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7.祖母マリー

 ミスティアは王宮の舞踏会に行くと一度は決めたが、夜になると不安が募ってきた。

「私はまちがった選択をしようとしているのかしら……?」

 一人で考えていても、答えは出なかった。

「そうだ! 離れに住んでいるおばあ様に……相談してみましょう」

 ミスティアは夜が明けると、離れの塔に住んでいる祖母のマリーを尋ねた。


「おばあ様、すこしよろしいでしょうか?」

「その声はミスティアかい? 何の用かい?」

「すこし……相談したいことが……」

 重いドアが開いた。

「お入り」

「失礼いたします」


 マリーの部屋は、四方が棚になっていて、その中には所狭しと人形が飾られていた。

「おばあさまの作るお人形は……やっぱりすばらしいですね」

「そういうミスティアも、最近特に人形作りの腕を上げていると聞いているよ。ところで、相談とは何だい? 人形作りで悩み事かい?」

 ミスティアは緊張した面持ちで、マリーを見つめた。

「……おばあ様、だれかの人形を作りたくなったことは……ありますか?」

「なんだい? 急に?」

「あの、ちょっと聞いてみたくて……」


 マリーは棚の隙間から見える窓から、外の様子を伺い、すこし考えた後ぽつりと言った。

「……まあ、ないわけではない……」

「それは、どんな時ですか?」

 ミスティアの問いかけに、マリーは苦笑してから答えた。

「……なくなったおじい様だよ。あんなに美しい人はいないと思った。今思えば、愚かな恋だったとわかるけれどね。……あの人は私を残して逝ってしまった……」

 ミスティアはそれを聞いて、顔を赤くした。


「お前も……だれかの人形を作りたくなったのかい?」

「……はい」

「アレス王子の人形を作ったと噂で聞いたけれど……それは本当なのかい?」

 ミスティアは何も言わず、小さく頷いた。

「……ばかな恋はおやめ。王子に相手にされるなんて……夢みたいなことを考えないほうが良い。人は人形とはちがう。裏切るし、心変わりもする。そもそも、アレス王子がおまえのことを覚えているかも分からないだろう?」


 ミスティアはうなだれて、何も言わなかった。マリーは優しい声でミスティアに言った。

「人形はうらぎらない。夢を見るなら、人形と夢を見なさい」

「はい……おばあ様。……失礼しました」

 ミスティアは一人、自分の部屋に戻っていった。


 部屋に帰る途中で、リリアに会った。

「お姉さま、どうしたんですか? そんな暗い顔をして」

「リリア……私、やはり王宮の舞踏会に行くのは……やめます」

 リリアは驚いた表情で言った。

「どうしたのですか!? 急にそんなことを言うなんて……?」

 ミスティアは気まずそうにぼそりと言った。

「……マリーおばあ様に……相談したんです……」

「まあ! マリーおばあ様の言うとおりにしていたら、一人ぼっちになってしまいますわ、お姉さま」


 リリアは言葉を続けた。

「それに、王宮にはもうミスティアお姉さまも舞踏会に参加するというお返事をだしています。一度行くと言ったのに、やはり行かないというわけには行きません。さあ、お姉さま、私と一緒に舞踏会用のドレスを選びましょう!」

 リリアは笑顔で、ミスティアを衣裳部屋に引っ張っていった。

「……」

 ミスティアは浮かない表情のまま、リリアに従った。


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