逃げられない選択
「ま、眩しい!」
「リサ!」
「少し我慢してくれ。もう少しで終わる。」
手をかざしてしまっているため、光を遮るものがなく顔に光を直接浴びてしまう。
アシルが心配してくれたけど、すぐに光は収まり水晶に文字が現れた。
火:25
水:25
木:25
風:25
光:25
闇:-
変換:50
治癒:50
「こ、これは…!」
ライリー様が口を手で覆い驚いている。
驚くのも無理はない。ほぼ全部の属性を持っているのだから。
平民がひとつの属性を持っているだけで神に祝福されている、と言われるのにほぼ全部では神の祝福どころの騒ぎではない。
世の中のヒロインは自分の能力を受け入れているようだけど、基本的にはイレギュラーなことを自覚してほしい。
「どういうことなんですか?」
理解が出来ないアシルが聞く。
「これはすごい。ここまでの能力を持った人間はこの俺でも初めて見た。うちからもこんな魔力量を持った人間は出たことがない。」
一応ヒロインが1人でダンジョンに行くイベントもあったので、しょうがなしにつけられたステータスなんです。ゲーム会社からの祝福とは恐ろしい。
「そんなすごいんですか?」
「すごいなんてもんじゃない。リサ。君は今後は魔法省が君を管理する。そのために魔法学校に来てもらう。」
終わった。断れないやつだ。
さよなら私のスローライフ。
おいでませドロドロ恋愛劇。
「申し訳ありません。リサはうちの管理している人間の1人です。易々と魔法省にはやれません。」
アシルが少し強めに意見した。
村に残りたいと言った私の意見を尊重してくれているのかもしれない。それとも稼ぎ頭になる可能性があるからなのかしら。どちらにしても嬉しい。
「それは無理な願いだ。ここまで魔力を持っている人間を野放しに出来ない。」
人間兵器みたいに言わないで。
確かに攻撃魔法も十分に使えるだけあるポテンシャルを持っているし、そういった人間が敵国に行くとなると国の危機でもある。
「けれど彼女は平民です。貴族ばかりの学園では合わないのではないでしょうか。マナーも知りませんし。」
アシル、それは事実だけど酷い言い方。もう少し言い方があったのでは?
「それもそうだが、このまま野放しには出来ないんだ。」
ライリー様は少し考えると目線をこっちに向けてきた。
「ちなみにリサは何歳なんだ?」
「じゅ、14歳です。」
「俺と同じ歳か。」
忘れていたけどライリー様も14歳よね。この国の年齢感バグってる。攻略対象とはいえ14歳にさせるお使いではないと思う。
「丁度俺と入学が被る。それに入学まで1年位ある。両親は?」
「両親はもう亡くなっています。」
「そうだったか。すまない。」
ライリー様は少し悩んだ後に
「ではうちの分家が君を請け負おう。そして1年でマナーなど基礎知識をつけてもらい、入学してもらう。その間衣食住は当然面倒を見る。自由になる金もある程度やろう。それなら問題ないだろう。決まりだ。」
確実に終わった。提案と見せかけた命令だ。
アシルも『決まり』という言葉を聞いてしまい口出し出来ず、下唇を噛んだ。
「そうと決まったら急ごう。明日また迎えに行くので荷物をまとめておいて欲しい。よろしく頼む。」
「…わかりました。」
結局貴族の提案という名の命令には逆らえず、私たちは合意をした後に帰ることしかできなかった。
帰り道の馬車の中、行きと同じようにアシルが不機嫌そうに外を見ている。
「お前はこれでいいのかよ」
「よくはないけど無理でしょ…」
「そうだけど…」
重い空気が立ち込める。
「なあ、一緒に逃げてやろうか?」
「え?」
「嫌なんだろ?どこか一緒に逃げてやってもいいぜ?」
アシルの提案に驚いたけど嬉しかった。
しかしアシルは村の重要な商人の子。私のわがままで未来を閉ざしてはいけない。
「ありがとう、でも大丈夫。いつか帰って来れると思うし。」
「そうか…」
アシルは少し悲しそうな表情をした。
「俺が出店なんて頼まなければこんなことにはならなかったかもしれないな。」
馬車の音にかき消されるくらい小さな声でアシルはつぶやいたが、聞き取れず言葉を返すことはできなかった。