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oddmagia  作者: 湖流るこ
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第二十二話

 ゆっくりと瞼を開くと、カーテンの隙間から明かりが差し込んでいた。

 クラトは壁に預けていた背を起こし、音を立てぬように立ち上がる。

 左右を確認すれば、それぞれの寝台に眠るふたりの姿があった。

 あの後、二度寝を選択したらしいアーテはいびきをかいていた。腹の虫も鳴いており、放っておけば時期に空腹で目を覚ますだろう、とクラトは見立てた。

 普通は四日間も眠り続ければ、それだけで命に関わる。

 しかし、昨晩に一度目を覚ましたアーテには喉が乾いた様子もなかった。つくづく、 魔術師(オッドアイ)こそ人間離れしているなと静かに息を吐く。


(魔術回路は魔力を以て宿主を守る、とは言うが……)


 生命が持つ瞳には魔力が宿っている。

 そして、魔力は体内を巡る魔術回路へと流れ、宿主を守る。怪我を負ったとしても、ある程度であれば内側から癒やしてくれる。この性質に関しては 魔術師(オッドアイ)であるかは関係がない。基礎的に生命が有する構造だ。

 とはいえ、今回は度を越していた。 魔術師(オッドアイ)である故に宿主を守ろうとする働きが強く出たのか、アーテが無意識の内に何らかの魔術を行っていたのかは分からない。分からないが、おそらくは後者だろう、とクラトは辺りを付けていた。


 ともかく、四日間眠り続けたにも関わらず、衰弱した様子もなく、アーテの肉体は状態を維持しているように見えた。ロノスもアーテと比べれば幾分かは弱っているようだが、昏睡による衰弱には見えなかった。

 半魔は片目を失った際に、魔力の巡りが乱れ、魔術回路が破損している。故に、内側から癒やす能力も大幅に低下する。その結果、常人と比べた場合、半魔は傷の治りが著しく遅い。半魔に対して回復魔術の効き目が薄い、というのも、回復魔術は魔術回路の活性を促す術式の為だ。

 この性質を正しくアーテが理解出来ていたか、それもクラトには判断が着かなかった。魔術に関して学がないあの少年は、感性のままに魔術を行使している節がある。才能、といえば聞こえは良いが偽り無く評価するのであれば、危険な存在と言わざるを得ない。それが、クラトから見たアーテという少年だった。


 アーテが魔力を暴走させ、それを鎮静化させた時。クラトは彼を安心させる為に魔術は解除されていると言葉を掛けたが、部分的に嘘を付いていた。

 あの時、アーテは少なくともふたつの魔術を使用していると、クラトは察知していた。ひとつは空間に対して、もうひとつはロノスへ対してだ。その内で解除されたのは空間に対して行ったものだけだった。アーテは眠りながら、未だにロノスへと魔術を掛け続けている。

 壊れた魔術回路を無理矢理に活性化され、巡りきらない魔力がロノスの内部で蓄積され続けていた。彼の熱が一向に下がらないのはこの為だ。

 ならば、ふたりを引き離せばいい、ともならなかった。

 クラトも一度はアーテの魔術を中断させようと、ロノスを別室へ移そうとしたのだが、アーテからロノスへ流れる魔力に変化を感じ取ったのだ。危険だと直感し、結局は同室で寝かせ、今に至る。

 両者が目覚めれば、多少は緩和されるのだろうか。


(やはり、肉体の維持はアーテの魔術だろう。益々と回復魔術の域にあるとは思えんな。肉体の維持が可能ならば、ある程度は魔獣化の症状も停滞させることが出来るのかもしれないが……)


 そんなものは、アーテの魔力が潰えてしまえば、それまでだ。留めていた侵蝕は再開されるだろう。もし、ロノスを内側から喰らった鱗の蠢きをも留めているのならば。再び蠢き出した時、それは何処まで彼を蝕むのか。


「……分からないことばかりだな」


 クラトは顔を歪め、鼻先で笑った。



 ◇ ◇



 アーテが再び目を覚ますと、とっくに夜は明けていた。

 すぐ隣へと視線を映すが、相変わらずロノスは眠り続けている。遅れて、寝台の合間にある椅子へ腰掛けていたクラトの姿がないことに気が付く。

 何処へ行ったのか探すべく上体を起こすと、腹がぐうと鳴った。相当に腹を空かせていたのか、アーテの腹は一度だけでなく何度も鳴いた。

 ふ、と笑う声にクラトが何処に居るかも知れて、アーテは正面を睨みつけた。

 クラトは部屋の扉を背に、盆を左手に乗せていた。盆の上では深皿から昇った湯気がふわりと揺れ、コップに入った水が窓から差し込む光を反射している。


「そろそろ目が覚める頃合いかと思ってな。食事を用意して貰った」


 クラトは歩み寄り、アーテへと深皿を差し出した。具は無く、色も統一され、お世辞にも彩るとまではいかないが、皿には麦の粥が盛り付けられていた。四日と半日も眠り続けた彼の胃を気遣って用意された一品だった。


「食べられそうか?」

「……たぶん。腹は減ってるし」


 ぎゅると鳴く腹を擦りながら、アーテは頷く。皿を受け取ると思いの外に軽く、改めて中を覗いて見ると、粥は容器の半分も満たしていなかった。それでも、少ないとは思わなかった。確かに腹は空いているが、今はこのぐらいが丁度良いと思った。

 零すなよと手渡されたスプーンで掬い、口へと運ぶ。不味くはなく、美味くもない味が舌を温めていく。好みではなく、嫌いでもない味だったが、アーテの顔をきゅうと(しか)めさせる味ではあった。舌も少し引っ込んでいる。片眉も上がっていた。


「文句言うわけじゃないけどさ……味しねぇんだけど」

「それは十分な文句だぞ、病人め」


 アーテを横目に、クラトは新たに寄せた机へ盆を置く。椅子には戻らず、向かいの壁まで移動すると、そちらへ背を預けた。

 何故、離れるのか。座っていればいいのに。その行動を不可解に思い、アーテは睨む。


「…………なんだよ」

「……少年」


 アーテは口に詰めていた粥を飲み込んでから、なんだよともう一度全く同じ言葉を口にした。口から引き抜いたスプーンをどぷりと粥へと沈ませる。


「キミは食べるのが下手らしいからな、椅子を譲ってやろうと思ったまでさ」


 寝台の周囲はところどころ、粥まみれになっていた。アーテの顔がぴくと動く。今は起きたばかりだからだと言い訳をしようとも、クラトは椅子へ戻らなかった。おまけに汚されては適わないとまで言われ、次の一口がとてつもなく重くなってしまった。

 アーテが渋々と椅子へ移ろうとした時、隣から声がした。何を言ったかは聞き取れなかった。熱に魘された呻き声ともすこし違う、非常に短いものだった。

 落としかけた皿を握り込み、盆へと戻す。加減もせずに置いたものだから、衝撃で中身が溢れてしまう。そんなことはどうでもよかった。

 がばりと立ち上がり、隣の寝台を覗きこむと、眠っていたロノスが目を覚ましていた。


「ロノス!」


 良かった。目を覚ましてくれた。まだ顔が赤い。熱は残っているんだろうな。大丈夫なのだろうか。でも、目は覚ましてくれた。本当に良かった。アーテの胸中はそんな気持ちで一杯だった。

 アーテの呼び掛けに応えようとしたのか、ロノスは口を開くが、すぐに閉ざしてしまった。僅かに目を見開いて、ロノスは身体を起こす。


「お、おい。そんなに動くなよ、まだじっとしておけって」


 起き上がろうとするロノスの肩を押し返そうとして、彼が自身の喉に手を当てていることに気付く。ああ、首飾りを探しているのか、とアーテは視線を机へと映す。皿を置いた机と別でよかったと心底安心した。これで汚してしまっていたら、彼へなんと謝ればいいか分からない。


「革紐はちょっと危ないけど、指輪はどっちも無事だったぞ!」

「……そう、か」


 ようやく聞けたロノスの声は、すこし枯れていた。喉が渇いているのかと、そう思ったアーテはコップを掴む。飲みかけで悪いけど、と差し出すが返事はなかった。

 覗き込んで名を呼ぶと、どうした、と短い返事が遅れて返された。

 未だ、意識がはっきりとしていないのだろうか。アーテは顔を曇らせる。


「……水、飲むかなって……思って」

「あ、ああ。……いや、それより身体は大丈夫なのか、アーテ」


 この期に及んでそれか。そう思ったのはアーテだけではなかった。今までは黙って見守っていたらしいクラトも壁へと預けていた背を離し、ふたりへと近付いていく。どうしようもないな、と肩を竦めてロノスへと問う。


「お前のほうこそ、身体はどうなんだ」


 緑の視線と金の視線が交差する。

 すぐにでも目を背けるだろうな、とアーテは思っていたが、ロノスはそのままで居た。彼は口籠ることもなく、真っ直ぐにクラトへ返答する。


「熱が残っている以上、万全とは言い難いが、魔獣化の症状は落ち着いている。痛みもない」


 そう言ってから、ロノスはアーテとクラトの顔を順に見た。ふたりは揃って同じ顔をしていた。その原因が己のことをまるで他人事のように述べた為だとは思いもしないまま、今度はロノスがふたりへと問う。


「それで、今はどういう状況だ」

「おっ…………まえなぁ……」


 怒ってやろうかとアーテは思ったが、仮にも相手は目覚めたばかりの病人だ。今だけは見逃そうと、肩を落とした。無理矢理に声も落としたせいで、始めだけ随分と勢いづいてしまった。

 すぐ後ろで、クラトが目を細めた気配もなんとなく感じ取っていた。彼へと振り返り、話すのかと視線で訊けば、細められていた目は完全に閉じた。


「……あれから、奴らは動きを見せていない。断言は出来ないが、撤退したと判断しても良いだろう。カラマ殿には彼らが瞳狩りを行っていること、あれがボクの兄だということも話した」


 一息で話し終え、クラトは再び目を開く。

 真っ先に緑の瞳を向けられたのはアーテだった。一回の瞬き。その隙に視線はロノスへと戻されていたが、それだけでアーテは意図を理解した。

 ゼスが 魔術師(オッドアイ)であったことを伏せろと言われた記憶は新しい。気付いていなければ、とのことだが、なにせ彼は耳が良い。クラトとゼスが扱う風の音を外から聞き分けていた可能性は十分にある。

 クラトは何故、それを隠したいのか。教えて貰えなかった以上は知る由もない。漠然と、以前に話してくれたアゼ家のしがらみとやらが関係しているのだろうな、と想像した。

 指示通りに黙ったまま様子を伺っていると、ロノスが瞳狩りか、と復唱する。


「……その瞳狩りについて、ひとつ推測がある」


 その一言で、アーテは顔を引き攣らせた。知られていたんじゃないかと身体が固まった。声すら漏れていたかもしれない。幸いにも間髪を空けずにクラトがなんだと返した為か、ロノスが気にした様子はなかった。


「アドアの魔術に関してだ」


 子供の顔を思い浮かべたことで、アーテの顔があいつは嫌いだと主張した。

 治りはしたものの、かつてはアドアによって左手を落とされた。それだけでは留まらず、今度はロノスをも傷つけた。これで憎まずにいられる訳がない。沸々と湧き上がる感情を押さえ、アーテは深呼吸をする。


「あいつが、どうかしたのか?」


 ロノスは頷く。

 あの夜、何が起きていたのか。耳にした事も踏まえ、語りだす。

 アドアは半魔の少女とゼスを連れ、ダノーロの街に住む半魔たちを攫っていた。ゼスが語りかけ、それに反応した者を少女が察知し、アドアの魔術で迎え入れる。


 あなたを助けたいのです。返事を頂けたら、迎えに参りますよ。

 必ず助けて差し上げます。あなたたちを人間に戻す方法を知っているのです。半魔を悪く思う者たちに見つからぬよう、そっとお返事ください。


 あの時、ゼスの甘言に反応したのはステリーだった。本当に助けてくれるのかと訊ねていた。彼を連れて行かれる訳にはいかないと、ロノスは声を出したのだ。


「……お前が、自分を囮にしたやつだよな」


 アーテの口出しに、ロノスは正面から頷いた。ステリーに手を出せば右目を抉ると吐き捨てて、実行へ移そうとした。その癖、今でも悪びれた様子は微塵も持ち合わせていない。そのまま語り続けようとする姿にアーテは拳を握りしめる。今だけは黙って話を聞くと、そう決めたはずだと自身に言い聞かせた。


「アドアは俺の影から出てきたが、俺を落としはしなかった」


 アドア達とロノスはそれぞれが互いの間合いに入っていた。ロノスが剣を振るい、アドアが受け止め、ふたりの影が重なろうとも、その身は沈まなかった。

 エマテリア王国の街、リストリアで初めて遭遇した時もそうだ。アドアは影を操りはしても、ロノスやアーテを落とさなかった。思わせぶりなことばかり話す子供だが、ただ遊んでいるだけのようにも思えなかった。

 つまり、とアーテが口を出す。


「落とせない理由があった、ってことか?」

「……あの時、ゼス様は言っていた。『おしかったですね。連れて行けとでも言ってくだされば宜しかったのに』と」


 惜しかった。つまりは、そのせいで出来なかった。

 あの魔術は間接的にでもアドアへの同意や同調が必要なのだろう。それが推測だとロノスは言う。

 話を聞いて、アーテはぞっとした。アドアたちを呼び込む為にロノスが放った言葉が少しでも違っていたら。目の前で彼を失っていたかもしれない。そんな状況だったくせに、どうしてその推測までも淡々と話せるのか。

 アーテが俯いた隙に、クラトが一歩前へと出た。


「つまり、奴らの言葉には気をつけろ……ということか」

「そういうことだ。伯爵にも今後の対策として伝えて欲しい」


 それ以外に言うことはないのかと、流石のアーテも文句のひとつでもぶつけなければ気が済まなかった。言ってやろうとして、ロノスと目が合う。見透かされていたのか、彼は苦く笑っていた。


「今さら落とされる気はない」

「……なら、いいけどさ」


 正直、どの口がと言ってやりたかった。発熱が伺える顔色さえなければ言っていただろう。こいつの熱が引っ込んだら、全部ぶつけてやろう。遠慮はしないとアーテは心に決めた。


「なら、急ぐとするか」


 そう言って腕組を解いたクラトは扉の方へと向かった——訳ではなく、アーテへと全身を向き直した。屈んで視線を合わせ、突然のことに呆けた少年の肩へ手を掛ける。


「少年、頼んだぞ」

「……えっ、俺が行くのか!?」


 面を食らいながら、アーテは自身を指差す。

 眼前の男は大層な笑顔を浮かべていた。見送りのつもりか、既に笑顔で手を振っている。自らが動く気は微塵もないらしい。


「ラト。アーテも起きたばかり——」

「まさか、こんな御使いも出来ないような子供じゃないだろう?」


 当然、人使いの悪さに苦情を入れようとした者が居たが、掛けられた発破を流せるアーテでもない。馬鹿にするな、と肩に置かれたクラトの手を払う。


「すぐに戻ってくるから、待ってろよ! あ、ロノスは寝ててもいいからな!」


 ふたりへ順番に指を突きつけてから、アーテは走り出す。

 ばん、と大きな音で扉を開けて、同じく大きな音で扉を閉めた。自分で行けばいいのにと愚痴を廊下に落としながら駆けて行く。服に付着していた粥が床を汚していくが、アーテの眼中には映りもしない。

 その姿を咎める者が居ないのは、アーテの魔術やロノスの症状を踏まえ、事前に部屋の周囲から人払いを伯爵へとクラトが頼んでいた為だ。そんなことは知りもしないが、この階には誰も居ないと察して、アーテは階段を目指した。


 そういえば、その階段は何処にあるのだろうか。

 なにせ、先程まで居た部屋は始めに泊まった部屋でも、襲撃後に手当ての為に借りた部屋でもない。全く知らない部屋だ。廊下の様子や窓から見える景色も知らないことから、ひとまずは此処が本邸でないことだけは理解できた。


「……迷いませんように」


 曲がれど誰も居ない廊下を走りながら、アーテは項垂れた。



 ◇ ◇



 忙しない足音が遠ざかってから、ようやくクラトは例の椅子へと腰掛けた。

 先を許せばアーテを向かわせたことへの苦情が飛んでくるだろうと予測して、先制する。


「本当に、身体は大丈夫なんだろうな」

「瓶を頂けませんか」


 被せるような要求だった。さては相当に堪えていたな、とクラトは舌打ちする。

 かちゃりと音をたてながら、クラトは懐から冷えた瓶を取り出した。魔獣の血を入れて、魔術によって保管しているあの瓶だ。

 まるで奪うように、ロノスは差し出された瓶を手早く受け取った。口に血を含み、喉が血を通し、それを飲み下す瞬間にもロノスの眉間には幾重もの皺が深く刻まれていく。

 嫌悪すべき味の名残を求め、瓶の中に残された一滴すら逃さない舌に更なる嫌悪を覚えた彼の表情は、益々と険しさを際立てた。

 一度は吸血衝動を持っているとアーテへ話したくせに、この姿だけは見せたくなかったのだろう。


「……足りたか?」


 ロノスは無言のまま頷いた。

 差し出された時から動かずにいたクラトの掌へ、空となった瓶を乗せる。

 それから、しばしの沈黙が生じた。今更、なにも無い時間が苦痛となる間柄でもなかったが、空白を打ち破ったのはロノスのほうだった。


「……ゼス様も」


 飽くまでも。自然を装い、クラトは瞬きをするが、不安をよそにロノスは少しだけ笑っていた。アーテと共に居る時とも違う。どちらかと言えば、かつてエスローラの隣で浮かべていた表情に近しい。


「ゼス様とクラト様は、御父上によく似ていらっしゃる。口を滑らせる癖は治りませんね」


 ロノスが名を口にしたのは、惜しかったですねと漏らしてしまった彼の話をする為だった。半ばアドアの魔術を見抜けたのは、その一言があったからだろう。

 身体は弱いが、何だかんだと何でも卒無くこなしていた兄の姿を思い出す。

 確かに、父や兄も隠し事は下手だった。


「……煩いぞ」


 自覚はあった。自身の長所と短所くらい、クラトも心得ていた。

 だからといって、巻き添えを食らうとは思っていなかった。なにも、すべての隠し事が苦手なわけでは無いし、彼らと比べれば幾分かは口も堅い自負がある。

 ——それに。


「それにしても、だ。カラマ殿を呼ぶ為にアーテを向かわせる必要はなかっただろう」


 僅かに浮かべていた笑みを仕舞い、ロノスはクラトを睨みつける。伯爵が屋敷の何処に居るか、それを一番把握していた者はお前だったくせにとでも言いたげだ。

 その先はいつものように、アーテで遊ぶなと続けるはずだった。

 しかし、クラトが笑ったことで阻まれた。それは決して楽しげなものではなく、短くも完全に乾いていた。


「お前も、十分に俺と似ているさ」


 主は口元を吊り上げ、従者は息を詰まらせた。すっかり乗せられていたことに気付いても、手遅れだった。身体はろくに動かない。視線を外せない。逃げ場など、何処にもなかった。

 クラトがアーテへ頼んだ使いの内容は、カラマを探すことではない。使用人を探し、その人物にカラマを呼んで貰うようにと伝えていたのだ。

 使いを頼んだ時。クラトは背を屈ませ、アーテに隠れていた。直前の言葉だけをあえて見せつけ、仕掛けた先の口元を見られないようにすることが目的だった。

 目論見通りに 誤解した(騙された)ロノスが視線を外さぬ内に、クラトは彼へと詰め寄った。


 ——耳が聞こえていないのだろう?


 発声する必要はない。

 口さえ動いていれば、それだけで彼は言葉を読めるのだから。

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