未来の王妃はヒロインを想う -クロエ-
後日魔法省のイーザックと名乗る男と会うことができ、ぬいぐるみを見せた。
「これを見て頂きたいのです。」
「クロエ様これは…」
ただのクマのぬいぐるみを見せられ困惑するイーザック。
「このクマのぬいぐるみは以前光っていたのです。原理はお分かりになりますか?」
「ほう、光っていたとな。どれどれ。」
クマのお腹を押したり撫でたりして形状を確認する。
「これは中に魔法石が入っているのですね。きっとその魔法石が光っていたのでしょう。しかし2つ入れて反発させたとは考えましたな。」
「これと同じような原理で街灯を作れないかしら?」
「街灯…?」
「えぇ、街灯よ。今街にある油式の街灯は安全面と明るさに問題があると思うの。このぬいぐるみと同じ原理でより長く照らすことができるのならどちらも解決する気がするわ。」
「ほう、確かに。」
油式のランタンによる火災はこの街の課題でもあった。
それが解決するとなるなら魔法省としても検討する余地はあるはず。
「開発や普及に関しての費用はベルナール家が持ちます。お願いできるかしら。」
『未来の王妃としての振る舞い』になら使えるお金をある程度持っている。本来ならドレスや装飾品に使うモノだけれども、街のために使うのも『未来の王妃としての行動』として認められると思う。
「未来の王妃様の御命令でしたら断れませんね。」
イーザックは笑顔で引き受けてくれた。
開発が成功すれば夜道の暗闇を怖がる人は少なくなるかもしれない。
そして開発者のリサが私にコンタクトを取ってくれるかもしれない。
その時なんて言うのかしら。喜んでくれるかしら。それとも案を盗んだと怒るかしら。
まだ見ぬリサに期待が膨らんだ。
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月に一度の婚約者と過ごす日。
いつもと変わらず会話なくテラスでお茶を嗜んでいると、ルイ様が珍しく声をかけて下さった。
「最近何か開発に投資したらしいね。」
「はい、街灯を新しくしようと思っております。」
「街灯?」
「はい、火災になりにくく明るさが増すようなものがあれば街もよりよくなるかと思いまして。」
「ふーん、珍しいね。クロエがそんなこと考えるなんて。」
確かに珍しい。と言うより初めてだと思う。自分が王妃になる以外の行動を起こすのは。
「でもいいんじゃない?支持率上がりそうだし。まあ頑張ってよ。」
「ありがとうございます。」
「あと街灯で思い出したけど、お祭りの時に光るおもちゃを売ってた女の子の方、今ライリーの所にいるらしいよ。」
「え?」
思いがけずリサの情報を手に入れてしまった。
リサが王都にいるなんて。
「俺が迎えに行きたかったのになぁ。失敗したよ。」
「ライリー様のところで何をされているのですか?」
「魔力が強いから学園に入れたいけど、今のままじゃ無理だからそれまでの準備だってさ。」
学園に入る?リサが?会えると言うこと?
今まで感じたことのない感情。
『ワクワクする』と言うのはこういうことかしら?
「ねえクロエ。」
「はい。」
「何笑ってるの?」
ルイ様に指摘されて初めて気づく。
私が笑っている?
ワクワクして?会えるかもと言う期待?
「クロエが笑ってるの初めて見たよ。」
ルイ様はそう言うと紅茶を飲み、また無言になった。
私は自分の顔がおかしくないか気になったけど、リサと会えるかもしれないワクワクは止められなかった。
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寝る前にクマを見て思う。
最近私は変わってしまった、と。
前は王妃になることしか考えなかったのに、今はリサのことで頭がいっぱいになっている。
リサの村に行った時に、リサがいなくなってしまったことを殆どの人が嘆いていた。彼女がとても皆から愛されていたことがわかった。
私は一回しか会っていないけれど、リサのことは表情がコロコロ変わる可愛らしい女の子だったと思っている。
では私はどうなんだろう。皆に愛されているのでしょうか。いなくなったらリサのように嘆いてくれる人はいるのでしょうか。
きっといない。
いなくなっても誰も悲しまない。
笑うことも知らない形だけの王妃。
空の王妃。
もしかしたらリサの方が王妃として相応しいのかもしれない。
少しずつ、私の中のワクワクが違う形になっていく。
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