王族の行動力
「そんな予定は聞いていない。」
「突然来られてライリー様お話ししたいとのお申し出でして。リサ様と出掛けてられているとお伝えしたのですが、リサ様ともお話しされたいと…」
従者は想定にない来客だったので困り焦っていたのだと思う。少し息が切れていた。
ライリー様は深いため息をついた。
「わかった。リサ行こう。」
「はい。」
ライリー様に連れられ、応接室に向かう。
ルイ様とクロエ様はどんな用件で来られたのか見当もつかない。
何を言われるかわからない不安を抱えたまま、応接室に着いた。
「リサおかえり。」
いつもと変わらない様子のルイ様が手を振って挨拶をしてくれた。
隣のクロエ様は黙ったままこちらを見ている。心なしか少し怒ったような様子だった。
考えてみればダンジョンに落ちてしまった時、クロエ様を巻き添えにしてしまった。
さらに魔法が使えないとわかっていたのにも関わらず、1人で助けを呼びに行かせてしまった。
未来の王妃なのだから、平民の私が命を投げうってでも護衛しながら逃げないといけなかったかもしれない。
これだ。絶対にこの件だわ。
心当たりを見つけてしまい汗が止まらない。
私が立ち尽くしていると、ルイ様が声をかけてくれた。
「リサ、座って。ライリーも。」
促されるようにソファに座るも汗は止まらない。
「今日は何の要件だ、ルイ。」
要件のわからない来客に少し苛立つように話しかけるライリー様。
「急でごめんね。今日はリサのことで来たんだ。」
やっぱりそうだ。クロエ様を傷付けた件だ。
唐突な死罪ENDかもしれない。死罪じゃなくても逆弾糾ENDかもしれない。そんなエンディングがあったかはわからないけれど、この雰囲気はそんな感じはする。終わった。短い人生だった。
「まずリサ、ケガの具合は大丈夫?」
「ダイジョウブデス」
ルイ様にケガの確認をしてもらうも、目の前にチラつくBAD ENDが気になりすぎてちゃんと返事ができない。
「本当に不運だったね。でも大事にならなくてよかった。それにリサが命を張ってクロエを守ってくれたんだってね。クロエから聞いたよ。ありがとう。」
ルイ様が座りながらも深々と頭を下げてくださるルイ様。
「本当にありがとう。リサがいなかったらどうにかなっていたわ。」
「そんな!こちらこそ巻き込んでしまって申し訳ありません!」
クロエ様にも頭を下げられ慌てて自分の頭も下げる。
バッドエンドではない?ただお二人はお礼を言いに来てくださったの?
なかなか用件が見えて来ずもどかしい。
「要件はそれだけなのか?」
未だ苛立っているライリー様が再度用件を確認してくれた。
「怪我の確認やお礼も用事の1つだけど、メインはこっちかな。端的に言うとリサには寮に引っ越してもらおうと思って。」
「は?」
ルイ様が突飛なことを言い出した。
それに対してライリー様は苛立ちを通り越して怒りを露にしている。
「ライリー、君も知ってると思うけど、学園にはリサのことをよく思っていない生徒がいるんだ。」
「だからなんだ。それが寮とどう繋がる?そう言うやつは個別に対応していけばいいだろう?」
「個別に対応するとそれはそれで問題になるんだよ。わかるだろ、ライリーも。それにあの学園は実質グルラン家のものだ。リサの管理をうちに任せてもらって、リサを問題なく外野から守りたいんだ。うちが管理してるとわかったら悪く扱うやつはいなくなるだろ?」
「断る。」
ライリー様の即答にため息をつくルイ様。
「申し訳ないけど、これはお願いではなく『決定事項』なんだよライリー。」
「だが!」
「あまりこう言うことは言いたくないんだけど、グルラン家がそう決定したんだよ『ノーマン』。」
「くっ…」
あえて『家の名前』を言うことで上下関係を再確認させ、逆らえなさを主張するルイ様。
ライリー様も王族であるグルラン家の決定事項とわかり逆らえないと理解したけれど、面白くないようで苛立ちが止まらない。
「ライリーがリサを守るためにこの家に引っ越させたのも知ってるよ。その手間を無駄にさせてしまったのは申し訳ない。けれど今後のことを考えるとこの判断が最善の判断だと思っている。」
ルイ様は引っ越しのことも知っていた。どこからそのような情報を仕入れてくるのだろうか。
「リサもごめんね。でもリサの力や今後の身の振り方を考えるとこれが1番いいと思って。」
ルイ様が申し訳なさそうにお詫びをしてくれた。
自分のことなのに自分で何一つ決められないのは少し思うところもあるけれど、確かに一部の生徒から反感を買っているのは事実…ってあれ?ルイ様が守ってくれるという事はあのいじめはクロエ様の取り巻きじゃなかったの?じゃあ他の婚約者達のどちらか?
情報量が多すぎて混乱してしまう。
「リサには遠くから来ている生徒のための寮に入ってもらうよ。そこなら侍女の部屋も用意できるから不便はないだろうし、何かあれば俺も介入できる。」
「その寮とはヴィハン様達がいらっしゃる寮ですか?」
以前ヴィハン様達は寮にいると聞いた。同じ寮なのか気になってしまう。
「ヴィハン達は王族だから特別棟だよ。リサには一般の女子寮に入ってもらう。あとクロエも女子寮に入ってリサをサポートするよ。」
「ええっ!?」
引っ越しだけでも驚くのにクロエ様の入寮。しかも私のサポート。どう言うこと?
「これはクロエの希望でもあるんだ。クロエが近くにいれば反感の行動もさらに少なくなるだろうしね。」
「私なんかのためにそれは申し訳なさすぎます。」
「ルイ様の言う通り私の希望でもあるの。気にしないで。」
「はい…」
若干圧力のある『気にしないで』に逆らうことができず了承の言葉を返してしまった。
「リサには力があるから、これからのことを考えると何処とも軋轢がない方がいいと思うんだ。前みたいにリサのことをよく思わない生徒がいたら教えて欲しい。」
「わかりました。ありがとうございます。」
「あと…」
ルイ様の目線が私からライリー様に変わった。
「ライリーが入寮しようとしても無理だからね。これは先に言っておく。女子寮だから。」
どうやらライリー様が考えていたことを先に否定されたようで、ライリー様は小さく舌打ちをした。
「明日学校でリサがうちの管理に置くことを周知するよ。名前は前の名前に戻してもいいし、グルランの名前でもいい。何がいい?」
確かにライリー様の管理下で無くなるなら変えないといけないのかもしれない。しかしヤッマーダは絶対に嫌。だからと言って王族の名前をお借りするのは恐れ多すぎて押し潰されそう。
私が悩んでいるとライリー様が会話に入ってきた。
「名前だけでもうちを残して欲しい。リサはこれから王族の管理下に置かれるかもしれないが、能力的に将来魔法省に来てもらう可能性もある。だからこそうちの管理下でもあることは周知させておきたい。」
「うーん、まあいいか。わかったよ。名前はいつでも変えられるしね。リサもそれでいい?」
「問題ありません。」
1番いい結果だったかもしれない。
けれどこの世界は簡単に名前が変更できるのね。気軽さが前に世界と違って戸惑う。
「リサ色々ありがとう。今日はバタつくから荷物は明日移動させておくよ。」
身分に高い人はどうしてこんなに行動力があるのかしら。引っ越しとは2ヶ月くらい前から準備するものではないのかしら。
「今日の話はこれでおしまいかな。じゃあ帰るね。またねリサ。」
「ではまた明日。」
話終わるとルイ様とクロエ様は挨拶をして早々に退室してしまった。
残されたライリー様は苛立ちを隠せず拳が強く握られていた。
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