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第24話 ミツルギ、説明する

 龍神の社より戻ったミツルギは、本殿で寝転がり、神器のことを考えていた。


 白花は、ミツルギの神器は剣だと言った。剣と言われると、どうも「武」の側面が感じられる。 


 ミツルギは何となく手を握って開いてを繰り返してみたが、自分がかつて剣を握っていたことがあるという感覚は全くなく、記憶としてもなかった。それとも、忘れてしまっているのか。


「クロ、そなたはどう思った。わしの神器が剣だと聞いて」


 すぐそばで正座するクロヘ尋ねてみると、クロは「よく分かりません」と答えた。


「ただ、主様の名前にも、剣が入っているなと」


 白花を真似たのか、ミツルギのことを「主上」ではなく、「主様」とクロは呼んだ。別にどちらでも良いのだが、クロはすぐに真似をしたがるようだ。それとも、新しい呼称を覚えたから使ってみたかったのだろうか。


 呼称については触れず、ミツルギはクロに指摘されたことについてのみ口にする。


「そうじゃな。わしの名にも剣という字が入っている。それが神器とどう関係するのかは分からぬが」


「本当に、何も覚えてないのですか。神器が剣だと聞いても、思い出しませんか」


「ああ、思い出せぬ」


 ミツルギは体を起こす。


「神器探しは困難を極めるのう」


「昔の主様のことを知っている者は、他にいないのですか」


 クロの問いに、ミツルギはうなった。


「おらんことはない」


「それはどなたですか」


「わしの元神使じゃ。名をトセという。わしの神使を辞した後、八幡神様のところへ行ったが、八幡神様のところはとんでもない大所帯じゃからな。トセがどこの八幡神に仕えておるのかは知らぬ。探そうと思えば、できなくはないと思うが」


 腕を組んで算段をあれこれ考えている途中、クロが立ち上がったので、ミツルギは思考を中断した。


「どうした」


「八幡神様のところへ行きたいです。どこに行けば会えますか」


「そなた、たまにびっくりするほど気が早いの」


 こちらから視線は見えないが、クロはミツルギを真っ直ぐに見据えている。


「これは、私がやらなければならないことです」


「なんじゃ、分かっておったのか」


 自分のことだというのにどこか他人事のようであったクロだったが、なんだかんだ自分の置かれている状況を理解していたようだ。


 ミツルギはそのことに安堵しつつも、クロがその未熟さ故に、常識はずれな言動を起こさないか少々心配になる。


「八幡神の神社であれば、この辺りにもある。しかし、そこの八幡神に聞いても分からぬだろう。じゃが、本宮ほんぐうまで渡りをつけてくれるか、聞いてみるのは良いと思う」


「ほんぐう?八幡神は、なぜ自分の神使のことが分からないのですか」


 クロに問われ、これは最初から説明せねばならないな、とミツルギは腹を括った。


「近くの八幡神は、勧請かんじょうされてここに来た八幡神じゃ。勧請というのは、神の分霊を祀ること。分霊の元となる神は、本宮におる」


「ぶんれいとはなんですか」


「それは説明するには、もっと前から説明する必要があるのう。まあ、座れ」


 ミツルギに言われ、クロはその場で正座する。


「そなたにはなかなか理解しづらいかもしれんが、神の魂、つまり神霊はいくつにも分けることができる。まあ言うてしまえば分裂じゃな。神は無限に分裂できると思えば良い。その分裂した神を分霊と呼ぶ。あの龍神も分霊じゃ」


 クロは「では」と息を呑んだ。


「主様も分裂できるのですか」


「もちろんじゃ。まあ、わしの場合、どこからも勧請の要請がないから、分裂したことはないが......」


 自分で言っていて悲しくなってきた。ミツルギは「とにかく」と言って話を戻す。


「一番近くの八幡神社におる八幡神は、分霊なのじゃ。全国にはそういう分霊を祀る神社が、八幡神社だけでも、何千箇所もある。その一つ一つにも神使がいるのじゃ。トセも、その何千社もある八幡神社のどこかで神使をしておるには違いない。少なくとも、近くの八幡神社にはおらんから、そこの八幡神に聞いても分かるまい。わかるとすれば、勧請元の八幡神じゃな」


 ミツルギは昔のことを思い出す。


「トセは、わしの神使であることを辞めたがっていた。しかし、神使が神使であることをやめたら、元の獣に戻ってしまう。そこについて悩んでいる様子であったから、八幡神様の神使になるよう手配した上で、わしが暇を出した」


「その八幡神は?」


「勧進元の八幡神じゃ。しかし、本宮の方は人手が十分足りていたようで、分社の配属になると言われた。どこの分社に配属するかはこちらで決める故、一旦引き取ると。それっきりじゃ」


 クロは膝を進めた。


「だから、近くの八幡神では分からないと言われたのですね」


「そうじゃ。そなた、まさか本宮まで押しかけるつもりか?」


「はい」


 ミツルギは「だめじゃ」と首を横に振る。


「日頃から付き合いのある龍神ならともかく、そういうのには神同士でもそれなりに礼儀や手順というものがある。神使のそなたが、自ら動くとなれば、もっと礼儀が要るぞ。まずは文を書いて......ああ、いや、やはり分社である近所の八幡神に聞いて、橋渡しをしてもらった方があるいは早いか」


 ぶつくさと考え込んでいるミツルギの隣で、クロはしばらくジッとしていたが、再び立ち上がる。そのまま扉を開けて外へ出て行ってしまった。


 あまりに唐突すぎる行動に、ミツルギは気がつくのが遅れた。「これ、最後までわしの話を聞かぬか!」とプンスカしながら慌てて後を追う。


 クロは、外に一歩出たところで立ち止まっていた。ぼんやりしているのかと思いきや、顔を上に向けて、そよぐ風の香りを嗅いでいるような仕草をする。風に吹かれて、顔を隠す札がひらひらとはためいた。


「主様」


 日暮の時間が近く、空は薄い紫に染まり始めている。


 クロは、空を見上げたまま言った。


「少し、出かけて来ます」

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