初のイベントをどう乗り越えるか
集中できないままホームルームが始まった。
出席も何度も名前を呼ばれないと気が付かない位、先程言われたことが気になって仕方がなかった。
『まあね。でもリサとも付き合い長い気がするんだけどなぁ。覚えてない?』
『出店の時ですか?』
『もっと前だよ。思い出してほしいなぁ。』
2年前よりずっと前。
しかし村に王族が来たことなんて今まであったかしら?
思い出そうとしても何も出てこない。
もしかしたらライリー様の言う通り、本当にからかわれているだけなのかも?
でもルイ様の言葉から、からかっている『だけ』には聞こえなかったような。何か本当の事も入っている気がする。
腕を組んで悩み続けていると、自分の名前が呼ばれていることに気付く。
「リサさん、聞いてますか?」
「は、はい!」
ホームルームは終わりすでに授業が始まっていた。
どうやら今日の授業は少し先で行われるオリエンテーションの説明だった。
このオリエンテーションはゲームのイベントにもなっている。
新入生の交流もかねているイベントだけど、ゲーム上ではヒロインが魔法石を拾いに1人でダンジョンに入って、いるはずのない魔物と戦うというゲームイベントだった。
このゲームの難しさは、戦闘イベントではなくキャラ毎の好感度バランスに比重を重くしているため、ダンジョンイベントは序盤に集中して魔法能力を育成して、一通り魔法が使えれば問題ない。
でもそれは使えれば、の話。
私は魔力を多く持っているけど、変換や生活の為に使う魔法しか使ったことがない。
ましてや今回相手は魔物。攻撃魔法が必須になる。どうしよう。どこかで練習しなければ。
ゲームでのヒロインは寮に下宿し、自由時間として放課後に魔法のレベル上げをするかキャラの好感度を上げるかの2択ができていた。
でも今の私は放課後ライリー様に家まで送ってもらい、本を読んだり、ライリー様のお家に遊びに行ったりと、何も魔法の練習をしていない。
たった数日ではあるかもしれないけど、この数日はゲームにおいて大きく影響する。
来る初イベントのために今日は帰ったら必ず魔法の練習をしようと固く心に誓った。
学年授業が終わると次は専科の授業になる。
急いで魔道具のクラスに行こうとしたところでルイ様に捕まってしまった。
「リサ思い出した?」
「いえ…申し訳ありません。」
本当に思い出せなかった。
謝るしかない。
「そうか、残念だな。」
寂しそうな顔をするルイ様。
からかっているようには見えない。
「恐れ入りますが何年前のことでしょうか?」
「それはリサに思い出して欲しいな。リサと約束したしね。」
約束?何の約束をしたの?
過去の私はなんて無責任な約束をしてしまったのかしら。
「じゃあ行くね。またね。」
私の頭をポンポン叩いたあとルイ様はご自身の専科に行ってしまった。
私も自分の専科に行こうと思い、歩き出そうとするとまた引き止められた。
「何を話していたの?」
ライリー様だった。
「さっきの昔話が思い出せない、という話です。本当に思い出せなくって…」
「気にすることはないよ。」
「でもルイ様はからかっているだけって感じじゃないんです。何か約束も交わしてたみたいですし…」
私が話しているとライリー様が私の腕を掴んだ。
「本当に気にすることはないよ。約束があったとしても昔のことらしいしね。大した約束じゃないんじゃない?」
腕を掴むライリー様の手が強くなる。
そしてもう一方の手で私の頭を撫でた。ルイ様がポンポンしていた場所と同じだった。
「それより…」
ライリー様が続けて話そうとした時チャイムが鳴った。
専科の始まりを知らせるチャイムだ。
そのチャイムに気付きライリー様の手が少し緩む。
「あ!遅れちゃう!ライリー様も急ぎましょう!ではまた!」
私はライリー様の腕を振り解くと走って魔道具クラスに向かった。
急いで出ていったので、ライリー様がどんな表情をしていたか見ることはできなかった。