黒い亀裂
グランツ、もう少し我慢出来る?きっとレトーラ女王が何とかしてくれるはず。
うん。そんなに深くないから大丈夫だよ。
ありがとう。ごめんね。
しばらく飛び続けた。グランツが怪我をしているため、あまり速く飛ばせる訳には行かない。数時間かけて、やっと砂漠に着いた。太陽の位置的に、昼過ぎか。
「あれ?」
王国が見えてくると、邪龍は1匹も見当たらなかった。そして、城近くの厩舎に降り立った。
「ねぇ、女王様と奴らは?」
近くの兵士に尋ねた。
「おぉ!シリウス殿のお仲間ですね!陛下は玉座にいらっしゃいますよ!シリウス殿のおかげで何とか退けることができたのですよ!」
「よ、良かった。ごめんなさい、協力出来ずに。」
「いえいえお気になさらず。女王様から事情は聞いていますので。」
「ありがとう。ねぇ、グランツの治療をすることってできない?前足を怪我しちゃって。お願いします!」
「それは医療班の仕事ですね。すみません、我々は持ち場を離れることが出来ないので。」
「分かった。ありがとう。」
うちは城の中に入り、レトーラ女王の前に来た。
「おぉ!アデラ……と言ったかな?無事で何よりだ!」
「こちらこそご無事で何よりです。あの、グランツ……ドラゴンが怪我をしてしまって。」
「それはいかんな。召使い!医療班に金色のドラゴンの治療を!」
「かしこまりました。」
「あの……ステラ姉は?」
「?……あ、あぁ、医務室で休ませてるよ。案内しよう。」
玉座から立ち上がると、歩き出した。
「って我が行くなら召使いに頼む必要無かったな。まぁいいか。」
しばらく歩くと、地下に着いた。
「ここだ。ここは緊急避難所でもあって、かなり頑丈な作りとなっている。ん?おぉ!シリウス殿、起きていたのか。もう痛みは癒えたのか?」
ステラ姉の顔や体に新しい傷が増えていた。
「レトーラ……あぁ、まぁな。アデラか。村は大丈夫か?」
「え、えぇ。何とかね。それよりも、なにかあったの?」
違和感……なんだ?いつもと雰囲気が違う気がする。
「別に、少し手こずっただけだ。」
「シリウス殿、あまり嘘をつくのは良くないぞ。隠す必要も無いだろう?」
「……今はもう無いが左眼がまた痛み出してな。あいつらともう関わりたくないのは、それが理由なんだ。」
そうだ。眼帯からはみ出ている。亀裂のようなものが。別れる前まで無かったのに。
「その亀裂……。」
「シリウス殿が苦しみ出したと同時に、急激に現れてな。どうにかできないかと色々調べてみたんだが、どうしようもなくて。」
「恐らく黒魔術だろう。失う前から、目は黒魔術に汚染されていたんだ。それで、100年前のあれでトドメを刺された。黒魔術によって俺の目は、破裂したんだ。」
「そんな……。」
「……アデラ、俺が俺で無くなったら、殺せ。いいな。」
「そんなこと出来るわけ……。」
「簡単だ。頭か首か心臓をぶち抜けばいいだけだ。」
「そういう意味じゃなくて……ひどい!そんなこと考えないでよ!」
思わず涙が溢れてきた。
「やれやれ。」
「にしても、シリウス殿が女だったとはな。初めて会った時は気づかなかったなぁ。」
「……は?」
それを聞き、一気に涙が引っ込んだ……やば。
「いやだって、アデラ殿がシリウス殿をステラ姉と。つまり女ということではないか?」
「お前なぁ。」
「ご、ごめんなさい。」
「ステラか、良い名ではないか!嘘をつかれたのはまぁいけ好かんが、仕方ないことだったのだろう?それに、これで女扱いしなくて済む。あ、でも男ではないということは婚約できないのか……。」
「おいあほ、俺が仮に男でも結婚なんかしないぞ。」
「そんなに嫌がるってことは、好きな奴でもいたのか?」
すると、顔を背けた。
「ふっ、どんな奴だ?」
「……相手のことを、第一に考える奴だ。少し頼りないが、努力を怠らない、教わったことはきっちりやりこなす。そんな奴だ……うちの、教え子でもある。」
ステラ姉にも、好きな人がいたんだ。一匹狼って感じがしたから、いないのかと思った。
「ねぇ、伝えたの?」
「何がだ?」
「愛してる〜とか、好きだ〜とか。」
「……いや。」
その一言は震えていた。心を感じ取らなくても分かった。深い後悔。これ以上は言いたくても言えなかった。
「生きているといいね。」
「あぁ。また少し寝かせてくれ。」
「もちろん。ゆっくり休んでくれ。」
そう言うとレトーラ女王は医務室を出ていった。うちもステラ姉をちらりと見ると、グランツの様子を見に行こうと出た。
「あの、レトーラ女王様。」
「レトーラでいい。どうした?」
「邪龍にクロスボウを使ってたけど、効いてるの?」
「あぁあれは、対邪龍用の矢で、ドラゴンの力を固めた結晶を括りつけていてな、それを着けたものは効くんだ。」
「そうなの?どうやって作ってるの?」
「さぁ?」
「えぇ〜。」
「噂によると、ライダーかドラゴンの血で作られているらしいが、さすがに嘘だと思っている。」
「まぁ、もし本当に血で作られてたら、噛み付いた時点で弱ってるでしょうしね。……あ、ねぇ、ずっと思ってたんだけど、厭世部隊ってなんでうちらを、色んな人を襲うの?」
「それは我もよく分からなくてな。厭世部隊という名から察するに、この世を深く憎んでいるとか、逆にダヴィンレイズ王国が悪いことをしたからだとか、まぁ色んな説があるな。」
ため息を着くと、窓から見える厩舎を見た。ここからではあまりグランツは見えなかった。
「そう……あいつらの行動理由が分かれば、対策とかできるかもしれないのに。」
「そうだな。あ、そうだ、お茶でも飲むか?お菓子もあるぞ。」
「いいの?」
「もちろんだとも!礼もしたいしな。」
「礼って、お礼を言うのはこっちよ。」
「いいや、見た感じ、ステラ殿を動かしたのはアデラ殿だろう?アデラ殿のおかげで、こうしてまたステラ殿に会うことができた。ありがとう。」
「うちからも、ありがとう。じゃあお言葉に甘えさせてもらおうかしら。その前に、グランツの様子を見てもいい?」
「もちろん!」
うちらは厩舎に来ると、グランツに会った。グランツはすっかり元気そうで、ラトゥラとじゃれていた。
「グランツ!」
アデラ!
「良かった。」
頭とグランツの鼻先を付けた。
「ラシエアカンの毒素を使った強力な薬を使ったから、すぐ良くなるはずだ。」
「あ、知ってる!レイソウ薬よね!」
「あぁ。昔は主流だったんだがな……今はもう作られてないだろう。アデラ殿はちゃんと治療したのか?」
「えぇ。もう痛みもだいぶ無くなったわ。」
「それなら良かった。」
そうして、レトーラの部屋に招かれると、お茶菓子を楽しんだ。
「あぁそうだ、召使いよ、ステラ殿が目を覚ましたら彼女にもお茶菓子を渡してやってくれ。出来れば、招き入れてくれると助かるんだが……まぁ、それは彼女が元気になってたらだな。」
「かしこまりました。」
「そうだ、君たちはデイサルディン王国に赴くのだろう?」
「えぇ。」
「彼らは気難しいが良い奴なんだ。だが、ライダーをかなり嫌っていてな。一般人なら普通に接することができても、ライダー相手だとかなり攻撃的になる。」
「え、隠せないの?」
「無理だよ。彼らに嘘をつくのは不可能だ。厭世部隊でさえもな。」
「じゃあ、どうすればいいの?」
「彼らの要求を全部聞いてみるといいかもな。王国が滅んだ今、最悪殺されるかもしれないがな。」
「え、無理。さすがに無理!殺されるって。」
「まぁステラ殿と一緒なら多分大丈夫だろう。一応王と面識があるから。」
「えぇ〜殺される可能性があったら大丈夫でも行きたくないんだけど……。」
「まぁまぁ、念の為、我から手紙を寄越しておこう。」
「ありがとう。」




