王子とヒロインの過去
39部の続きです
馬車が学園に着き、教室に向かう。
今日もクラスメイトは私にだけ挨拶をしてくれない。
流石に慣れて来たけど、慣れるのも悲しい。
悲しい気持ちを抑え自分の机に行こうと目線を机に方に向けると、隣の空席には意外な人が座っていた。ルイ様だった。
「ルイ様、何かご用事ですか?」
慌てて近づいて要件を聞く。
「特に用事はないよ。たまにはリサと話そうかなと思って。」
プリンススマイルで答えてくれた。
ルイ様が眩しい。神々しさで目が潰れそう。
でも困った。話そうと言われても私から話す用事はない。
ここで面白い話でもできればいいのだけど、そういった類いのものは持ち合わせていない。
とりあえず自分の席に座り荷物を置きながら話題を考えてみるけど出てこない。その間ルイ様はずっと私を見ている。
「何か変なところがありますか?」
マナー的におかしなところがあったのかしら。マナーの鬼であるイヴの顔がちらつき不安で聞いてしまう。
「いや、ないよ。今日もかわいいなと思って。」
「えっ」
突然の褒め言葉に顔を赤くしてしまう。
「耳まで真っ赤。かわいいね。」
「からかわないでください!」
私の頭を撫で、耳まで触る。
血がどんどん顔に集中していくのがわかった。
「からかってるつもりはないよ、思った事を言ってるだけ。」
クスクスと笑いながらルイ様は私の頭を撫でていたけど、その手はすぐにライリー様の手で止められてしまった。
「リサをからかわないでくれ。」
「からかってなんていないよ。いつも独占してるんだから少しは貸してくれない?」
「ルイの頼みでもそれは断る。」
「ふーん」
2人の雰囲気がピリついている。
ルイ様の口は笑っているのに目が笑っていない。
ライリー様はいつもの不機嫌顔になっている。
これはどうみてもルイ様は面白いおもちゃである私をからかって遊んでいて、ライリーは仮想シスコンを拗らせすぎている。
ただそれだけなのだから2人とも落ち着いてほしい。
何か話題を変えようと、新たな話題を探るためにクラスを見渡す。
そういえばいつもならそろそろ来ているはずのヴィハン様達が来ていないことに気づく。
「今日、ヴィハン様たち遅いですね。」
ルイ様に話題を振ってみる。
ピリついた空気が収まりますように。
「何か自国で式典があるみたいだから休みと聞いているよ。」
先程の目だけ怖かった表情から、はじめのプリンススマイルに戻って来てくれた。よかった。
「ルイ様とヴィハン様は昔からお知り合いなんですか?」
「隣国だし一応ね。社交界で挨拶したり、互いの国の式典に出たり、それくらいの仲だよ。」
さらりと壮大な事を言われた。
ルイ様の日常は当然国家クラス。自分との身分の差を改めて感じた。
「昔からのお付き合いなんですね。」
「まあね。でもリサとも付き合い長い気がするんだけどなぁ。覚えてない?」
今度は上目遣いをされた。
私にゲームの記憶がなかったらイチコロだったに違いない。
私と長い付き合い?会ったのは14歳の時の出店が初めてだったと思うけど、2年くらいで長いって言うかな?
「出店の時ですか?」
「もっと前だよ。思い出してほしいなぁ。」
「そろそろリサをからかうのは本気でやめてくれ。」
ライリー様は少し低めの威嚇したような声を出した。
「自分が後から出会ったのがそんなに悔しい?ライリー。」
「そう言う事じゃない。リサが困ってる。」
「そんなに過保護じゃリサに嫌われるんじゃない?」
またも険悪な空気が流れる。
しかし私は険悪な空気より、2人の言っている内容の方が気になって仕方なかった。
2人の言っている事が本当にわからない。
出店の時よりもっと昔に出会っている?いつ?
幼少期といっても王族と出会っていれば平民にとってとんでもないイベントだから必ず覚えているはず。
でも私の記憶にはないと言うことはルイ様の勘違い?
思い出せず困惑していると先生が教室に入って来た。
ルイ様は「思い出してね。」と言って席に帰り、ライリー様は「思い出さなくていい。からかっているだけだ。」と言って席に戻った。
先生が出席を取り始めたけど、さっきのことが気になりすぎて全く耳に入らなかった。