物語のような恋
「リサ様、おかえりなさいませ。お荷物をこちらに。」
イヴが出迎えてくれ、促されるように荷物を渡した。
その荷物のひとつである本に気づくイヴ。
「こちらは…」
「ライリー様にお借りしたの。今流行ってると聞いて。」
「街でとても流行っておりますね。むしろ今更読むのは遅いくらいです。リサ様もやっと流行を感じられるようになったのですね。喜ばしいことです。」
最近のイヴは皮肉が多い。でも嫌な皮肉ではなく親しみやすい皮肉なため、言われてて悪い気持ちはしない。
「私も流行は気になりますよ?イヴはもう読んだの?」
「えぇ、拝読致しました。とても素敵なお話でした。そちらは新しいシリーズですが、宜しければ他のシリーズも全部持っておりますのでお貸ししましょうか?」
イヴの言葉に肩を落とす。
イヴが持っているのならライリー様から借りなくてもよかったのね。
「ありがとう。気に入ったらお願いしようかな。」
「かしこまりました。これから読書をされると言うことでしたらお茶をお持ちしましょうか?」
「そうしてくれると嬉しいわ。ありがとうイヴ。イヴはいつも優しいなぁ。」
「かしこまりました。」
イヴは荷物を部屋まで運ぶと一礼して退室した。
私は腰を下ろし読書を始めた。
ストーリーはよくある身分差の恋愛だった。
孤独に悩む貴族と、偶然出会った町娘が貴族の孤独を癒し愛し合うストーリー。当然身分差なので周りからの反対はあるものの、2人で頑張って乗り越えて幸せになる、というもの。
内容はよくあるストーリーではあったけど、描写が丁寧でリアル感があり心をときめかせる。
私は流れるようなストーリーに飲まれてしまい、休憩することなく2冊一気に読み切ってしまった。
読み切ったあと余韻に浸っていると、イヴが部屋に入ってきた。
「もうお読みになられたのですか?」
「えぇ、とても素敵なお話で一気に読み切っちゃった。」
「お気持ちわかります。でもくれぐれも夢をに過ぎないようになさって下さいね。あくまでも物語ですので。」
村娘と平民の私。
確かに本の主人公と立場が同じなので、素敵な話に夢を見るのではと思うのはわかる。でも現実はそうはいかない。自分の知っている貴族達は皆婚約者がいる。夢を見た途端に死罪や追放。それがなかったとしても学園でのいじめは待ったなしなのだ。いや、今もちょっといじめられてるけど。
「夢は夢のままでいるよ。私平穏に生きたいし。」
「そうでしたか。まあリサ様のポテンシャルでしたら夢を現実にするだけの力はないかもしれませんけどね。マナーが悪くてお貴族様も離れられるかと。」
少し微笑みながらイヴが言う。
「イヴ厳しい。もう少し夢を見させてよ。」
「夢見るために頑張ってくださいね。」
イヴは笑いながら飲んだ紅茶の後片付けをしていた。
次の日も当然のようにライリー様が迎えに来た。
ここまで続くと流石にもう驚きはしない。
促されるようにライリー様の隣に座り学園に向かう。
「本読んだ?」
「読ませて頂きました。素敵なお話でした。」
「そう、よかったね。どこが良かったとかある?」
顔を覗き込むライリー様。
お迎えは慣れたけど近距離は慣れない。やめてほしい。
「あの…主人公が名前も知らない公爵様に自分の村の話をして、公爵様の気持ちを和らげるところが良かったです。」
「俺もそこ、すごい好きだよ。」
まるで告白するように「好きだよ。」と言われ胸がドキッとした。
誤解しそうだからやめてほしい。
「リサは本みたいな恋愛したい?」
「憧れはしますが、物語は物語なので。夢だけで楽しみます。」
「そっか。別に夢にしなくてもいいと思うんだけどね。」
最後のライリー様の声はとても小さく、馬車の音にかき消され私の耳には届かなかった。




