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oddmagia  作者: 湖流るこ
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第五話

戦闘描写有り。

 結局、村へ帰るように促されることはなかった。それに安堵しつつも、不安は簡単に拭い取れるものではない。

 森の野宿では疲れもろくに取れないだろう。睡眠を取ることは難しくとも、体だけでも休めよう。そう思っていたアーテだったが気付けば眠っていたらしく、先程ようやく目が覚めた。魔力切れとは本当に恐ろしいものだ。

 当然のように先に起きていたロノスへおはよう、と声を掛ければ同じ言葉が返された。彼が眠っている姿を最後に見たのがいつだったのか、アーテには思い出せなかった。

 街などで宿を取っても、眠りに就いた姿を見たことがない。朝に起きてみればロノスが使った寝具は片付けられているし、今のように野宿であっても同じだ。そればかりか、起きたアーテの為にと朝食の用意まで済ませている。


(こいつ、ちゃんと寝てるのか?)


 不審に思いながら、彼から渡されたパンを受け取る。

 魔獣か動物のものだろう。焼いた肉ひときれと、二枚のレタスが挟まれたものだった。せめて、肉は以前から保管していたものであってほしいと願いながらパンへとかぶりつく。自分が寝ている間に魔獣と戦っていた可能性など考えたくもない。アーテはひとくち、またひとくちとパンを口へ運んでいく。

 育ち盛りの身としてはとても満腹とはいえない量だったが、贅沢を言える旅路でないことは当然理解している。それに、可能な限り食料も自分が優先されていることにはアーテも気付いていた。自分に渡したパンより小さくはあるが、きちんと食事をするロノスを見て安心したくらいだ。

 そうだ。パン、とアーテは思い出す。


「パンは嫌いじゃなかったのかよ」

「……忘れたな、そんなこと」


 山小屋で、喉が渇くからパンは苦手だと言っていたくせに。あの時に比べれば、水分さえ水筒が二本と明らかに少ない。よく考えてみれば、好き嫌いで食べるものを選ぶような奴ではないと知っていたはずだった。

 重篤な害を及ぼすものを潜ませたのであれば、ロノスはアーテが食べることも止めただろう。あれは、アーテが眠ってしまっている内にすべてを片付けようとしたからこそ、あえて食べさせたものだった。今さらアーテはその思惑に気が付いたのだ。今後も似たようなことがあっては溜まらない。他人が用意したものを簡単に口に含めないこと、もう少しロノスの様子を伺うことを密かにアーテは決意した。



「にしてもあのくそガキ、なんだったんだ?」


 突如現れ、瞳を寄越せと襲ってきた子供。アドアと名乗った子供は褐色の肌を持っていた。少なくとも、今まで訪れた場所では見たことのない風貌だった。アーテに出会うよりも前に旅をしていたというロノスもそれは同じだったらしい。

 見るからにアーテよりも幼く、華奢な体格であるにも関わらずに人と戦い慣れた様子だった。同じ色をしている様に見えた双眸だったが、右目がより深淵のように深い黒を灯していた。おそらくは魔術師(オッドアイ)

 しかし、瞳を欲していた。後から現れた長身のローブを着た人物に促され撤退した、ということは彼ら以外の意思が介在した可能性もある。彼らの素性は全くもって不明だが、そういえばとロノスが口を開いた。


「……あいつを蹴った時、ローブの裏に刺繍が見えた」

「ししゅー?」


 間の抜けたアーテに対し、ロノスが頷く。


「シィト教の紋章にも見えたが……違うものだろうな」


 ——シィト教。

 アーテはこてりと首を傾げた。

 聞いたことのあるような、ないような。そんな名だったが、怪訝そうにこちらをみたロノスに対し、いつものように無知を晒したことを知る。

 おそらく一度聞かされている事に違いない。今思い出すと焦るアーテに短い溜息をこぼして、彼は語りだした。



 シィト教は、この世界——ギ・シィトで暮らすひとびとの多くが信仰する教えだ。

 暗黒しか存在しなかった世界に神秘をもたらした神。それこそがシィト神であり、万物を生み出す力を以てひとびとを創り出した。暗黒の世界でもひとびとが生きて往けるよう、神はひとびとにも神秘のちからを分け与えた。ひとびとは様々なものを生み出して幸福に暮らしたという。

 しかし、ひとびとは次第に傲慢さを孕んで、ついには争いを始めてしまった。

 故に、罰としてひとびとは神秘を取り上げられ、嘆き悲しんだ神は深い眠りについた。今を生きる生命が魔術を使えないのはこの為であり、生まれながらに魔術を扱える者は神に許された存在とされている。実際、シィト教の教祖は代々生まれ持っての魔術師(オッドアイ)だという。

 彼らにとって魔獣とは、かつてひとびとの傲慢から生まれた存在であり、罪そのものだ。いずれそれとなる半魔は忌むべき存在であり、神へ許しを請う為にもその存在を許さない。汚れた存在として排除する。それが、教えだった。

 その教えに、アーテが異を唱える。


「そんなの、おかしくないか? だって、望んでそうなったわけじゃない奴ばっかだろ。ロノスだって、俺を助ける為に……」

「……半魔はいずれ魔獣となる。魔獣はひとを襲うものだ。危険を排除する理由にも、正当性が必要なんだろう」


 危険だから排除する。そんな身勝手な理由よりも、それは教えだから。罪にも問われない行為なのだと。

 たとえ、(みな)を守る為に排除する半魔が元家族であったとしても、心を痛める必要はないのだと。神に赦された行為であれば、手を下した者や残された者も安心することが出来る。そんな正当性が必要だったのだとロノスは話す。

 彼自身がそう認めていることが、アーテにはとても残酷なことに感じた。放っておいては駄目だと。自分がこの旅を諦めたら、彼はすぐに決断する。予感ではなく確信だった。


「……じゃあ、俺はどうなんだよ。生まれた時からじゃない、犠牲の上で魔術師(オッドアイ)になった奴だって罪人じゃないのか」


 人様のものを盗めば当然罪に問われる世界だ。それが瞳であったとすれば、それこそ罪とされるべきだろう。しかし、ロノスは首を横に振る。


「免罪体質者。そう呼ばれている」


 元より、瞳を得ても魔術師(オッドアイ)になれるのは一握りだ。故に、後天的に魔術師(オッドアイ)となった者は免罪体質者とも呼ばれている。罪の象徴である半魔から免罪された者とし、ひとびとに尽くすべく教会へ名乗り出る。その後は教会所属の魔術師(オッドアイ)となり、魔獣討伐を担うのだという。尤も、実例は少ないらしい。

 反対に瞳を奪い、それでも魔術師(オッドアイ)になれなかった者は罪を重ねることになる。その場合、通常の盗みや殺人よりも重い罪だそうだ。

 教えとやらに腹を立てながら、アーテは趣旨を思い出す。


「……そういうものがあるとして、えぇっと……違ったんだろう?」

「眠るシィト神を守護する一対の翼、それがシィト教の紋様だ。そこに腕らしきものが足されていた」


 あの合間によくそこまで見たものだと、アーテは関心する。

 しかし、結局のところアドアの素性は分からないままだ。褐色の肌という特徴が、異国であるガラノシア人の特徴の可能性は十分にあるだろう。それがエマテリア王国内に居たとなれば、まだ両国は関係を持っているのだろうか。

 骨董品屋の老人が言った鉄と砂漠の王は仲良しという言葉も引っ掛かるが、この場でこうして話していても憶測しか生まれない。

 仮にアドアがガラノシア王国の人間であり、エマテリア王国と繋がっていたとして。骨董品屋を信じるのであれば、繋がりは公にはされていない。

 たとえ、アドアから(もたら)された情報によってエマテリア王国から追われる身となったとしても、その情報の伝達には時間がかかるだろう。勿論、こちらがそれを踏まえた行動を取ることは筒抜けの可能性はあるが、それこそ挙げだしたらきりがない。

 どちらにせよ、魔術図書館のあるガラノシア王国へ向かうのは困難だ。他で情報を探るしかないとなれば、何処へ向かうか。それが課題だった。

 ひとつ、ロノスが案を挙げる。


「森を南へ抜けた先に、集落があるはずだ」

「南の集落に、なにかあんのか?」


 始めにこの森を通った時、西からやや北東へと抜けてリストリアへと辿り着いたが、南に抜けた先にもどうやら集落があるらしい。

 そこへたどり着いたとして、その先に何も無いのであれば意味がない。アーテもロノスが無策に発言したとは思ってはいないが、先が見えなかった。


「船が何から作られているか、さすがに知っているな?」

「おい、さすがにってなんだ! 木だろ! 知ってるよ、ああ流石にな!」


 アーテの顔が、心外だとばかりに垂れていた眉尻を釣り上げる。

 ロノスの話によると、エマテリア王国の首都では鉄の船を作り出す計画があるらしい。とはいえ計画の段階に過ぎず、レフカティカ王国で創られた木工船を買っているのが現状だ。

 しかし、今でも木の舟を作っている場所があるという。それが、南の名も無い集落だ。森によって孤立した集落はエマテリア王国の流通経路からも外されているらしく、したがって集落に住むひとびとは森で切り出した木々から船を作り、それによって漁を行ってなんとか生きているとのことだ。

 エマテリア領土にあるとは名ばかりで、国からほぼ放置されていることを集落のひとびとも好ましく思っていないような場所だ。身を寄せるには丁度良いのかもしれない。

 どこで知ったかとアーテがロノスへ問えば、あの鉄の喧騒の中で、街のひとびとが南の集落の話をしているのを耳にしたらしい。

 ともかく、長期の渡航は難しくとも、海路でレフカティカ領土へ戻ることは可能だろう。もしくは、そこまで遠くない距離にある他の陸を目指すことも出来るかもしれない。


「船を買うってこと? 高そうだけどなぁ」

「高いだろうな」


 釣り上がっていたアーテの眉尻が、再び下がっていく。買えたとして、そこで路銀が尽きてしまってはその先で苦労することは間違いないだろう。

 むむむ、と頭を捻らせるアーテの姿を見ながらロノスが続ける。


「アーテ、集落の人間が切り出しているにも関わらず、この森が未だにその南まで伸びている理由は何だと思う」


 アリアの森のように恵みの加護がなければ、森の再生速度もゆるやかなものだ。いくら深い森とはいえ、切り出し続けていれば森と呼べる領域は縮まっていくはずだ。けれど、この森は深く広い。


「……あ、魔獣を警戒してそんなに木を持ち出せていない?」

「まぁ、あくまで推測だがな」


 いくらか魔獣と戦える心得があったとしても、流通経路が絶たれた集落だ。戦う為に必要な物資が十分にあるとは考えづらい。あったとしても、長期で戦うことは難しいだろう。それほどに、魔獣はひとびとにとって脅威的な存在なのだ。

 だからこそ、護衛職が存在する理由になっている。彼らを雇うにもそれなりの額が必要だ。つまりは、護衛を名乗り出る、ということだろう。何もせず船を買い求めるよりは交渉の余地がありそうだ。


「よし、早速行こう!」


 水筒の水をぐびりと飲んで、アーテが立ち上がる。

 目的が決まった時の前向きさは彼の良いところだと、ロノスは密かに笑みをこぼした。



 ◇ ◇



 集落に向かう途中も幾度か魔獣と遭遇した。

 アドアとの戦闘が余程堪えたのか、アーテも無闇に突撃する真似はしなかった。

 冷静さを欠いて尚、これが出来ればとロノスは思わずには居られない。

 いつまでも傍に居ることは出来ないと思っているからこそ、彼の成長は素直に喜ばしかった。剣の筋も悪くない彼のことだ。きっと、まだ強くなれる。剣を教えた身だからか、教え子の成長を見守ることも悪くないと彼の成長を願った矢先だった。


「ぐ——ッ」


 どくりと胸が大きな音を立てた。視界が歪み、胸の中心から身体中へ激痛が走る。

 歩くことも、立っていることすらままならない。酷い目眩の中で、身体が崩れ落ちた。後ろを歩いていたアーテもすぐに異変に気付いたのだろう。駆け寄る様子が、廻る景色に溶けていく。


「おい、どうした! 大丈夫なのかよ、なぁ! おい!」


 もはや、アーテが何を言っているのか。ロノスには分からなかった。

 それどころか、アーテの姿すら霞んで見える。すべてがあやふやで不明瞭な世界に、痛みと耳鳴りだけが変わらずに残されて続いていた。


「は……あ、ぐぅ……がっ、ぁが」


 低く、短く。断続的に唸るロノスの呼吸は乱れていくばかりだ。

 び、と布の裂ける音がした。ロノスの服が破けたのだと、アーテは数瞬遅れて理解した。どうして破けたのか。彼の背が広がっていくからだ。彼の脚が、腕が、少しずつ伸びている。目の前の身体から、ぎちぎちと軋む音が鳴っている。

 これは何だ。何が起きている。これも、魔獣化の症状だというのか。

 伸びた腕が、僅かに長くなった指が地面を掻く。変異は止まらない。灰緑色(かいりょくしょく)の髪が地面に広がっていく。髪すら伸びているのだ。

 ——もしも、このまま。

 浮かぶ思考を打ち消すようにアーテは叫ぶ。


「違う、違うだろ! しっかりしろよ、ロノス!」


 己が彼の名を呼ぶ声。彼の乱れた呼吸音と、彼の身体から発せられる軋む音。それ以外が加わったことを、アーテは聞き逃さなかった。


「ンなときに……!」


 腰の剣を引き抜き、霧の向こうの気配を探る。獣じみた息遣い。二匹、三匹、六匹。それ以上に数は増えていくばかりだ。こちらから先に仕掛けるべきか。この場を動いていいものなのか。

 こんな時に彼の意識があったのならば、なんと言うだろうか。知っているなら、いや知っているはずだ。だから思い出せるはずだ。


(落ち着け。落ち着け、落ち着け!)


 深く、アーテは息を吸う。それからゆっくりと吐き出した。霧に潜む魔獣はこちらの様子を伺っているようだった。

 それでも、遠退く気配はない。一匹が動けば、すべてがそうするかもしれない。

 耳を澄ませ、集中する。たん、と聞こえた音を逃さずに、飛び出した狼に似た魔獣を横薙ぎに払う。狼。違う。アドアの出したそれとは似ても似つかない。

 落ち着け、と自分に繰り返す。次いで、二匹がアーテへ飛び掛かる。自分が避ければ、魔獣がロノスを襲うかもしれない。

 ならば、避ける必要もない程に速く倒してしまえば良い。横薙ぎに払ったままの剣を逆方向へ薙ぎ払う。また新たに襲い掛かる魔獣に向け、斬り伏せた魔獣もろとも水魔術で吹き飛ばす。血も洗い流せば、その匂いで他の魔獣が寄ることも防げるかも知れない。

 それでも、魔獣は未だ霧の中に残っている。すべてを倒しきれてはいない。


(邪魔だ。このまま全部流せば……! いや、それは駄目だ)


 アドアとの戦闘で消耗した魔力を回復しきれていない今、無理をすれば間違いなく再び魔力は尽きるだろう。そうなれば、意識が残る保証はない。ここでそんな失態を犯すわけにはいかなかった。

 飛び掛かる魔獣に対し、アーテは剣を振り上げた。

 しかし、振り下ろしたのは刃ではない。柄頭でその脳天を叩きつける。魔獣が地面へ叩きつけられる前に、その(むくろ)を霧へと追い返すよう蹴り飛ばした。

 その向こうで、魔獣がぐるると唸った声が聞こえる。あれの元が人であったのか、動物なのか定かではない。魔獣から生まれた魔獣の可能性もある。

 けれど、いずれにせよ賢い生き物であることには変わらないらしい。霧の向こうで奴らは恐怖している。息遣いがそう教えてくれた。

 なんだ、あいつらもそんなことを思うのか。途端に可笑しくなって、アーテは笑い出す。


「はは、あはは!」


 ふざけるなと笑う。恐怖に潰されそうなのはこちらなのに。大切な仲間を失うかもしれないというのに、邪魔をしてきたのは誰だ。怒りが溢れ出しそうになって、笑うことで押し留める。

 魔獣が恐怖を感じるということはアーテにとって確かな見聞となった。自分に恐怖して、逃げ(おお)せればいい。


「かかってこいよ、ぶっ壊してやる!」


 剣を振るい、咆哮する。こちらへ向かってくるのならば、容赦しないと示す。

 殺気に(おのの)いたのか、数匹の気配が遠ざかった。それでいいと口元が歪む。また数匹と気配が遠ざかっていく。このまま全てが立ち去ればいい。

 その思惑とは裏腹に、ひとつの気配がぐるりと霧の中を廻った。今のは何だと、正体を探る前にそれはアーテの眼前に迫っていた。

 大きな蛇が、人間など飲み込めてしまいそうなほどの口を広げている。そう認識すると同時に、アーテは自分の身体が後ろへと強く引かれたことを悟る。誰がそんなことを——そんな真似をするのは、ひとりしかいなかった。


「この、ばか」


 油断するな。掠れた声でそう言われた気がした。見慣れたはずの、少しばかり大きくなった背が目の前にあった。

 いつの間に掠め取ったのか、アーテから奪った剣で内側から蛇を貫いていた。蛇とともに崩れる彼の身体を抱きとめ、屈みながらそっと地面へと降ろすと、苦笑した顔と目が合う。困ったやつだな。そう言いたげだった。実際、言おうとしていたのかもしれない。

 小さな掠れた声でアーテの名だけを呼んで、瞳と共にロノスの意識は閉ざされてしまった。


「ロノス!」


 荒い呼吸にまだ彼が生きていることを知る。身体の変化も止まった様子だ。

 それでも安堵することはできなかった。額に浮かぶ汗の量が尋常ではなく、顔色からも彼が発熱していることが伺える。


「くそ、どうなってんだよ!」


 周囲は未だ森の景色に閉ざされていて、集落までどれほど距離があるかも分からない。魔獣の気配も遠ざかってはいるものの、またいつ襲われるか、それも分からない。アーテはロノスを背負い、先を急ごうとした。

 けれど、最悪なことに気が付いた。


「道知らねぇよ! っとに俺バカだよ、ちくしょう!」


 どれだけ普段から彼に頼った旅をしていたのだろう。

 霧のせいで自分たちが何処から来たのか、それさえ不明だ。破れかぶれで進むしか無いのかと、一歩踏み出した時だった。


「ねえ、リオス。きっとこっちに迷子さんがいるのだわ!」


 霧の向こうから、知らない声が聞こえた。魔獣が住む森では到底耳にするはずのない、幼子の声だ。

 目を向ければ影がこちらに近づいてきていた。

 近づいてくる影はひとつではなく、先程の声の主と思われる小さな影のすぐ隣に、大きな影があった。


「なにいってるの、森の迷子さんは、えーっと、迷子さんじゃなくさないといけないのよ。迷子さんはね、そのままにしたら泣いちゃうんだから!」


 隣の影と話しているのだろうか。

 けれど、声は幼子のものひとつしか聞こえない。

 霧の向こうでぼやけていた影たちが、はっきりと輪郭を現す。


「ねえ、あなたたち! だいじょうぶよ、セルネとリオスが迷子さんじゃなくしてあげる!」


 そこには、ひとりの少女と手を繋ぐ、額から角を生やした巨体の男が居た。

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