回避方法を考えましたが無理でした
朝時間通りにギルドに到着するとすでにアシルもライリー様の馬車も到着しており、私が最後だった。
貴族との約束なので、時間よりとてつもなく早く着いて待つのが常識だったかもしれない。
「ごめんなさい!遅れました!」
「お前なぁ」
「大丈夫、時間通りだよ。さあ乗って。」
毒づくアシルを尻目に促された通りに馬車に乗り込む。
馬車は2台来ておりライリー様は別の馬車に乗り込んだ。
馬車は貴族用と言うこともありとても乗り心地が良かった。うちの布団もこれくらいふかふかだったらなぁと思いながら乗っていたけど、正面に座るアシルは不機嫌そうに外を見ていた。
「アシルどうしたの?」
「血筋とは言え内緒なんだろ?魔法のこと。」
アシルは約束を覚えていてくれた。
「内緒にするならどうやって説明するんだよ。」
「確かに…どうしよう…」
考えを巡らせるも逃げ場がない、という結論にしか辿りつかない。
「言うしかないんじゃねえの?」
「でも…」
「なんで言いたくねえの?すげーじゃん。魔法使えるなんてさ。」
平民からしたら魔法は憧れなのは確か。
魔法が使えるだけで平民から貴族になることも夢ではない。だからこそ隠すなんて考えもつかない。
「だって…魔法が使えるってわかったら魔法学校に行かないと行けなくなるかも知れないじゃん?あの村が好きだから離れたくないんだよね。」
「あー、確かに。俺も嫌だわ。」
理由は嘘ではない。
アシルは私の説明に納得した表情をする。
「まあ話を聞いてからじゃないと色々わからねぇか。何かあったら俺も言うよ。」
「ありがとう、アシル。」
会話少なく馬車は屋敷に向かった。
その間アシルは不機嫌そうに外を見ていて、私は不安でずっと下を見ていた。
しばらく走ると馬車が止まりドアが開いた。
「すごい…」
ゲームで見ていたとは言え、実際に見るライリー様の屋敷はとても大きくて綺麗で迫力があった。
色とりどりの花が咲き乱れ、テーマパークと言われれば納得できるような華やかさ。
先に降りたアシルに手を引かれて馬車を降りると正面にはライリー様が立っていた。
「長い時間申し訳なかったね。ではこちらに。」
促されるように屋敷に入るとこれまた煌びやかな室内で目がチカチカした。
敷かれている絨毯1枚で我が家を買ってお釣りが来そうな豪華さ。
一歩屋敷に踏み入れれば執事達が深々と頭を下げて挨拶をしてくる。
「あんまりキョロキョロするなよ、恥ずかしい。」
「だって…」
物珍しさに見渡してしまう。平民丸出しだったかもしれない。
「ではこちらに。」
ライリー様について行き応接室のようなところに入る。
着席するように促されるも座り方もわからずアシルの座り方を真似て座った。ひとつひとつにドキドキが止まらない。
正面にライリー様、右隣にアシルが座り「では本題に」とライリー様が話し始めた。
「ここまで来てもらって申し訳なかった。私はライリー ノーマンだ。よろしく頼む。」
「ノーマン様、よろしくお願いします。」
慌てて頭を下げるとライリーは笑った。
「そんなにかしこまらなくていいよ。楽にしてくれ。」
優しさの押し付けとも思える無理難題を言われ笑顔が引き攣ってしまう。この状態で楽にできる平民がいたら名乗り出て欲しい。
「では率直に聞く。この魔法石を作ったのはリサなんだね。」
逃げられない位のど直球。
まっすぐに見つめられ目線さえも逃げられない。
「はい、そうです。」
「作り方は大体想像出来ている。光魔法だね?」
「…はい。」
自白するしかなかった。
緊張と不安で涙目になってしまった私を見てアシルが会話に入った。
「リサの両親も変換の魔法が使えたんです。平民でも変換の魔法を使える人は少ないですがいるのでその影響かと思います。」
「変換は確かに一定数いる。だが光魔法となれば話は別だよ。」
相手は未来の大魔導士。こんな簡単な言い逃れは通用しなかった。むしろ言い逃れですらなかったかもしれない。
「光魔法となれば国が管理しないといけない。リサ、一度君の魔力量を量らせてくれないか?」
「ま、魔力量!!??」
これはやばい。
このゲームはイベントや日常パートで魔力量を増やしていくタイプのゲームだけど、ヒロインチートによって初期からある程度魔力量を保有している。
さらに魔力量を量る時、どの種類の魔法がどれくらい魔力保有しているか、という風に見られてしまうため隠していた治癒魔法もバレてしまう。
「あの、その、そう言うのはちょっと怖くて遠慮したいなぁって思ってるんですが…」
「それは出来ない。」
「デスヨネー…」
食い気味に断られ、力無い返答しかできなかった。
ライリー様は手で合図すると、ボーリングの球位の水晶が運ばれてきた。
「ここに手をかざして。」
もう逃げられない。
私は意を決して水晶に手をかざすと水晶から眩い光が発せられた。