懐かしい歌声と
「私寮移転の手続きに行ってきます。」
「リサ様また後で。」
レーイ様とアーヤ様がまた小走りで寮に入って行った。
「みなさん一緒じゃなくてもいいのですか?」
「特に決まりはない。一緒にいるのもただの仕来りだ。」
仕来り。この言葉で以前第三夫人に誘われたことを思い出して身構えてしまった。
「なんだよ急に。」
「仕来りという言葉でちょっと思い出してしまいまして…。」
「その話はもういい、一旦忘れてくれ。」
ヴィハン様もやりとりを思い出したのかため息をついた。
「俺は用事があるから部屋に戻るわ。今度会いに行く。またな。」
ヴィハン様は体を翻し寮に歩いて戻って行く。途中こちらを振り返る事なく手だけ振って挨拶をしてくれた。
女子寮に男性であるヴィハン様は原則入れないはずだけど、ヴィハン様なら来そうな気がして不安だけが残った。
ヴィハン様と別れたあと、周辺を散策した。
薬草になりそうな畑があったり、馬小屋があったりと広大な敷地に色々なものがあり楽しめた。
日も暮れそうだったので寮に戻ると丁度入り口にはレーイ様とアーヤ様がいた。
「今日からこの寮に入れる事になりました。」
「リサ様と御一緒できて嬉しいです。」
可愛らしく微笑む2人。かわいすぎて抱きしめたくなったけれど衝動を抑えることができた。
2人と話していると丁度シェリル様も帰宅時間だったようで寮に入ってきた。
シェリル様は2人を見るなり驚いた様子。
「なんで双子がいるの?」
「今日からリサ様と一緒の寮になったんです。」
「シェリル様もよろしくお願いします。」
「えぇ…」
あからさまに嫌そうな顔をするシェリル様。
シェリル様はお二人が好きではないのかしら。
そんなシェリル様の態度を気にせず2人は私の左右の手を取り歩き出す。
「リサ様、そろそろお夕食です。」
「一緒に行きましょう。」
「は、はい。」
強引に引っ張られ一緒に行くしかない。
その様子を見てシェリル様は不機嫌そうな態度になった。
「いつになったらリサと話せるのよ!」
シェリル様はそんな私達を追いかけるように食堂に向かった。
食堂では左右に双子、前2人がシェリル様とクロエ様という豪華な配置になってしまった。
運ばれた料理を嬉しそうに食べるレーイ様とアーヤ様。
正面のシェリル様は相変わらず不機嫌で、クロエ様はいつもと変わらぬ様子だった。
「クロエ、なんで双子までいるのよ。」
「王族寮から移動するのは問題のない行為です。」
「ルールはいいの!問題はそこじゃ無いでしょう?クロエだって困るんじゃ無いの?」
クロエ様とシェリル様は何か揉めているようだったけれど、何で揉めているのかはわからなかった。
レーイ様とアーヤ様は2人のやりとりを気にする事なく話しかけくる。
「リサ様これ美味しいですよ。」
「こちらは何という料理かご存じですか?リサ様。」
「この料理はちょっと辛いです。」
「リサ様は辛いものはお好きですか?」
しきりに話してくる2人をみると妹達に引っ張りだこになっている感じがして悪く無い。むしろいい。
ライリー様もいつもこんな感じで私のことを想っているのかもしれない。
賑やかな食事も終わり、それぞれ自室に帰る時間。
「リサ様また明日。」
「明日もリサ様とお会いできる日を楽しみにしています。」
「リサ、明日こそ話そうね。」
「リサ、おやすみなさい。」
4人に見送られ食堂を後にし、部屋に入った。
「疲れた…」
ベッドにそのまま倒れ込むと前日の寝不足からすぐに寝てしまいそうになる。
夢なのか現実なのかわからない間の感覚の中、少しだけ空いた窓から優しい風と歌が流れてくる。
風がカーテンを優しく揺らしながら懐かしい歌声が私を包み込み夢の中に連れて行った。