優しい当主
あらあら、まあ。
いらっしゃい、私がこの度ハンク家の惨劇を語ります、ハンク家元メイド・榧木琴子と申します。
ええ、そうです。
そこの榧木由比の養母です。
え?血狂いのオリヴィエの画集を描いた画家に会いに来たと……?
ふふっ、それを自費出版したのが私なのです。さあさあ、こちらへどうぞ……。
私が世に出したのは10冊。
まさか、ユイのお友達が手に入れるとは思わなかったわ。
……それに惹かれて私に会いに来ることも。
だってね、これは私の懺悔でもあるんですもの。
それ故に絵のどれもが私が見た光景。
英雄譚を好む大衆が拒否感を抱く、残酷な事実を父と描いたのだから。
ええ。
この絵は私の父と共同で作ったのです。…私には人を魅了する絵心がありませんもの。
そして父はその絵たちを描き上げた後に自殺しました。父も血狂いに殺されたのです。
ーー私が殺したようなものでしょう? だから私は父の遺作となった『血狂いのオリヴィエ』の絵を世に出して、少しでも償おうと思ったのです。
いえ、いいんですよ。
あなたがお読みになった通り、あれらは創作などではありませんから。
父があの絵を描いた理由は私のためだったと思います。
ーーさあ、どこから話しましょうか?
私が初めて人を殺した日のことを話せば良いのかしら。それとも、父の死について話すべきなのかしら。
若い子には大きめの事件が好ましいでしょうか。
血狂いのオリヴィエの惨劇。
わたくしがお傍で仕えた原罪のシルヴィアの英雄譚。
私自身が体験した災厄の魔女とのグリンホルンでの激闘。
ベリオドールで別の災厄の魔女との戦い。
色々ございますよ?
どれにいたしますか? ええ、では、血狂いのオリヴィエについてお話ししましょう。
しかしながら、わたくしめも年端もいかない少女でした。
記憶も朧気ですが、本当にそれでよろしいのですか?
分かりました。
では、お聞きくださいませ。
ーーこれはわたくしが体験した、血塗れの淑女の話でございます。