5.最初の相手と今日の相手(2)
僕が一回きりで『足を洗おう』と考えたのは、倫理とか規則の問題以上に、その経験のせいだったのだろう。しかし結局のところ、僕は自分の得た利益に目がくらんでいたらしい。父が不在の日曜日に妹と出かけて、服やら何やらを買ってやったら喜ばれたという口実まで得たせいか、ずっと手をつけていなかった、最初の相手というかお客との連絡に使ったSNSのアカウントで、次の相手を探した。正確には探す必要もなく、すでにそういうことを求める新たな連絡が入っていたので、それに返事を出したのだけれど。
その二人目の相手は、またしても失礼極まりないけれど、最初のお客の女性よりもいくらか年齢が若く、ずっとすらりとした体つきだった。待ち合わせている間身構えすぎて、逃げ出す寸前だったのが何だったのかと思うくらいに、僕は安心していた。そして高級なところでの食事まで付き、いくらかの余裕を持って僕自身も十分に楽しめた上にお金という利益を得たという成功体験(字が違う気もする)の結果、こうして今日までこの『アルバイト』を続けているわけだ。その間に、例えば『四時間、二万円、三回まで』という定番のセットメニューも固まっていた(破格だと驚かれたことがあるけれど、相場は知らない)。
だから、今日もそんないつも通りの『仕事』になると思っていた。
――四、二、三でいいんですよね。
――あー……はい。
――食事と、部屋代もお願いしますよ。
――えーっと……そうですよね。
駅の地下街に向かって雑踏の中を歩きながら、今日の相手の彼女は、僕が何を言ってもほとんどこちらを向こうともせず、こんなふうに、たいした言葉もなかった。僕の物言いが直接的すぎてぶしつけだからではないというのは、経験上知っている。僕にはその理由は分かっていたし、実のところ僕の心境もほとんど同じだったと思う。しかし多くの――今回とはだいぶ事情が違っているけれど――場数を踏んでいたせいか、僕の方は言葉がすらすらと出た。内心では、最初にこの『仕事』をしたとき以上に、そして違う形で、緊張し、動揺していたとしても。