7.初仕事(2)
さらにしばらく経ってから、ずいぶんと久しぶりに、メッセージが届いたと携帯電話の画面で通知された。どうせゲームの広告か何かだろうと思いながら開こうとした瞬間、あの、僕にどんな言葉というか目が向けられているのかをはっきりと意識し、ぞっとさせられた感じが、まざまざと思い出された。そのときには衝撃的すぎて気づいていなかった、胸の奥が締め付けられるような感じも。それでも、恐る恐るではあっても、僕は画面に指を当て、そのメッセージを表示させていた。自分が今どういう状況にあるのかを、確かめたかったからだと思う。
その結果は予想外であり、予想以上だった。口調だけは控えめなそのメッセージは、僕の住んでいる地域を、かなり詳しく言い当てていたのだから。後から知ったことからすると、この時点ではまだ鎌をかけていただけだったらしいけれど、僕はそんな可能性には全く思い至らなかった。
自分について、一方的にかなりのことを知っている(ように見える)相手からの連絡を受けているという事実が、ただ恐ろしかった。だから僕はそれを無視して捨て置くことができず、その内容を否定しながら、もうこんな連絡をしないでくれと返事を出した。
そしてどうなったかと言うと、当然なことに、相手はまたメッセージを送ってきた。怯えきったこちらの心境を馬鹿にしているのかと思えるほど穏やかで丁寧な文面で、僕の外見的魅力を褒めそやしつつ(後ろ姿しか見ていないくせに)、自分のことについて小出しに情報を見せ(性別など。年齢はこの時点ではまだ知らせてこなかった)、「また見たい」「できれば会いたい」「売りの経験は?」などと言ってきた(最後の言葉は意味が分からなかった)。最後には、具体的な『お礼』の用意についても忘れずに。
この段階にまで来ても、無視してしまうことはできたと思う。しかしそんな合理的な判断も、まだ遙か先の後知恵としてしか存在しなかった。
僕がメッセージのやりとりを続けてしまったのは、ことをうまく収める方法を期待したからでもあるだろうけれど、示された『お礼』の額に目がくらんだという面も、ないわけではなかったかもしれない。
そうやって、僕は餌に食いついた魚のように連絡を取り続け、そしてあの日には実際に会って、初めての『仕事』を果たし終えたわけだ。釣り上げられた僕は、幸い、さばかれて食い尽くされたりはせずに済み、せいぜい嫌な思い出が残っただけで、また元の生活に帰ることができた。もっとも、そんな経験の後では、自分のいた世界、その周りが、全く違うように見え始めていたけれど。