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4.療養

「それでは、お体をお拭きいたしますね」

「ありがとう」

 ムーア家のメイドが、アレス王子の服を脱がせ、その体を濡れたタオルで拭いた。

アレス王子が助けられてから三日が過ぎていた。

 メイドはアレス王子の体を清め、新しい服に着替えさせると、アレス王子に挨拶をして部屋を出て行った。


「ああ、さっぱりしたな」

 アレス王子は窓から外を見て、ふう、と息をついた。

 また、ドアがノックされた。

「はい、どうぞ」

 アレス王子が答えるとノーム子爵が部屋に入ってきた。


「アレス王子、王に手紙を書きました。ここで療養していただいていることを伝えましたので、じきにお迎えが来ると思います。それまで、粗末ではありますが我が屋敷でゆっくりとお過ごしください」

 そう言うノーム子爵に、アレス王子は困ったような笑みを浮かべて返答した。

「粗末だ、などとは思っておりません……。ありがとうございます。お言葉に甘えて、体を休めさせていただきます。父への連絡、ありがとうございます」

 ノーム子爵は恐縮した。

「感謝の言葉など恐れ多いことです。何かありましたら、すぐにお呼びください」

「わかりました」


ノーム子爵はお辞儀をし、部屋をでようとしたとき、アレス王子は一言尋ねた。

「あの、ミスティア様は今、なにをされていますか?」

 ノーム子爵は少し困ったような笑顔を浮かべて言った。

「あの子は……ミスティアは人形作りに夢中です。何か、失礼なことをいたしましたか?」

「いえ、そういうわけではありません。……そうですか、人形作りですか……。一度見てみたいものです」

 

 アレス王子は深く考えずに、思いついた言葉をぽろりとこぼした。

「では、アレス王子の前で人形を作るよう申し付けましょう」

「……! それは興味深いですが……ミスティア様のご迷惑になりませんか?」

 アレス王子は、ミスティアが極度の人見知りであるということを思い出した。

「迷惑だなんて……アレス王子のご要望であれば、すぐに連れてまいります」

「あ……」

 アレス王子は何か言おうとしたが、言葉が出なかった。


 しばらくして、ミスティアが作りかけの人形をもってアレス王子の部屋にやってきた。

「失礼いたします。父の言いつけで参りました」

「やあ、ミスティア様。お元気でしたか」

「……はい」

 ミスティアに笑顔はなかった。

「人形作りの邪魔をしてしまい、申し訳ありません」

 アレス王子が後悔している様子で詫びると、ミスティアはアレス王子の足元に目をやり、口を動かしたあとに小さな声を出した。


「……全くです」

 ミスティアは怒っているような戸惑っているような、もしくはその両方といった様子だった。ミスティアが部屋に入る。ミスティアは作りかけの人形を抱えたまま、アレス王子から距離をとり部屋の隅に椅子を移動して、そこに座った。

「でも、人形作りに興味を持っていただけたのは……意外です」

 ミスティアの口元がわずかに緩んだ気がした。

 アレス王子は距離を保ったまま、人形の顔に髪を縫い付けるミスティアをじっと見ていた。小さな手が器用にうごき、人形の髪がすこしずつ増えていく。その手の動きは流れるようで、美しくもあるとアレス王子は感心していた。


「あの、面白いですか? そんなに見つめられても……困ります」

「……失礼。あまりに無駄のない動きなのでみとれてしまいました」

 ミスティアは人形作りに集中していた。

 アレス王子は魔法のようにできあがっていく人形と、ミスティアのことを交互に見つめ、微笑んでいた。

「……そろそろ、部屋に戻ってもよろしいでしょうか?」

 ミスティアの言葉を聞いて、ふと窓に目をやると、外はもう夕暮れの赤色に染まっていた。

「ああ、ありがとうございました。とても良いものが見られてよかったです」


 アレス王子がミスティアに言うと、ミスティアはきょとんとしてから、言葉を漏らした。

「……もの変わりな方……」

 アレス王子は苦笑した。

「ミスティア様に言われるとは思いませんでした」

「あ、あの、失礼なことを……申し上げてしまい……」

「いえ、とても楽しい時間でしたよ」

 アレス王子はミスティアに微笑みかけた。


 ミスティアは顔を赤く染めて、立ち上がって言った。

「これで……失礼します」

「ありがとう、ミスティア様」

 ミスティアは焦りながら椅子をもとの位置に戻すと、部屋を出て行った。

「……魔法のようだったな」

 アレス王子は愛しそうに人形を作るミスティアのことを思い出して、にっこりと笑った。



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