6.初仕事(1)
僕とこうして会おうとする人、つまり『お客さん』がいるのは、僕の外見が多少なりとも魅力的だからなのだろうかと思う。自信は無いけれど。しかしもし本当にそうだったとしても、今こうして駅の地下の居酒屋で向かい合って席に着いている彼女は、僕について全くそうは感じていないか、全く違う捉え方をしているのだろうなと思った。
相変わらず彼女はあまり顔を上げない。例えばサラダをいそいそと取り分けるのを、その口実として利用しているような様子だった。
確かに、容姿端麗だから特に僕が選ばれているというわけではないのは分かっている。要するに、そもそも僕くらいの年頃でこんな『仕事』に手を出しているというだけで、貴重な存在なのだろう。そうだと信じなければならない気がする。むしろ信じられなかったのは、そんな存在を求める人がいるということの方だった。だから、悪ふざけ一つがきっかけでここまで至るというのを僕が見通せていなかったとしても、無理はないと思う。
去年の夏休みのある日、僕と同じく旅行に行けなかった友達と一緒に、電車で一時間ほどかけて田舎町に出かけ、レンタサイクルを借りて走り回った。そして山の中まで足を伸ばして川でふざけあっていたら、一日でとんでもなく日焼けをした。しかもそんな過ごし方をしていたものだから、首から上や手足は真っ黒になり、Tシャツの下の部分はもう少し薄く褐色に、腰回りから足の付け根までは全く焼けていないという、三段階のグラデーションになってしまった。
同じ形の日焼けをした者同士で笑っていたら、下着だけを履いてそれをいくらかずり下げた後ろ姿の写真を撮られた。携帯電話の画面の中では肌色の塗り分けがさらにくっきりしたように見え、二人でまた大笑いした。そしてこうすればおあいこだからと、相手の同じような写真を僕も撮らされ、さらに、互いに自分の写真をSNSに投稿することになった。
そういうネタをいつも探していた彼とは違って、僕はアカウントを持ってはいてもほとんど手をつけていなかった。だから、どうせこれまでの僕の投稿のように、誰も見ないだろうと思って、僕も合わせた。実を言えば、何かまずいことになるような予感がしなかったわけではないけれど。
そしてしばらく経ったころ、携帯電話に初めて目にする通知が出て、見てみると、投稿したのも忘れていたあの写真の記事に、何か恐ろしいほどの数の、コメントやら反応が記録されていた。驚きながらも、いくらか気分を良くしながら反応の中身を確認すると、僕の予想とは全く違うことばかり書かれていた。つまり、面白いだとか笑える、とかいった反応ではなく、こんな代物だった。
「背筋エロい」「日焼け跡見せつけるなんてえっちだね」「右手もう少し下! お尻の割れ目!」「健康的DKにはやっぱり日焼けが似合う! 日焼け男子最高!」
なんだこれはと僕は思い、すさまじくぞっとした末に、慌てて写真を消した。そして何かあっても通知されないように設定して、放っておいた。
映画か何かで見たような、ふとしたきっかけで得体の知れない集団にまとわりつかれて吊し上げられるようなことが起きてしまうのかと、本気で心配した。幸い、それは杞憂で済んでいる。
やがて何事もなく日々が過ぎていき、安心し始めると、そんな恐怖感も、どこか懐かしいというか、やれやれひどい目に遭った、というように気楽に眺められるくらいに薄まっていった。お化け屋敷で大泣きするほど怖がったことを、笑える思い出話にできるように。そして同時に、あんなものを見てあんなふうに感じ、その感想をあんな形で伝えたりしようとする人がいるのかと、あきれながら感心した。ついでに、自分がそんな対象になり得るのだと、初めて認識してもいた。
僕に対して直接メッセージも送られて来ていたけど、読まずに全て消した。三週間も経つ頃にはそれも途切れ、同時にあの写真を投稿し、ほとんど同じ経験をしていた友達と、笑い話にできるようになった。しかし残念ながらというか、僕の方にはこの続きがあったわけだ。