会議
レイビン王国に帰ってくると、レトーラにこれまでのことを話した。
「なるほど……ひとまず、ステラ殿は医務室で再度治療するといい。」
「別にもう平気なんだがな〜。」
そう言いながら渋々と歩いて行った。
「それは感覚が死んでるからじゃないのか?なら余計に危険だぞ。」
ステラ姉がいなくなるのを見届けると、レトーラが顔を向けた。
「さて、ここからどうするか。」
「ねぇ、どうしてデイサル山脈とジュンブレス王国が繋がってることを彼らは教えてくれなかったのかしら?仲が良い時に教えて貰ってもおかしくないはずなのに。」
「考えられる理由はいくつかあるが、おそらく、一番の理由はダレスだろうな。話を聞く限り、ダレスは相当頭が良いと見て取れる。自分の本拠地がバレるようなことはしないはずだ。」
レトーラが考え込むように言った。
「何かバレないようにしてたのね。」
うちらはため息をついた。
「ねぇ、弟を説得することってできない?」
「あいつの性格的に無理だな。」
「でも、試してみてほしいの。レトーラなら、話を聞いてくれるかもしれない。」
「アデラ殿。」
手に顎を乗せて考えていたレトーラが、うちに真面目な顔を向けた。
「そうしたいのは山々だ。できる限り君たちに協力したい。だが、この交渉はリスクがあまりにも高すぎる。」
「そうなの?」
「相手からすれば、同盟相手であるレイビン王国は敵国。我が女王という身である以上、民を危険に晒すことはできない。」
「そっか……そうよね。」
可能性があるとすれば……あのフクロウの面を着けた幹部か。
「もう一度、会えないかしら。」
「どうした?」
「あ、えっと、フクロウの面を着けた幹部の話をしていたじゃない?その後、故郷を助けに行った時に丁度そいつと会ったの。そいつ、仕事でうちを殺すって言っておきながら、殺意が無かった。」
「殺すと言っているのに殺意を感じなかった?殺すと言っているのに?」
レトーラは困惑して言った。
「ほ、本当なの。うち、なんでか分からないんだけど、相手の感情というか、気持ちというか……とにかく、そういうのが分かるの。」
「アデラ殿の特徴を疑っている訳では無い。いや少し疑ったが、そういえばステラ殿も似たような特徴を持っていたからな。」
「そうなの?」
「呼んだか?」
いつの間にかステラ姉が横にいて、思わずうちは軽く跳ねてしまった。その様を2人はくすりと笑った。
「お、驚かさないでよ。」
「……痛え。くそ、これじゃ動かすのもまともにできん。」
「ところで、仮に潜入したとして、どうやってお兄さんを見つけ出すつもりだ?」
「……一つ一つ牢屋を確認するか……そういえば、奴らの城には工場がある。そこで奴隷が働かされていたはずだ。」
ん?なんで、知ってるの?
「よく知ってるな?」
「……別に、アイツらが話しているのを聞いただけだ。」
顔を背けながらそう言った。
ステラ姉の境遇について、何となく察したような気がする。でも、そんなの信じたくは無かった。それに、もしそうだとしたら、どうやって生き延びたの?
「で、次はフクロウの面を着けた奴が怪しいって?」
「えぇ。確か……テルスって言ったかしら。そいつなら、城に入る方法を教えてくれるかもしれない。」
「どうやって探すんだ?未だに生き残りのライダー1人も見つかってないのに。」
「ウィケルで待機するのよ。そうすれば…」
「勘弁してくれ。やりたきゃ一人でやってくれ。」
「え、なんで?」
「リスクが高すぎるし、仮に出会えたとしても、自身の領土ではまともに話してはくれんぞ。」
「じゃあ、どうしたらいいの?いや、待って、考えさせて。」
しばらく沈黙した。どうにかしてテルスに会う方法は無いだろうか?そもそもテルスにこだわる必要はあるのか?
「……一旦肩の荷を下ろしてみては?」
「え?」
突然、ぽつりとレトーラが呟いた。
「あまり時間が無いんだぞ。」
「確かにな。だが、広大なこの大地で特定の人を探すのはほぼ不可能だ。他に入る方法、そして生きているかもしれないライダーを探しながら旅をしてみては?テルスに出会えればラッキーに思えばいい。」
「でも、そんなことしてたらお兄ちゃんが殺されるかもしれない……。」
「もちろん分かっている。だが、アデラ殿は天才的だが、ライダーになって日が浅い。そして、ステラ殿は指を失ったばかりで怪我も酷い。そんな状態で突っ込めば2人諸共死ぬ。一旦、羽を伸ばしても良いのでは無いか?」
うちらは顔を見合わせた。
「はぁ、まぁいいか。こいつは私とまだ一緒に居たいみたいだしな。」
「え、いやそんなことないし……。」
ステラ姉はやれやれと言わんばかりに目を回した。
「よし、決まりだな。休む時はいつでもここに来てくれ。」
「そりゃどうも。」
「レトーラ、色々とありがとう。」
「気にするな。」
そしてまたレイビン王国のお世話になった。今回はステラ姉も大浴場に入ってくれるみたい……だったが、怪我をしていたため、大浴場は大浴場でも、1人用の大釜風呂に入っていた。他の女性貴族は、うちらを見て一瞬ギョッとしていた。まぁ、当たり前だろう。傷だらけに加えて、ステラ姉は入ってからずーっと小声で文句言ってる。
「ステラ姉、大丈夫?」
うちはステラ姉の隣の大釜風呂に入っていた。
「大丈夫に見えるか?」
かなり苛立っていた。手だけは濡れないように包帯の上からさらに手袋をはめていた。
「ステラ姉なら平気かなって。」
「傷が染みるんだよクソが。」
「出ないの?」
「レトーラが30分は入れだと。」
うちは近くにあった大釜風呂の立て看板を読んだ。
『大釜風呂には消毒成分も含まれているため、古傷や新しい傷にもよく効く。ただし最低でも30分以上は入浴するべし。』
「なんか胡散臭い。」
それから出るまでずっとしかめっ面だった。あんなに大きな感情を出すステラ姉を見るのは初めてだった。出る頃には大きな傷以外塞がっていた。どうやら立て看板は本当のようだ。そして出た後はすぐベッドに倒れ込んだ。
「ステラ姉?」
「……なんだ。」
「あんまりこんなこと聞きたくないけど、もしかして、あいつらに捕まっていたの?前も……王国が滅んだ後、どうやって生き延びたのかとか、話してくれなかったよね。」
「……あぁ、そうだよ。捕まってたさ。これで満足か?」
ステラ姉は少し強く言った。
「……ごめんなさい。どうしても気になっちゃって。」
ステラ姉は、大きくため息を着くと、起き上がった。
「本当に知りたいのか?」
「あ、えっと、知りたい……けど、話したくなかったら、うん。言わなくて大丈夫。」
思わず焦って言った。うちに対するかすかな苛立ちを感じたのもそうだが、それ以前に、強い憎しみと怒りの混ざった感情が別の何かに対して向けられているのを感じた。ずっと穏やかな感情だったステラ姉が、まるでガラスが割れてしまうかのように突然その負の感情に支配されるのが、怖かった。
「発言には責任を持て。どっちだ?聞きたいのか、聞きたくないのか。」
真剣に、まっすぐうちを見つめて言った。深海や夜空のように深く、片目しかない蒼い目がうちを捉えて離さない。
「聞く。」
ステラ姉が少し目を閉じると、口を開けた。
「……目を覚ましたときには、牢屋の中だった。グレイヴも一緒に捕まっていた。地獄のような毎日だった。起きている間は周りから苦痛の叫び声や骨が砕かれる音、肉が切れる音が聞こえてきた。私はテルスを除く他の幹部に、ありとあらゆる手を使って黒魔術を身体中に送り込まれた。多分、仲間にするためだろう。寝ている間は悪夢を見た。被害者が私を掴んで離さない。被害者達は私を憎んでいた。当然だろう。騎士団として、助けられたはずの国民を助けることが出来なかったんだ。100年……そんな日々を過ごしてきた。今も時々、ここにいることが夢なんじゃないかと思う時がある。まだ自分は、あの場所にいるのだと、現実から目を背けるために、夢を見続けているんだと。それか、既に支配されてしまって、本当の私が、架空の世界を作り出しているのだと。」
なんでか分からないけど、うちは思わず抱きしめてしまった。なぜだか、懐かしい感覚がした。
「……はは……まさか慰めてるのか?私を?なんの関係もない子供のお前が?」
かすかにステラ姉の声が震えていた。
「分からない……多分、自分のことみたいに、辛くなったのかも。」
「……変なやつ。」
どうして泣かないの?大人だから?いや、大人だって、泣いてもいいはずよ。思いっきり泣いて、少しでも気が楽になって欲しいもの。
「おい、痛いから強く締めるな。眠いから私はもう寝るぞ。」
離れると、ステラ姉はすぐ横になった。
「ご、ごめんなさい。気になることとか、後先考えずにどんどん口走っちゃって、もっと、気をつける。」
「……あぁ。そうしてくれ。」
子供のうちが心配するようなことでは無いのかもしれないけど、ステラ姉は辛いこととか、心配ごとを自分から相談するような人では無い気がする。そしてそういったことを慰めてくれる人や、一緒に居てくれる人は、居たのかな。
そんなことを考えていると、いつの間にか眠りについていた。




