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旅立ちと落とし穴

初投稿です、よろしくお願いします。


「……よし、と」


 畑の手入れを終え、立ち上がる。


 ずっと座っていたせいで、筋肉が凝り固まっているのを感じた。


 体を伸ばし、腰をひねりながら、今しがた自分が手入れをした畑を見る。


 今は何も実ってはいない。


 けれど、この畑にはいずれ黄金色の穀物が実る。


 やがて一面に実る黄金色を想像しながら、後片付け。


 抜いた雑草や刈った雑草を一箇所に纏めておき、家の中に入る。


 炊事場で水仕事をしていた母さんが、布で手を拭きながら出迎えてくれた。


「ありがとうね、手伝ってくれて」


「いいんだよ母さん」


 家の扉が開くと、父さんが帰ってきた。


「もう行くのか」


「うん、そろそろね」


「気をつけろよ」


 言葉は少ない。


 だけど、身を案じてくれているのは感じれる。


「うん。じゃあ、行って来ます」


 両親に軽くハグをした後、入口近くに置いておいた荷物を肩に提げる。


 家を出て、村の入口へと歩を進める。


 小さな村だ。


 村の人間全員が顔見知りと言っていい。


 わざわざ家から出てきてくれたり、農作業の手を止めてくれたり。


 村中の人間に見送られていく。


 一人ひとりにしっかりと挨拶を返し、やがて村の出口へ。


 振り返ると、何人か出口まで見送ってくれていた。


 少し遠くには、両親もいた。


 深々と頭を下げる。


「行って来ます」


 全員、声を揃えて返してくれた。


「行ってらっしゃい」


 涙が出そうになる。


 堪えて、頭を上げて笑顔で手を振った。


 そして、踵を返し歩を進めようとしたところに。


「…………けてー」


 聞き慣れない声がして、歩みが止まった。


「…………れかー。……けてー」


「……何か聞こえない?」


 村の人全員がキョロキョロ周りを見渡して声の出処を探している。


 こっちから聞こえる気がする。


 入り口すぐ側の畑を指差し、ぐるっと迂回していく。


「だれかー」


 女性の声だ。


 歩を早める。


 でも確か、この辺には……。


 目的地にたどり着くと、やっぱり。


 害獣対策用の大きな落とし穴。


 穴を覗き込むと、人が……二人?


「すみません、助けてくださーい」


 両手で手を振り、存在をアピールしてくる。


 ……畑泥棒?


 でも収穫期まではまだ当分先だ。


 とりあえず、助けよう。


 穴の側で寝そべり、手を伸ばすが届かない。


「誰か、ロープありませんか?」


「待ってろ!」


 持ってきてくれたロープを近くに樹に括り、力いっぱい引っ張る。


 解けないのを確認して、穴へと垂らす。


「上がってきてください!」


 少し待つと、一人目が登ってくる。


 手を差し伸ばすと、掴んで上がってきた。


「ありがとうございます」


 肩ほどまで伸びた茶色の髪の女性。


 砂で少し汚れてはいるが、俺と年齢は変わらないと思われる面立ちだ。


 もう一人も素早く登ってきた。


 手を差し伸べる暇もなく、軽々と穴から出てくる。


「ありがとう、マジで助かったよ」


 同じく茶色の、短い髪。


 こちらは男性だった。


 先程の少女と同じく、年齢は変わらないと思う。


「しかし、どうしてこんな所の罠に?」


 ごく当然な質問を投げかける。


 すると、女性の方が男性を指差し、非難めいた視線を送る。


「こいつが、お腹が減ったって獣道をどんどん進んでいったんです」


 その先はよくある話だった。


 進んだはいいが、戻る道がわからず。


 闇雲に進んだ結果、迷って。


 ようやく人里が見えたと喜んで進んだ結果、落とし穴に気付かず落ちたようだ。


「……悪かったよ」


 渋々、といった感じではあるものの。


 男性は女性に向かって頭を下げた。


「すみませんが……食料を少し分けてもらうことって出来ませんか?」


 そして、ここは小さな村。


 普段人をもてなすことが無い為、ここぞとばかりに食料を分け与えたがった。


 気付けば二人の両手には、抱えきれないほどの食料を持たされていた。


「……これはちょっと、多いかなー……って」


「でも、凄く美味いです、ありがとうございます」


「ちょっと、もう食べてんの?」


「腹が減ったんだって……」


 二人のやりとりに、村の人達が笑う。


 和やかな雰囲気。


 村を出ようとしていた事を忘れてしまっていた。


「あ、じゃあ俺は……これで……行って来ます」


 村の人達はもう俺を見ていなかった。


 二人をもてなす事しか頭に無いようだ。


「…………」


 物悲しい気分になりながらも、唯一俺を見てくれている両親を見つけた。


 二人とも頷く。


 俺も頷いて、村を出た。


 つい先程までの感動的な出立の空気は――既に無かった。






「……おーい」


 村を出て幾らか歩いた頃。


 先程の二人が追いかけてきた。


「どうかしたんですか?」


「いや、村の人達に聞いたんだけどさ……騎士になるんだって?」


「ええ、まあ」


 王都で行われる騎士団の入団試験。


 入団試験に受かることが出来れば、王国の騎士になれるのだ。


 そして俺は、騎士になるために王都へ向かうところだった。


「実はさ、俺達もなんだよ」


「え? そうなの?」


「そうなんだけど、このバカが迷ったせいでね」


 男性の脇腹に肘鉄をしていた。


 男性はバツの悪そうな顔をしながら。


「悪かったって」


 と謝る。


 そして女性は俺の方に向き直る。


「私達も王都を目指しててね、よかったら一緒に行かない?」


「良いですよ。行きましょう」


「ありがとう。あ、名乗ってなかったよね。私はエルーシャ……エルって呼んで」


「俺はガイアール。ガイでいいぜ」


「俺はアルク。よろしく二人とも」


 二人と握手する。


 そして、並んで歩き始める。


――俺には、目的がある。


 かつてこの村を救ってくれた騎士への、恩返し。


 騎士になるための道は孤独なものかと思っていたけれど。


 二人のおかげで、楽しい道中になりそうな予感がした。

読んでくださってありがとうございました。

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