?うちがヴィーヴルの石を持ってるって。」
「それもある。だが別にあんたに手を出そうだなんて思っちゃいねぇよ。」
「ふーん?ほんとかな。」
「まぁ、信じなくてもいいさ。」
「信じなかったらあなたを殺すことになるけど。」
そう言いながら弓の弦だけを引っ張って離し、矢を撃つフリをしてみせる。シャラは特に怯えるわけでもなく、弓を指さしながら言った。
「おそらく、あんたとはまた会うことになる。そしたら新しく弓を造ってやる。」
「どういうこと?」
うちは言いながらかけられていた時計をちらりと見る。
「あっ!もうこんな時間!」
「どうした?」
「3時間後に集合する約束なの!」
「ふーん。あぁあと……」
「うん?」
「俺の名前は、シャンクだ。絶対に誰にも言うなよ。」
どこかで聞いたような名前だった。とりあえず、町の中心へ走って向かった。
噴水がある広場のようなところに来ると、ステラ姉が既に待っていた。
「お待たせ!」
「遅かったな。なんだそれ。」
ステラ姉が指をさしながら目を細める。
「えっと、これは、衝動買いしちゃって。」
「それ……いくらだ?」
「え?銀貨10枚。」
「ぼったくられてるぞ。」
「えぇ!?」
「城で作られてたもんだが、価値はそんなに高くない。確か銀貨1枚くらいで買えたはずだ。」
「で、でも城で造られたものってもう作られてないんじゃない?」
「職人の子孫がいて技術を繋いでいれば、普通にどっかの町でも買えるはずだ。」
「そ、そんな〜。」
「まぁ、似合ってるからいいんじゃないか?」
「ありがとう。」
うちが負い目に感じていたのを悟られたのか、ステラ姉は少しため息を着いた。
「気にするな。で、その石は……なんだ?」
「ステラ姉は知らないの?」
「歴史かなにかで、見たような気がする。」
「歴史書残ってるかな?」
「図書室は全部崩れて燃えた。」
「そ、そう。あ、聞き込みどうだった?」
「ダメだな。ライダーを知ってる奴も、フクロウの面をかぶった厭世部隊を見たって奴は誰もいなかった。」
「そう、残念。」
「次、行くぞ。」
「どこに行くの?」
「可能性があるのは……あまり気乗りはしないが、ダヴィンレイズ王国だろうな。」
「大丈夫なの?幹部とか沢山居ない?」
「幹部は基本単独行動だ。」
「別の幹部が来たら?」
「逃げる。これ以上黒魔術に侵されたらもたん。」
「分かった。」
うちらはドラゴン達のところに向かって歩き出した。本音を言えば、もっと見ていたかった。次来た時はお兄ちゃんやママとパパと一緒に行くんだ。
そうしてドラゴン達と合流すると、ダヴィンレイズ王国に向かって飛び立った。道中、携帯食料を食べながらのんびりしていた。
いいな〜ぼくもお肉食べたいよ。
え?これ硬いよ?保存用なんだから。
食べたい!
もう、しょうがないな。
うちは小さめの携帯食料を取り出し、手を伸ばしてなるべくグランツの口元に近づけた。グランツは首を曲げて肉を咥えると、咀嚼し始めた。
硬いよ…。
だから言ったじゃん。
あと塩っぱい。いる?
ちょ、誰がドラゴンの食べかけなんて食べるのよ。
柔らかい焼けたお肉が食べたいよ。
「ステラ姉、グランツが肉を食べたいって。」
「やれやれ。そろそろ暗くなるな。もう休みたいところだが……。」
地上を見下ろす。濃い霧に包まれた巨大な迷いの森が不気味に淡く太陽の光を反射していた。
「ドラゴンから絶対に離れなければ、大丈夫そうだけど……。」
「仕方ない、奴らから隠れられそうな場所もないしな。」
そう言うと、旋回しながら降下していった。




