過去の話とあったかもしれない幸せな未来⑦
「疲れた」
俺はギルドの酒場で一杯飲みながら疲労を口にした。
祭りまであと数日。出店を束ねたり、トラブルを解決したりと何かと忙しい日々を送っていた。
「アシルお疲れ様、こちらはサービスでーす。」
可愛らしいウエイトレス姿のリサが小皿に入った肉を持ってきて置いた。
どうやら収穫祭に向けて店の手伝いの練習をしているようだ。
「あぁ、サンキュー。」
素っ気なく返すのが限界だった。
何せいつもより短めで鮮やかなドレス、頭に飾られたリボン、可愛らしい足を際立たせる編み上げのブーツ。どこを切り取っても惚れる要素しかない。
可愛い。可愛すぎる。他のやつも見てるんじゃねえよ、みんな惚れるだろこんなの。なんでこんなリサを見せなきゃいけねえんだよ。こんな姿で祭り客を接客するなんて自殺行為もいいとこだ。今から止めるか?止めるしかないのか?いや、止めよう。無理だ。俺が心配しすぎて死ぬ。
「リサ…」
「リサちゃんかわいいじゃん!すごい似合うね!」
「ほんと見間違える!こんなリサちゃんに会えるなら毎日来そうだ。」
「本当に可愛くなったなー」
「えへへー」
リサに声をかけようとするが、俺の声を遮るように周りがリサを誉める。
そしてまんざらでは無さそうに照れるリサ。
俺だって言いたい。もっといい褒め言葉だって思いついてる。お前らが言うな。と言うか見るな。
「アシルも可愛いと思うよな、リサちゃんのこと。」
「いつもよりはな」
突然振られてまた素っ気なくしてしまう。罪悪感と後悔がひどい。『いつも可愛いけど今日の格好も可愛いよ』位言いたい。けど言えなかった。なぜ素直になれない。口だけちぎって捨てたい。
「アシルもありがとう!」
個別にお礼を言われてまた顔に血が上った。
今日も可愛い。好きすぎる。
節目がちにサービスされた肉を食べる。リサのことを考えすぎて味がしない。でもリサからもらった肉。美味しい。好き。
モソモソと肉を食べていると店のドアが開いて見慣れぬ顔が入ってきた。
トーマスだった。
「わ!リサじゃん!どうしてここにいるの?」
トーマスはすぐにリサを見つけると駆け寄った。
おい、近いぞ。
「トーマスさんいらっしゃい!収穫祭でお店を手伝うので練習です。」
「ほんと?リサちゃんが?大丈夫?」
「えー、トーマスさんも言うんですか?大丈夫ですよ!お皿割ったりしません!」
「そうじゃないよ。リサちゃんが可愛すぎて心配なんだよ。観光客にリサちゃんを取られたら俺嫌だなぁ。」
おいおいおいおい、俺の思ってることをなんでそんなにすらすら言えるんだ?お前は俺なのか?ってかさっきから近すぎるぞ。
「取られるってそんなー、私はずっとこの村で働きますよ。」
「スカウトとかそう言う意味じゃないんだけどな…まあいいや。」
トーマスの真意に気が付かないリサの言葉に困り気味のトーマスだったが、思い出したようにカバンから何かを取り出してリサに差し出した。
一輪の星形の花だった。
「リサちゃん、収穫祭の時少しだけ俺とデートしてくれませんか?」
トーマスの行動に周りが騒つく。そして皆の目線が一気に俺に向いた。
「え?ええ?」
思いがけないトーマスの誘いに困るリサ。
その表情を見た次の瞬間、俺は何も考えずにリサとトーマスの間に割って入ってしまった。
「は?誰お前。」
明らかな不快感を表すトーマス。
「いや、困ってるでしょ。」
「困ってるならリサちゃんが自分で返事するんじゃない?お前何?保護者なの?」
「保護者、ではない。」
「じゃあいいじゃん。リサちゃんどう?」
トーマスはめげずに俺を避けてリサを誘った。
「ご、ごめんなさい。仕事が多そうで抜けられそうになくって。」
「そうしたら祭りのあとはどう?待ってるよ。」
「えぇ、どうしよう…」
「じゃあ楽しみにしてるから。迎えに行くね。」
トーマスは強引にリサを誘うと花をリサに渡して店を出て行った。