性格の悪い私達。私の悪女人生と妹の聖女人生
高レベルの聖女は国を救う。
高レベルの悪女は国を滅ぼす。
そんな言い伝えがあった。
国を救うから、救国の聖女と言うし
国を滅ぼしたり、傾けるから、亡国の悪女とか傾国の悪女とか言われてしまう。
傾国の聖女。
救国の悪女などと言うものは、聞いたこともないし、存在するはずない。
もしも………そんなのがいたら偽物だ。
そんなの夢物語
だから………
「………………困った事になったわ」
と妹は言う。
「本当にね」
と私も言う。
「私は国を救いたくない」
「私は国を滅ぼすとか、いやだ………」
妹と私は、同時に頭を抱えることになった。
何せ、人生初めて素質鑑定を受けた結果。
国から正式に。
妹は【聖女】に………
私は【悪女】に認定されてしまったのだから………
私達は田舎貴族の家に生まれて、平凡に生きてきた。
親は男爵。
貴族の中では下級に近いけれども、世襲貴族の端くれ。
親ガチャ成功の勝ち組だと思ってたのに………
なんて事だ。
やってしまった。
キッカケは私が15才、妹が13才になった時。
社交界デビューの為、首都へと初めての旅行をした。
首都
社交界デビュー。
所謂、貴族への私達の、お披露目。
貴族が集まるパーティーに顔を出して、顔を知ってもらうのが大きな目的の参加。
貴族って結局はコミュニティ。
社交界にデビューするとは、親戚づきあいに参加する事に似ている。
私達姉妹は、次のパーティから、貴族達との付き合いに本格的に参加しますヨ〜。
婚約者を探しますヨ〜
そんな意思表示をする為に社交界にデビューするんだ。
首都に近い場所にいる貴族は、小さな子供の頃に社交界デビューを済ますけど。
私達みたいな首都から家が遠い田舎の下級貴族は、年頃になるまで社交界デビューはしない。
社交にはお金もかかるし王都までは遠い。
………子供の頃から、そんな余裕は家には無かった。
しかし、年頃になると、そうも言ってられない。
年頃になった私と妹は、そろそろ婚約者か結婚相手を探さなければ………それが1番の理由で、自分を社交界へと売り込みに行くのだった。
社交界デビューの、その過程で、私達は産まれてきてはじめて、素質鑑定を受ける事になったんだ。
鑑定は遺伝子チェックの様なもの。
素晴らしい才能を持っている事がわかれば、結婚相手探しもスムーズに進む。
逆玉の輿さえも狙えるからだ。
平凡な家系からでも、鑑定で見出された素質だけで、王族入りした者も少数だけども存在している。
社交界デビュー前に、私達は生涯最初で最後の鑑定を受けた。
その………結果。
妹は本物の聖女。
私はモノホンの悪女だそうだ。
【な、ん、だ、と!】
どうしてこうなった?
私は頭を抱え込む。
私が聖女で妹が悪女なら、何も問題は無かった。
なのに………
よりにもよって、その逆。
自分が悪女認定されるのだけでも耐え難いのに………
妹が聖女???
ハァ?
意味が分からないんだけど。
姉よりも優れた妹など、存在するはずが無い。
なのに………
悔しくて歯ぎしりする。
私は性格が悪い。
妹の幸運を祝福出来ないくらいには、性格が悪い。
妹に嫉妬するくらい性格が悪い。
妹は私の妹だ。
当然の事だけれども。
性格の悪い私の妹は、私に似て性格が悪かったのに。
そんな妹が聖女?
はぁ???
………
アリエナイ。
ふつふつとドス黒い闘志が湧いてくる。
王都での社交会デビュー。
聖女認定された妹には、貴族達が群がった。
性格の悪い妹は、聖女認定された日から、着実に逆ハーを形成しつつある。
今日の社交会でも逆ハーメンバーを増やすことだろう。
私にも一人のイケメン様が近づいてきて、話がはずんだ………けど………
私に近づいてきた銀髪眼鏡のイケメン様は………
「好きな食べ物はなんですか?」
「私は果物が好きですの」
「いえ、貴方では無く、妹様の好物を聞きたいのです」
「ゔぇ」
しまった。
変な声を出してしまった。
銀髪眼鏡のイケメン様は、悪意無さそうに、にっこり笑って、私の心を折りに来る。
くそ、しまった。
このイケメン様、妹に群がるギャクハー様の一員様だったのか。
そもそも私の事なんか、気にもかけてね〜のである。
私の前に立って、私を見ているように見えても実は………
私を見てなどなく、私の先にいる妹を見てる。
私に興味ね〜のである。
妹を口説く為の材料集め。
料理人が料理を作る為に、野菜を売ってる八百屋の店員を扱うように………
このイケメン様は、私を八百屋のおばちゃん扱いしてるのである。
くそう。
悔しい。
こんなイケメン様が、私でなく、妹に弄ばれてるとか………
あり得ない。
間違ってる。
この世界は間違ってる。
狂ってる。
そう思ってしまった。
だから………
「私の妹は小さい頃から、鼻くそを食べるのが大好きですのよ。おほほ」
「え………」
にこやかに笑いながら、私がつい、本当の事。
妹の秘密。
妹の隠しておきたい恥部を暴露してしまうのも仕方ない。
仕方ない。
本当に仕方のない事なんだ。
すると………私の頭に………
『悪い事をして悪女経験値が一定に達しました。
悪女のレベルが上がりレベル2になります』
「え!!!」
私の頭に、どこからともなく声が撃ち込まれた。
そして………
『 魅力、体臭、性格の悪さ、がアップしました。
髪の毛が少し伸びました。
妹のギャクハーからイケメンが1減った。
ハゲのストーカーを獲得しました』
謎の声が聞こえてきた。
待って。
いや、ちょっと待って。
イロイロおかしい。
ツッコミどころが多すぎる。
なんだかレベルが上がった。
それは良い。
それはわかった。
でも………
なんだか、おかしなステータス上がってなかった?
てかステータス下がったんじゃあ?
そして悪女経験値?
聞き慣れない言葉。
私は今、何をした?
たしか妹は、良い事をしないとレベルアップ出来ないと言っていた。
聖女は良い事をするとレベルが上がる。
悪い事をするとレベルが下がる。
そう言っていた。
ま、まさか?
私は逆に、悪い事をしないとレベルアップしない?
良い事をするとレベルが下がる。
悪女って………そういうもの?
あ!
考え事をしていた間に、目の前にいたイケメン様がドン引きして去っていた。
頭に鳴り響いた声を信じるなら、あのイケメン様は、妹のハーレムからも抜けるのだろうか?
私のせいで???
「ゔぇ」
やってしまった?
私はイケメン様に興味を持たれないのが悔しくて、妹のイケメン様を1人排除してしまった?
ハ!
そういえば………
ハゲのストーカーを手に入れたとか………
視線を感じた。
とてもとても熱い視線を、背後から感じる。
もしかして、もしかしなくても、もしかして?
いる?
熱い何者かの視線にさらされて………
振り返ると奴がいた。
振り返ると、ハゲがいる。
若いハゲが、私の事をウルウルした熱視線で見つめている。
ごく普通の青年。
ただただハゲてることを除けば、普通に見える青年。
それが………
「運命の人、どうか私と婚約してくれませんか?」
私はハゲのストーカーから告白された。
ヤメロ。
初対面の相手に告白なんてするんじゃ無い。
「あわわわわわ」
初対面の若ハゲ君が、ロミオみたいに私に求婚してくる。
私はアワアワ動揺するしかない。
生まれてきて初めて受けた告白。
なんで?
どうして?
レベルアップした聖女の妹には、イケメン様が言い寄ってたのに。
悪女のレベルアップした私には、若ハゲロミオ君が………
神は死んだ。
てか、髪が死んだ。
ここに、このように、愛の不公平が………
不公平。
不公平だ。
と、言うか酷くない?
妹に比べて私、不幸すぎない?
だから………
私は妹に八つ当たりしちゃった。
悪い事しちゃった。
イロイロやって、妹の逆ハーメンバーを、どんどん減らしてやった。
私は妹に嫌がらせできるが………
妹は私に仕返ししたくても、なかなか出来ない。
聖女である妹は、悪さをするとレベルが下がるから。
私は逆に妹に対して良い事がやりにくい。
私は悪さをするとレベルが上がり、良い事をするとレベルが下がるから………
結果
どんどん妹は善行を重ねて、レベルアップ。
と共に外面は良くなり、評判も良くなる。
どんどん私は悪行を重ねて、レベルアップの結果性格と評判は悪くなる。
かろうじて悪女でも、レベルアップすると魅力が上がるのが救いだった。
だから………レベルアップするとモテる。
二人共モテる。
レベルアップボーナスで、逆ハーメンバーもストーカーも、やってくる。
妹にせめて魅力で負けたくない。
その一心でレベルアップに励んだ。
妹も似たようなものだろう。
………ただ
聖女の妹には、聖騎士みたいな正統派のイケメン様が群がってる。
その一方、私には………
コートを羽織って下半身丸だし、てか裸。
もしくは………どっか頭か性癖歪んだイケメン様が………
性癖狂った、性騎士みたいな男が群がってくる。
………たまにマトモな子が、よって来たと思ったら、男装の麗人、レズっ娘だった………。
私はその娘を、初めて私の悪女レベルアップ報酬に現れた、まともなイケメン様だと信じて喜び………真実を知って絶望した。
危うく同性愛者落ちするところだった。
悪女レベルが上がれば上がるほど、私に群がる人のルックスと、変態度が上がる気がする。
そんな相手に………
次々告白される。
デートに行けば、なんと言うか………
頭が………どうにかなりそうだ。
そんな所に案内されました。
そんなに告白され続ければ慣れるだろうって?
それは違う。
悪女レベルが上がれば上がるほど、おかしな相手が寄ってくる。
私に言い寄ってくる変態も徐々にレベルアップ。
悪女レベルが上がれば上がるほど、その度に図抜けた変態が告白してくるのだ。
そしてその変態達が、マトモな人を私のまわりから排除する。
………告白してくる変態達のルックスも、どんどん上がってる気もするが………
もはやルックスが良いからと、見過ごせる欠点持ちのレベルでも無い。
私の周りは真正のイケメン変態揃いになってしまった。
思えば、悪女レベルが低レベルの頃は良かった。
ルックスは悪くても、概ね普通の人が寄ってきてた。
今はもう………
性格の悪いイケメンや、性癖の狂ったイケメンが、レベルが上がるたびにやってくる。
次こそは、次のレベルアップした際には、マトモなイケメン様がやってきてくれるのでは無いか?
そう思っていた時期が私にもありました。
いちるの希望にすがりつき、コツコツと努力、汗水流して真面目に悪事を働く。
頑張った。
私、悪い事をせっせと頑張った。
一生懸命頑張った。
悪女レベルを上げる。
次のレベルアップボーナス。
次の………チャンスをうかがう。
次こそは、真っ当なイケメン様が手に入るのではないか?
と………
淡い期待。
というか切実な願い事。
でも、やってきてくれるのは、ストーカーか、その眷属の性騎士達。
それどころか、レベルが上がり続ける程、やってくるストーカーの変態レベルも………。
今や………
「一緒に心中したい」
「貴方よりも貴方の着衣に興味があるので服を買い取りたい」
などと、のたまうレベルの奇人、変人、悪人が、ワラワラやってくる始末。
私の中で善人の価値が急上昇する。
何故なら………
周囲の人間が悪人で溢れると、善人の価値は上がり、悪人の価値は下がるから。
悪人だらけの中では、悪人は、なかなか悪事で得する事が出来ない。
むしろ悪人だらけの中では、善人は貴重な存在で、善人が得をする。
悪人は善人を傷つけるが殺さない。
しかし悪人同士は、お互いに潰し合い、時に殺し合う。
結果、なんだかんだ善人は得をする。
悪人は減り善人が増える。
逆に善人が増えすぎた世界では、悪人は悪事をやり放題。
悪人は得をするから増える。
善人は馬鹿らしくなって悪事に走り、善人は減る。
つまりは、人間は普通、自分の得になる行動をとる。
私はもう、悪行をおこなってレベルアップしても、特に得だと感じられなくなってしまった。
レベルアップの速度は下がる。
それでも、挙げ句のはてに………
『悪女レベルが上がりました。
レベル60、世界の半分を手に入れる可能性をゲットしました。』
驚愕した。
な、何?
世界の半分?
驚いていると………
「お迎えに参りました。魔王様が貴方をお呼びしています」
「え?………」
「魔王様が、世界を滅ぼす為に、貴方様を必要としています」
黒い翼と角と尻尾の生えた格好いい悪魔が、私の前にやってきた。
………私の頭は真っ白だ。
魔王ってなんだろ?
世界の半分ってそういう事?
そう言えば聖女の妹は、魔王退治がどうとか言ってた気が………
ゾットする。
私は性格が悪いかもしれないが、世界が欲しいわけでも、世界を滅ぼしたいわけでもない。
だから………
その日から善行に励み。
どんどん私の悪女レベルを下げることにした。
レベルダウンした私を前に、魔王の配下悪魔は………
「貴方には失望しました。貴方は魔王様に会う資格を失いました」
など………言われた。
正直ホッとした。
そのまま善行を行い悪女レベルを低レベルまで下げた。
それによって逆ハーメンバーも、どんどんと減っていく。
そのまま低悪女レベルをキープする為に、バランスをとるために、善行悪行をたまに行う。
………私はごくごく平凡で善良なハゲと結婚して、低レベル悪女として普通の生活をおくっている。
不満は無い。
見逃せない問題を抱えたイケメン達に囲まれていた私は、ハゲてても、平凡で優しい夫に満足している。
ハゲの軽いストーカー行為も、好意の裏返しだと思えば可愛いモノだ。
そう思える程に、周囲に歪んだイケメン変態達が多くいたから………
妹はレベルアップを続け、聖女として、魔王討伐へおもむくらしい。
常にイケメン様に囲まれているが、私はもう羨ましいとも思わない。
性格の悪い妹が、本性を隠し必死に善行を重ね。
窮屈に積み上げたものを崩さないよう、窮屈な日々を送ってる事を知ってるから。
私は二人の子宝に恵まれて、満足してるから………
平凡は悪く無い。
無理する非凡よりもきっと。
少なくとも悪女よりは良いよ。
ただ心配事が2つ。
聖女の甥っ子である、私の子供たちは、産まれてすぐに鑑定を受けさせられた。
子供達の鑑定結果は………
兄は乱世の奸雄。
妹は傾国の美女だそうだ。
心配事が増えた。
どうしよう?
私は子供たちに、私と同じく平凡に生きる様に教育するべきだろうか?
そうは思わない。
なぜなら
私と子供達では、生きる時代も状況も異なる。
私の経験は逆に、子供達の足枷になりかねない。
生き方を強制すると、命とりになりかねない。
私は毒親になりたく無い。
成人した子供達が、好きに決めれば良いと思うんだ。
私のもう一つの心配事は………
私の子供、天使達。
天使の一人、【乱世の奸雄】君がが………
「僕は大きくなったら、聖女様と結婚する」
と、言い出した事だ。
普通なら笑って済ませれるけど駄目よ。
聖女は私の妹。
【乱世の奸雄】は私の子供。
それは大犯罪。
どうやら、私の子供はレベルアップを続ける、妹の逆ハーに加わってしまったらしい。
私は久しぶりに、妹の逆ハーメンバーを減らす為の悪事を行い。
私の子供、天使を、妹の逆ハーの魔の手から取り戻した。
今では、子供は大きくなったらママと結婚すると言ってくれる。
結果………
久しぶりに悪女レベルが結構上がった。
子供のためと理論武装したとはいえ、久しぶりに、行った大きめの悪事!
妹のモテモテの聖女の足を引っ張る行為。
それは………
正直、少しだけ、悪事が楽しかったのは、私だけの秘密である。