理由不明の高感度上昇
「いたたたた…」
前日大盛況すぎる屋台を終わらせ、今まで溜まった疲労もありアシルからの打ち上げの誘いも断りすぐに就寝してしまった。しかし粗末すぎるベッドのため今日も腰痛で起床した。
「お給料が入ったら布団買いたいなぁ。」
ベッドから出て伸びをする。
明らかに疲労が取れておらず浮腫んでいる感じがする。
昔から疲れると浮腫みやすく、疲労maxになれば顔も浮腫む。
「浮腫んでるんだろうなぁ、やだなぁ」
少し空いた引き出しから見える鏡で顔を確認しようと鏡を手にしたが、すぐにそれは鏡ではなく、好感度チェッカーだったことを思い出す。
「顔が見えない鏡なんて意味ないじゃん。」
しまおうとした時、鏡面が目に入った。
「え?」
そこには
『クロエ:80』の文字が書かれていた。
「は、はちじゅう!!??」
このゲームにおいての好感度は最大100。80もあれば個別ルートに入れる。
しかもクロエ様は昨日不快感を露わにしていたはず。それなのになぜ80という数字になっているの?
「なんで?どうして?」
クロエ様は昨日のやりとりで何に好感を持ったのか。
貴女が嫌っていた平民のお店ですよ?しかも子供用のおもちゃですよ?婚約者様のプレゼントもお断りなさいましたよね?何がどうして貴女に刺さったのかしら。
オドオドした平民感がよかったの?それともくまちゃん!くまちゃん好きなの!?
考えれば考えるほど好感度に繋がる物が見当たらない。
「もしかしてこれ、壊れてるの?」
好感度チェッカーを振ってみるも表示は変わらず。
そもそもこれは本当に正しく動いているかも怪しい。
人の感情を読み取る魔道具なんて開発されていないはず。そう考えればこの鏡は何で動いているのかわからない。
考えれば考えるほど答えに辿り着く気配はなく、最終的に考えることをやめて朝食を取るという現実逃避を行なった。
朝食を済ませた後、アシルとギルドで落ち合うことを約束していたことを思い出し向かった。
村は祭りの余韻がまだあり、朝から活気があった。
「おはようございまーす。」
「リサいらっしゃーい。」
ギルドも活気に溢れており、ギルドと並列している酒場で昨晩から飲んでいる客も大勢いた。
その中にアシルもいた。
「アシル!帰ってないの!?」
あの疲労感から徹夜出来るなんて社畜の鏡だわ。
「祭りだしな。」
返ってきた言葉には明らかに疲労感が出ていた。
「帰りなよ。体壊しちゃうよ?」
「そうだそうだ、リサちゃんからも言ってやって。」
どうやら周りの人が帰るように促したが帰らなかったよう。
「こいつも色々思う所があるみたいで飲まずにいられなかったらしいぜ?」
「いっそリサちゃんが送ってやりなよ」
「担ぐのは無理だけど付き添いなら…」
確かに一晩中飲んでいたのなら誰かが付き添った方がいいはず。周りの提案に同意した。
しかし
「いい、1人で帰る。」
とアシルは少し拗ねたように言った。
「送るよ。心配だし。」
「いい、それより給料の話だろ?」
「そんな状態じゃ話せないよ。体力が戻ったら話そ?私急いでないから。」
「いいんだよ、お前に心配なんかされたくない。お前の方が心配だ。」
雲行きが怪しくなってきた。
アシルはからみ酒なのかもしれない。
「お前は誰にでもいい顔する。誰でもいいのか?」
えぇ…ちょっともう何言ってるかわからない…
「昨日だって王子にデレデレしてた。」
どこをどう見たらそうなるの?
その場面は恐怖でいっぱいだったのに。
「王子みたいなやつがいいんだよな、お前」
断固違うと主張したい。
王子と関わらないために頑張ってるんですが。
「ヤッマーダなんて変な名前じゃなくてグルランになりたいんだよな。そうに違いない。リサ グルラン。いいんじゃねーの?」
アシルが顔を突っ伏した。
ヤッマーダの名を捨てたいのは正解です。
からみ酒状態のアシルを見て、周りはクスクスと笑っている。
「昨日リサちゃんにいい格好しようと思ったけど王子に取られちゃった気がしてヤキモチ妬いてるんだってさ、こいつ。」
「慰めてやんなよ。」
「えぇ、取られたも何もないよ。アシルだっていっぱい来たお客さんを捌いてカッコよかったよ。私1人じゃ無理だったもん。」
「ほんとに?」
アシルの顔が突っ伏した状態から少しだけ上がった。口はへの字に曲がっている。
「ほんとほんと。さすが商人の跡取りだと思ったよ!」
「ほんとに?」
「アシルがいなかったら昨日辛くて泣いちゃったかも」
褒めちぎるとへの字に曲がったアシルの口が弧を描くように笑顔になった。
「じゃあちゃんと帰る。」
少し子供っぽさを残した話し方だが、帰ることに同意してくれホッとした。
「一緒について行くよ。お店の話はまた明日しよ?」
「…わかった。」
付き添いもリスケも同意してくれた。
周りもクスクスと笑いながらも「気をつけてねー」と手を振ってくれた。
「女主さんまた明日くるね!」
「アシルを頼むね!」
女主さんにも挨拶し、ギルドを出ようとしたその時
「ここのマスターはいるか。この魔法石を作った人を探している。」
ローブに身を包んだ男がギルドに入ってきた。
そこには昨日売ったおもちゃの剣が握られており、男は話終わるとローブのフードを外した。
攻略対象の1人、ライリー ノーマンだった。